メガバンク~待遇は高め 国際競争が激しく
学生のための業界ガイド2017(8)
「日経カレッジカフェ」が就職活動の参考になればと連載する業界研究。今回は巨大な金融グループ「メガバンク」を取り上げましょう。メガバンクは都市銀行、長期信用銀行などが再編を繰り返して誕生。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3グループを指します。国内の貸出業務は利ざやが縮小し、国内外でのM&A(合併・買収)によって業容の拡大を急いでいます。
3メガバンク体制となって11年
現在の3メガバンクの体制ができて、すでに11年が経過しました。三菱UFJフィナンシャル・グループは三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などで構成。みずほフィナンシャルグループはみずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券などが主要メンバーです。また三井住友フィナンシャルグループは三井住友銀行やSMBC日興証券などで構成しています。
最大手は三菱UFJフィナンシャル・グループ
メガバンクのなかで、三菱UFJフィナンシャル・グループは最大のグループです。海外事業に力を注いでおり、出資先の米モルガン・スタンレーとの提携で投資銀行事業にも力を入れています。規模を示す総資産は298兆円(2016年3月末)に上り、他の2グループを100兆円以上引き離しています。純利益は15年3月期には、邦銀として初めて1兆円を突破して話題になりました。
みずほFGと三井住友FGが2位争い
かつての大手銀行3行(日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行)が経営統合して誕生したのが、みずほフィナンシャルグループ。「ワンみずほ」の掛け声のもと、グループの一体感を強めてきました。
三井住友銀行を中核とする三井住友フィナンシャルグループは、旧日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)を買収して証券業務を拡充するとともに、海外業務も強化。総資産はみずほに肉薄しています。「三井住友銀行とSMBC日興証券で顧客を紹介し合う双方向の銀証連携モデル」を推し進めています。
いずれのグループも、バブル経済の破綻や経済のグローバル化を経て、大型の再編を繰り返し、現在に至っています。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループはその名の通り三菱系の三菱銀行などを母体としていますが、過去をさかのぼれば、東京銀行、日本信託銀行、三和銀行、東海銀行、東洋信託銀行などの名前も挙げることができます。
みずほフィナンシャルグループは第一勧業銀行と日本興業銀行、それに芙蓉系の富士銀行、安田信託銀行などを母体としています。三井住友フィナンシャルグループはその名の通り、住友系と三井系が融合したもので、住友銀行、三井銀行、太陽神戸銀行などにたどりつきます。
りそなホールディングス、三井住友トラスト・ホールディングスも存在感
3メガバンクのほかにも、大手金融グループが存在するので紹介しましょう。そのひとつが、かつての大和銀行などのグループにあさひ銀行が合流したりそなホールディングス。現在の中核はりそな銀行や埼玉りそな銀行です。
また、信託銀行グループ国内最大の三井住友トラスト・ホールディングスも、独自の経営を展開しています。三井住友信託銀行がグループの中核です。同グループは、メガバンクの三井住友フィナンシャルグループには加わっていません。
業容拡大、採用意欲は旺盛
各グループとも採用意欲は旺盛です。「サンデー毎日」(2016年8月7日号)に掲載された「2016 有名77大学 人気342社 就職実績」によると、三菱東京UFJ銀行は1391人(大卒以外を含む)を採用し、学校別で多いのは早稲田大学108人、慶応義塾大学84人、立教大学57人など。みずほフィナンシャルグループは1920人採用し、学校別では慶応義塾大学174人、早稲田大学118人、明治大学91人などとなっています。三井住友銀行は1916人採用し、関西学院大学134人、早稲田大学118、慶應義塾大学114人などです。同記事では男女の内訳が不明ですが、大学によってはホームページの進路のコーナーで、男女の内訳を開示しているところもあります。
メガバンクの年収は高め
気になる待遇ですが、各社の有価証券報告書から数字を拾ってみました。三菱東京UFJ銀行は平均年収787万円(平均年齢37歳)、三菱UFJ信託銀行は872万円(42歳)です。ちなみに持ち株会社の三菱UFJフィナンシャル・グループでは1132万円(40歳)となっています。
みずほ銀行は757万円(37歳)、みずほ信託銀行は855万円(38歳)、そして持ち株会社のみずほフィナンシャルグループは969万円(40歳)です。三井住友銀行は830万円(36歳)、持ち株会社の三井住友フィナンシャルグループは1272万円(39歳)となっています。
いずれも産業界の平均より、大幅に高いことが分かります。ただ、いわゆる総合職と一般職では待遇に違いがあります。また同じ職種でも、どのポストにいるかによって大きく変わってきます。グループの司令塔となる持ち株会社は所属する人数が少なく、待遇も特に高めに出る傾向があります。
この業界の特徴として、多くの社員が50歳を過ぎると系列の会社や取引先企業に移ることが挙げられるでしょう。「50歳を過ぎて銀行本体に残るのは役員候補くらい」という声もよく耳にします。
日経電子版2013年12月11日公開の記事「お悩み解決!就活探偵団 半沢直樹で人気? メガバンク、気になる職場の実態」には、メガバンク社員の話として次のような記述があります。「入行するとまず支店に配属され、7年目くらいの『第1次選抜』で出世競争の号砲が鳴ります。ここから同期入行でも給料に差が開いてくる。11年目くらいで第2次選抜、14年目で第3次選抜。合格すると支店次長や本店の上席調査役に昇格。20年目あたりにある第4次選抜をくぐり抜けると支店長になれるが、ここまでたどり着けるのは同期入行で1割以下かな」。こうして、多くの社員が銀行を去ることになるといいます。ここで紹介した記事は、日経カレッジカフェにも転載していますので、興味がある方はこちらをクリックしてご覧ください。
ひとつ付け加えるとしたら、今後は変化がみられそうなこと。就職氷河期に採用を絞った影響から、社内は中間層が少ない年齢構成となっています。人手が足りず、銀行によっては年配の社員が外部に転出せず、行内に残るケースが出始めています。他産業と同様に、定年延長の問題にも取り組む必要があり、今後は若手から年配まで幅広い層が活躍する場面もありそうです。
マイナス金利政策が収益を圧迫
ここでメガバンクを取り巻く経営環境をみましょう。日銀のマイナス金利政策を背景に、国内の貸出業務の利ざやは縮小しています。アジアなど新興国の景気減速の影響もあり、収益力は低下気味。経済のグローバル化が進み、海外事業を強化してきたため、新興国の動向から大きな影響を受けるようになっています。
各グループは業容拡大と経営効率化に取り組んでいます。海外企業に相次ぎ出資しているほか、国内でも、みずほが傘下の資産運用会社を統合したほか、三井住友がSMBC日興証券とSMBCフレンド証券との統合を計画するなど、動きは速いようです。
銀行ならではの決算
金融機関の業績をみる時、独特な用語を使います。銀行の場合、一般の企業の売上高に相当するのが業務粗利益です。この業務粗利益は、預金・貸出業務などによる資金利益、為替手数料などの役務取引等利益、デリバティブなどの特定取引等利益、国債売買などのその他業務利益、信託報酬(信託銀行の場合)からできています。
業務粗利益から人件費などの経費を引いたものが実質業務純益です。ちなみに、この実質業務純益から、債券売買益を引いたものをコア業務純益と呼びます。実質業務純益、またはコア業務純益が、一般の企業の営業利益に近いイメージで、本業のもうけを示す金額といえそうです。
実質業務純益から不良債権処理や株式売買による損益などを加減したものが経常利益。さらに、不動産売却益などの特別損益を加減し、税金を引いたものが純利益になり、これが最終的なもうけということになります。
「フィンテック」がビジネスを変える
最近のキーワードとして見逃せないのは、「フィンテック」でしょう。金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた米国発の造語で、金融とIT(情報技術)を融合した新サービスを意味します。分かりやすいテーマでいうと、スマートフォンの決済サービスなどもフィンテックに当てはまります。
メガバンク首脳のこれまでの発言からもよく分かります。「フィンテックは第4次産業革命の流れに位置づけられる」。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は指摘しています。三井住友銀行の國部毅頭取(2017年4月1日から三井住友フィナンシャルグループ社長)も「変化にいち早く対応できるかが競争力を決める。異業種から決済分野への進出も相次ぐが、守りの姿勢ではなく外部の有力IT企業と組むなどして自ら打って出ることが必要だ」と強調しています。
金融市場が世界的な転換点に差し掛かっています。2017年年始の抱負のなかで、全国銀行協会会長の國部氏は「(2017年は)大変不透明な1年になるかもしれない。さまざまな可能性を想定して冷静、柔軟に対応することが重要だ」と述べています。この世界に飛び込もうという人材であれば、大きな変化に対応できる柔軟さと実行力が問われます。
(村山浩一)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。