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島キャンリポート(17)若者が戻りたくなる故郷づくりを目指して

authored by 島キャン
島キャンリポート(17) 若者が戻りたくなる故郷づくりを目指して

 はじめまして。四国学院大学3年の奥野大地(おくの・だいち)です。インターンシップをしながら島おこしについて考える島キャン。僕は2016年の夏の島キャンに参加し、9月に長崎県の新上五島にあるくらしの学校「えん」(以下「えん」)で2週間インターンシップ生として就業しました。

 「えん」は塩づくりを中心に、自給自足実践農園として動物を育てたり、野菜や麦、米などを栽培したりしています。島キャン生として、塩づくりのお手伝いや動物たちのお世話、また、麹菌を繁殖させることからすべて手作業で行う味噌づくりや醤油づくり、椿油絞り体験のお手伝いや、段々畑の土地の開墾など、さまざまな仕事を体験させていただきました。就業期間中、休日も含めてたくさんの島の人との交流を通じて僕が感じたこと、島の人にインタビューしたことで見えてきたことを紹介します。

くらしの学校「えん」の段々畑

 「えん」は、代表の小野敬さん、奥さんであり世話係の千鶴さん、そして、小学生の太志君の3人家族で営んでいます。初日から豪華な食事で歓迎され、自給自足の生活の中での工夫、知恵をたくさん教えていただきました。特に印象深かったのは「なぜ段々畑を作っているのか」というお話です。新上五島は山地が多く、これまでの耕作地の多くは段々畑だったのですが、段々畑は農機具が扱いづらく、近年の農業人口の高齢化もあり、今ではほとんど残っていません。

自然に囲まれた「えん」

 「えん」のある土地にも段々畑の名残はあるものの荒れた土地はまだ開墾の途中で、段々畑の復活に向けて日々、開墾は続けられています。

 なぜ、この段々畑を復活させるのか。それは息子の太志君のためでした。

 「いつか太志が大人になって島を出て、ふと故郷を思い出すときは段々畑の、田舎の風景を思い出してほしい」という願いが込められていました。新上五島には高校までの教育機関はありますが、大学は島外にしかありません。また、若者の就職も島外が多く、そのため、若年層の人口は年々減っています。

 島の若者がいつかまた島に帰りたいと思うこと。そして島に帰ってくることが島の人の願いなのだと感じました。小野家ではその帰りたくなるきっかけを「段々畑の風景」にしたいのです。地方の若者が帰りたくなる故郷を作ること、それは、島の活気を取り戻すにはなくてはならないことだと感じました。

仕事終わりに太志君(左)と海で遊ぶ奥野(右)

 僕はふと、自分の出身の長崎の故郷を思い出せるだろうか、と考えました。幼い頃に香川県に引っ越したため「じいちゃんと、ばあちゃんがいるところ」という認識しかなく、その街の風景はほとんど残っていません。

 僕にとって「えん」で行ったことの一つひとつが、この島を思い出すきっかけです。新上五島は僕の故郷ではありませんが、自分の「もう一つの故郷」になりました。

 偶然ではありますが、自分が生まれたのは長崎県の長崎市。そして、自分が大きく成長できたのは長崎県の新上五島。長崎を思い出したとき、「じいちゃんとばあちゃんがいるところ」という幼いころの記憶にプラスして、「じいちゃんとばあちゃんがいるし、島は自然豊かで、たくさんの動物たちがいて、段々畑があって...」という情景が浮かびます。そして長崎に「帰りたい」と思うようになりました。

急遽、小野さんの知り合いの漁師の方のお手伝い「アゴ漁」の荷揚げ作業の様子

「この島のいいところって?」「この島にどうあってほしい?」

 2週間の就業中には休日が4日あり、僕はヒッチハイクで島を巡ってみたり、町を歩いたりしてみました。その中で、地元の方々にゲリラ的にインタビューをすることを積極的に行いました。ヒッチハイクや歩いている途中に出会った人達に、「島の人が思う、この島のいいところ」「この島にどんな風になってほしいか」ということを聞いてみました。

 島の人は温かく、質問に丁寧に答えてくれました。「アゴ(トビウオ)や椿が有名やねぇ」「みんな知り合いみたいなもんやから、悪いことできんのがええことかなぁ」など、島の人が思ういいところが、たくさんありました。

 そして、この島にどんな風になってほしいか。この質問には真剣に考えてくださる方が多く、「若者が増えてほしいねぇ」「若い人がこの島を盛り上げてほしい」など、若者に対しての願いがほとんどでした。

 数日後、仕事の休憩に千鶴さんがマドレーヌをおやつに出してくださりました。そのマドレーヌは島を出て、パティシエの修行をし、経験を積んだ方が島に戻って開業しているお店で売られているものでした。千鶴さんは「若い人が島を出て島にないことを学んで、島に帰ってきたときに学んだことを活かすのってすごいよねぇ」と言いました。

 島にないものを島に持ち帰ることで成功した事例として、島でも話題になっているそうです。この島にどんな風になってほしいか。島の人が言ったこと、若者に対して求めているのはこのことなのだと実感しました。

仕事中に甘えてくるヤギのふう太君

すべてが繋がってできる地域活性

 小野家の段々畑、そして若者に地域を盛り上げてほしいという願い。この二つのスポットライトは「若者」でした。僕は今まで「地域活性」というと、観光客の誘致や、移住者の増加を促すために観光スポットの広報や、住民の支援が一番の地域活性だと思っていました。もちろん、それらも地域活性のためには必要だとは思います。

 けれど、島の若者が島を出て、島外で学び、技術を磨き、ふと故郷を思いだす。そして、島に帰り、島外で吸収したことを島で活かす。これも、地域活性の一つの形だと感じました。くらしの学校「えん」に就業したことで地域活性を新たな視点で見ることができました。

 島の人が必要としていることは何か、それをどのようにして実現させるのか。今回、島に行って地元の方とお話しして初めて、島の方々が実現しようとしている地域活性の形を知ることができました。これは地道な取り組みで、時間もかかります。しかし、その地道な努力と時間が、いつか新上五島を盛り上げる活動につながるのが、僕はすごく楽しみです。新上五島の地域活性に、僕自身も少しではありますが、島キャンを通じてお手伝いできたと思うと光栄です。

奥野大地(おくの・だいち) 四国学院大学社会学部観光学メジャー専攻3年。2016夏の島キャン生。地域活性を学ぶとともに、出生地でもある長崎を知るため新上五島を選択。大学委員会組織に所属し、大学を盛り上げる活動を行っている。
【島おこしインターンシップ「島キャン」】
離島での就業体験をしながら、離島の島おこし・地域活性化に貢献する新しいかたちのインターンシップ企画。
http://www.shimacam.com/index.php

椿油搾りの様子