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五反田と西中島 VB新聖地に

五反田と西中島 VB新聖地に

 東は五反田、西は西中島――。ベンチャー企業(VB)が集まる地域が変わりつつある。東京の渋谷や六本木、大阪の梅田に代わって「起業しやすい街」として注目を集めるのが東京都品川区の五反田と大阪市淀川区の西中島だ。家賃の安さや交通アクセスの良さだけが理由ではない。地域の飲食店や学校もVBの成長に貢献している。

大阪・西中島 大学院から人材

 2016年10月上旬、「にしなかバレー」の会合がJR新大阪駅に直結したビルの1室で行われた。世話人を務める新卒採用仲介サービス、アイプラグ(大阪市)の中野智哉社長が「バレー部と間違えられることも少なくなってきた」とあいさつすると、会場に笑いが広がった。

 にしなかバレーは大阪市営地下鉄の西中島南方駅から半径2キロメートル以内に重要拠点を置くベンチャー企業の集まり。参加企業は約30社で、業種は訪日観光客サービスや介護など様々。参加を決めた通信分野のVBの若手経営者は「情報交換などができれば」と期待する。

 アイプラグの中野社長は西中島の魅力を「利便性が高いのに、賃料が安い」と説明する。新大阪駅は徒歩圏にあり、梅田も地下鉄を使えば約5分で行ける。郊外まで伸びる鉄道網もあり、「幅広い地域から人材を採用しやすい」(中野社長)。

 不動産サービス大手のCBRE(東京・千代田)によると、10階建て程度のオフィスの賃料相場は梅田の場合、1坪(約3.3平方メートル)あたり平均1万7400円。「西中島だと1万円以下の物件が多い」(にしなかバレーの会員企業)

 近くに歓楽街があることに加え、再開発が進まず、小規模の雑居ビルが多く残っているためだ。だが、VBにとって、小規模の雑居ビルの方が使い勝手はよい。歓楽街には深夜営業している飲食店が多く、オフィスで寝泊まりすることもある起業家には好都合だ。

 西中島を「起業の聖地」にしている要素には教育機関もある。グロービス経営大学院大阪校だ。経営学修士(MBA)コースがある同校は西中島から徒歩圏。にしなかバレー参加企業の経営者の半数が同校の卒業生や在校生で、西中島に人材を輩出する役割も担う。

 VBを対象にしたサービスも充実している。

 保育事業のS・S・M(大阪市)は子育てをしながらVBで働く女性が増えていることに着目、西中島に保育施設を12月に開く。にしなかバレーのメンバーでもある上野公嗣社長は「近隣の保育園は定員オーバー。手助けができれば」と語る。

 不動産会社の間では、コワーキングスペース(共有オフィス)を設置する動きもある。オフィス家具などの備品が用意されており、年5万円から借りられる。創業間もない段階からVBを顧客に取り込み、彼らが成長したときに、広いオフィスを提供するのが狙いだ。

 北條明宏さんは共有オフィスで起業して吹奏楽の動画配信サービスを始める。「固定費を抑えられるのは利点」と語る。

東京・五反田 バイト駆使、勢い

五反田バレー構想について打ち合わせするfreeeの担当者(左)と地域の教育関係者(東京・品川)

 「一緒に五反田を盛り上げていきましょう」。16日夜、東京・五反田のフランス料理店に起業家13人が集まった。「五反田経営者会」の会合だ。

 野菜の通販のオイシックスの高島宏平社長やクラウド会計ソフトのfreee(フリー)(東京・品川)の佐々木大輔社長など著名VBの経営者に交じり、21歳の学生起業家も参加した。和菓子を海外に販売するサムライキャンディー(同・同)の前田有香社長だ。

 前田社長は五反田を起業の地に選んだ。新幹線が止まるJR品川駅まで電車で約5分、和菓子店が集まる京都まで約2時間半で行けるのが決め手となった。

 五反田にオフィスを構えるVBが増え始めたのはここ数年。背景にあるのは不動産市況の変化。再開発で賃料が上昇した渋谷や六本木と比べて、五反田は2~3割安い。数十~200人の従業員を抱えるVBに適した規模のオフィスも豊富だ。

 「渋谷駅から徒歩15分と五反田駅から徒歩5分は賃料がほぼ同じ」と指摘するのはビジネス情報メディアのU―NOTE(同・同)の小出悠人社長。大学も多く、学生アルバイトも集めやすい。

 五反田の周辺には住宅地も多い。飲食店アプリのRetty(レッティ、同・同)に4月に入社した外村璃絵さんは会社から徒歩10分の高輪台に住む。「会社の近くにおいしいお店がたくさんあり、社員と一緒に行けるのが楽しい」と笑う。

 かつては「六本木ヒルズ」などの高層ビルにオフィスを構えることが起業家のステータスとされていた。今は「事業で成果を上げるためのコストパフォーマンスを大切にしている」(フリーの佐々木社長)。スマートフォンの鍵管理システムを開発するフォトシンス(同・同)の河瀬航大社長は「五反田は伸びているVBが集まっており、勢いを感じる」という。

 2016年10月に開かれたイベント「五反田ベンチャー人事部」にはフリーとレッティの人事担当者が登壇した。両社の採用手法を聞こうとVBの人事担当者ら約50人が足を運んだ。主催した人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)の担当者は「五反田は採用意欲の高いVBが多い」と説明する。

 起業しやすい街「五反田バレー」をつくる構想も動き出した。VBの技術者が地域の小中学生にIT(情報技術)を教えたり、各社のノウハウを持ち寄って飲食店の開業を支援したりする案が出ている。五反田で印刷会社を経営する鶴井正博氏は「VBが増えれば地域の中小企業も元気になる」と期待する。
(企業報道部 世瀬周一郎、鈴木健二朗)[日経産業新聞11月22日付、日経電子版から転載]

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