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窮地 三越伊勢丹、3つの疑問

窮地 三越伊勢丹、3つの疑問

 経営統合から8年。百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)が岐路を迎えている。インバウンド需要の減少や富裕層消費の変調は百貨店業界共通の現象のはずだが、同社の厳しさは突出する。首都圏への集中が強みだったはずがなぜ苦戦しているのか。店舗リストラはなぜ「三越」が中心で、グループの成長戦略をどう描いていくのか。浮かび上がる3つの疑問に迫った。

首都圏集中なぜ苦戦? 新宿伊勢丹、遠のく客

 「連結営業利益500億円の達成を2年後ろ倒しするとのことだが、人件費の100億円削減はどこまで踏み込むのか。もう雇用を守るという段階ではないと思うが」

 「予算作成の手順では現場から上がってきたものが前年踏襲されており、霞が関の役所を見ているようだ」

 2016年11月8日、東京都内でアナリストや機関投資家向けに開かれた三越伊勢丹HDの2016年4~9月期の決算説明会。参加したアナリストからは厳しい質問が相次いだ。期初の増益予想が一転して、大幅減益に追い込まれたからだ。

苦戦する伊勢丹新宿本店の婦人服売り場

 ブランドに頼らない手法を取り入れ、最先端を求める買い物客が集まる新宿本店を抱える「伊勢丹」と数多くの富裕層とのコネクションを持つ「三越」が統合した最強百貨店、三越伊勢丹HD。ただ、百貨店事業への集約度が高いだけに、消費の多様化や富裕層の消費意欲減退の逆風をまともに受け、そのダメージも大きくなった。

 特に世界最大の売り上げを誇り、一店舗で三越伊勢丹HDの百貨店事業の2割以上の売り上げを稼ぎ出す伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の不振が痛手となっている。

 伊勢丹新宿本店の16年4~10月の売上高は前年同期比4.7%減。同じ新宿で営業する高島屋新宿店(東京・渋谷)がほぼ横ばいだったのに比べて落ち込みが目立つ。

 「(13年の)改装前に比べて行くことが少なくなった。自分が買える商品が少なくなったから」。都内で働く会社員の山本麻里子さんは伊勢丹新宿本店へ訪れる回数が減った。山本さんはエムアイカードを持つヘビーユーザーだが、「今はファッション性が高いが値段も高い商品が多く、手が出ない」。他の百貨店やルミネなどの駅ビルで買い物することが増えたという。

 「感度の高い人に対して、独自に発信できるファッション力があるかが問われている」(大西洋社長)との理由で、12~13年の改装ではブランド別だった売り場構成を、顧客の生活様式や価値観などに応じた売り場に変更。フロアの中心部には、「パーク」と呼ぶ8の字状の回遊通路を新設した。売り場面積は10~15%減少した。

 来店者が今まで試したことがなかった商品に出合えるきっかけになる一方で、目的買いには適さない売り場であることから「どこに何があるかわかりづらい」(伊勢丹新宿本店に入居するアパレル関係者)との声が数多く上がる。50代の会社員の女性も「おしゃれなんだけど見づらいというか。パンツならパンツと、まとめられている売り場がある京王百貨店の方が良いのかな」と語る。

 「まさかうちに来てくれるなんて」。そごう・西武の関係者が驚きの声を上げたのはフランスの老舗バッグブランド「モワナ」が16年春、西武池袋本店(東京・豊島)への常設店の設置を決めた時だ。同ブランドの日本進出を巡っては同店と伊勢丹新宿本店とで激しい綱引きが行われていた。

 「モワナ」は仏パリをはじめ英ロンドンや米ニューヨークで展開する世界的なブランドだ。伊勢丹新宿本店も13年の改装オープン後の目玉として取り扱いを始めたものの、同ブランドが常設店に決めたのは西武池袋本店内だった。

 伊勢丹新宿本店に商品を置いてほしいから厳しい取引条件をのんでいたアパレル業界。ただ、そのアパレルも疲弊してきて、同店が要求する条件に堪えられなくなってきている。

 伊勢丹新宿本店では逆風に対応すべく、17年春から進めるはずだった婦人服売り場の改装計画について半年前倒しして16年秋から協議を開始。さらにファッション強化に向けて4階に靴やかばんを扱う仏の高級ブランド「ロジェヴィヴィエ」を導入する計画だ。

 大西社長は「伊勢丹新宿本店と三越銀座店についてはこういう時だからこそもう一度、ファッションで評価いただけるようチャレンジする」と語る。

 「三越と伊勢丹というのれんを抱えているポテンシャルはやはり高い」。ある百貨店幹部は指摘する。伊勢丹新宿本店の販売力を三越にさらに広げるとともに、三越の手厚い富裕層をいかに伊勢丹側に送客できるか。物販だけでなく「コト消費」への対応も強化して、来店することに楽しさを与えることが最強百貨店再生のカギになる。

三越ばかり閉店? 統合優先でゆがみ

 三越伊勢丹HDは店舗リストラを矢継ぎ早に打ち出すが、内訳を見ると「三越」のれんの閉店が目立つ。

 17年3月には三越千葉店(千葉市)と三越多摩センター店(東京都多摩市)が閉店し、三越松山店(松山市)と広島店(広島市)についても事業転換や売り場縮小の検討に入った。伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)と府中店(東京都府中市)についても同様の検討を進めるとしているが、旧三越出身者からは「なぜ三越ばかりなのか」との声がもれる。

 足元で大規模な店舗リストラを公表しているのは三越伊勢丹HDとセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武が中心だ。そごう・西武は「物言う株主」として知られる米投資ファンド、サード・ポイントが15年10月にセブン&アイ株の取得が明らかになって以降、そごう・西武の切り離しを求めていたことが背景にあるが、三越伊勢丹HDの場合は事情が異なる。

 「三越千葉店は(08年4月の)経営統合時にすでに閉鎖を検討していた」。ある三越伊勢丹HDの関係者はこう証言する。三越千葉店は地域一番店のそごう千葉店(千葉市)に有力ブランドを押さえられ、苦戦が続いていたさなかだ。それでも三越千葉店を17年3月まで営業を継続することになったのは、「経営統合時に千葉店まで閉鎖すれば、首都圏での『三越』と『伊勢丹』のバランスが崩れてしまうため」という側面もあった。

 長い歴史を持つ両社の経営統合だけに、社内で擦り合わせをするだけでも容易な作業ではない。実際に三越伊勢丹HDは16年3月期になってようやく旧三越と旧伊勢丹の賞与体系の統合にこぎ着けた。

 「経営統合した当時は200とか250くらいの管理職ポストをイメージしていたが、今や三百数十というポストができあがってしまった」。三越伊勢丹HDの大西洋社長は管理職ポストの増大が収益力低下に結びついていることを認める。今後は管理職ポストの見直しなどで人件費率の引き下げを図る考えだ。

 旧三越には不採算な小規模店が多かったが、円滑に経営統合を進めることを優先せざるを得なかった背景もあり、ここに来て三越の閉店が目につくようになった。「他の百貨店に比べてリストラが周回遅れとなってしまっている」(国内証券系アナリスト)。インバウンド需要の急拡大などで隠れていたひずみが、ここに来てあらわになった格好だ。

今後の成長戦略は? 非百貨店育成、ハードル高く

 「国内の売上高は毎年3%落ちていく」(大西洋社長)。国内の百貨店売上高が今後伸びていくことが見通せない中、三越伊勢丹HDが成長していくためには海外に目を向けざるを得ない。だが、海外で日系の小売りが成功するのは簡単なことではない。

 東南アジアの日系百貨店の優等生と評されるシンガポール高島屋。16年2月期は売上高578億円、営業利益41億円を稼ぐ。吉野雅博副店長は「顧客の7割はシンガポール人。誰にとっても入りやすい店作りを目指した結果だ」と話す。高島屋子会社の東神開発が運営するショッピングセンターと一体開発したのも大きい。

 翻って三越伊勢丹HDのシンガポールの売り上げの多くを占める伊勢丹スコッツ店は地下の食料品売り場はにぎわうが、他の売り場は人けが少ない。イセタン(シンガポール)の橋詰敏文社長は「ラグジュアリーの部分で(高島屋に比べて)後れを取った」。タイや中国でも苦戦が続く。

 百貨店以外の収益を増やすため、プライベートブランド(PB=自主企画)商品の拡充にも力を入れる。婦人靴「ナンバートゥエンティワン」の卸売りを広げる方針で、15年に韓国の新世界百貨店に納入したのに続き、欧米の百貨店への納入を交渉しているという。

 ブライダルや飲食業の分野で外部企業と提携するなど周辺事業の強化を進めるが、連結業績を押し上げる事業に育っているとは言いがたい。

 三越伊勢丹HDの全売上高に占める百貨店事業の割合は92%(15年度)。J・フロントリテイリングは66%で、高島屋は88%だ。高島屋は不動産事業が強く、利益面で見ると百貨店事業の利益は5割に満たない状況だ。

 大西社長が目指す三越伊勢丹HDの事業ポートフォリオは非百貨店の売上高を4割に引き上げるというものだ。これまで百貨店事業に集中してきただけに、達成へのハードルは高い。
(豊田健一郎、井上みなみ)[日経MJ2017年11月25日付、日経電子版から転載]

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