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「この世界の片隅に」
小口出資者が感動拡散

「この世界の片隅に」<br />小口出資者が感動拡散
(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 アニメ映画「この世界の片隅に」がヒットを記録している。インターネットを通じて小口資金を募るクラウドファンディングで制作費を集めたことでも話題を呼んでいる。短文投稿サイト、ツイッターのつぶやきでもこれまでの映画とはひと味違った特徴が浮かび上がってくる。

 「この世界の片隅に」は東京テアトルの配給で、原作は広島生まれのこうの史代さんの漫画。太平洋戦争のさなかに広島に住む女性を描いた。

 小規模公開から始まった映画としてはヒットと言える。上映する劇場は1週目は全国63館だった。2週目に5館加わるなど増えており、東京テアトルの赤須恵祐・映画営業部部長は「(2017年)年明けまでに150館での公開が決まっている」と話す。興行収入も現在の3億円超から伸びていく。

 ホットリンクは2016年10月30日から11月27日までの日本語のツイートを分析。約1カ月の投稿件数は75万8617件だった。同社は「当初の公開規模から考えると高い水準」と受け止めている。男性からが8割近くを占める。

昭和20年前後の広島・呉を舞台に生きる女性の日常を描く((C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会)

 東京テアトルの赤須氏は「SNS(交流サイト)で口コミが広がっている」と話す。片渕須直監督がツイッターで積極的に情報発信していることも大きい。

 ツイート件数が最も多かったのは公開初日に当たる11月12日の約5万8000件だった。その後も1日当たり3万件を超えるツイートがコンスタントに続いた。同じアニメ映画ということから、興収が194億円超で宮崎駿監督の「もののけ姫」を抜いた「君の名は。」と一緒につぶやく人も多かった。

 「この世界の片隅に」の特徴は何といっても、サイバーエージェント・クラウドファンディング(東京・渋谷、中山亮太郎社長)のサイト「マクアケ」で制作費の一部を集めたことだ。

 真木太郎プロデューサーは「企業からの資金調達が難航していたのでクラウドファンディングを使った」と話す。実際に3374人から3912万1920円を集めて、出資企業を募るためのパイロットフィルムを制作した。赤須氏は「参加した人が感動を拡散している」と分析する。

 それはツイートの内容にもあらわれている。出資者とみられる人から、「クラウドファンディングで出資したのがちゃんと完成まで行ってくれたというだけでもうれしいものがある」というつぶやきがあった。

 11月21日から同22日にかけてもツイート件数が伸びた。理由は海外での配給を受けて、片渕監督が海外に出向く費用を22日にクラウドファンディングで募ったためだ。わずか11時間で目標額の1080万円に達した。クラウドファンディングが映画の作り手と観客の距離を縮めており、ヒットの一因になったようだ。

 今や映画のヒットにSNSをはじめとしたネットの力は欠かせない。「この世界の片隅に」のヒットは、ネットが広告・宣伝だけでなく、資金調達にも大きな役割を果たせることを証明した。映画の中身がよいことが大前提だが、こうした映画が次々に出てくる可能性がある。

 クラウドファンディングはネット経由でアイデアの賛同者を幅広く募り、小口資金を集める。与信管理を徹底する銀行では融資が難しい事業を実現したり、商品を作る前に購入客を募ってリスクを抑えたりできる。
 資金提供に見返りを求めない寄付型や、見返りに金銭以外の物品などを受け取る購入型といった分類がある。日本にはサイバーエージェント系の「マクアケ」やエクスチェンジコーポレーションの「アクシュ」が有名だ。矢野経済研究所によると2015年度の国内市場は363億円だった。
 クラウドファンディングで新規事業を軌道に乗せた事例もある。サバすし製造の鯖や(大阪府豊中市)は、14年開業のサバ料理専門店の出店費用を募集。全国のサバ好きから約1800万円を集めた。1号店の成功で勢いをつけ、今では国内外に11店舗まで事業を拡大した。
 ニッチなアイデアでも、大勢に訴えれば賛同者は現れる。開発経緯などを細かに伝えながらの資金調達は広告宣伝の一環にもなる。クラウドファンディングはネット社会ならではサービスだ。

(企業報道部 新田祐司、山端宏実、広沢まゆみ、花田亮輔)[日経産業新聞2016年12月2日付、日経電子版から転載]

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