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日本ラグビー躍進 ITベンチャーが一役

日本ラグビー躍進 ITベンチャーが一役

 ユーフォリア(東京・千代田)はIT(情報技術)をスポーツ分野に活用するベンチャーだ。選手の身体能力や体調を計測し、データをトレーニングやケガの予防に生かす。2015年ラグビー・ワールドカップ(W杯)で活躍した日本代表チームでの実績が評価され、サッカーや野球など幅広い競技で活用されている。欧米人に比べ体格が劣る日本人選手を科学的に変えようとしている。

 2016年夏、リオデジャネイロ五輪でラグビー7人制男子日本代表が4強入りを果たした。タックルして倒れてもすぐに起き上がり、運動量で相手を圧倒。ニュージーランドやフランスなどの強豪を破った。躍進の陰にはベンチャーの姿があった。

 ユーフォリアが開発した「ワンタップスポーツ」で、選手はタブレット(多機能携帯端末)に体重、心拍数、体温に加え、疲労度、睡眠の質、腰や太ももなどの筋肉の状態を毎日入力する。コーチは選手個人の体調や筋力に合わせて筋肉トレーニングやランニングなどのメニューを決め、ケガをしない範囲内で選手の能力を高める。

リオ五輪4強のラグビー7人制男子日本代表は身体のデータをトレーニングに活用した

 ラグビーは選手同士が激しく接触するため、筋力や走力、体力の向上が重要だ。経験や勘に頼りがちだったトレーニングを変え、元コーチの見山範泰氏は「選手のパフォーマンスが劇的に上がった」と振り返る。現在ワンタップスポーツはサッカーやテニス、駅伝など17競技、高校の部活から日本代表まで約160チームが使用している。

 スポーツの世界で存在感を高めるユーフォリアだが、元は企業再生や新規事業開発のコンサルティング会社だった。転機は12年、日本ラグビーフットボール協会からの1本の電話だった。「3年後のW杯で勝つために手助けをしてほしい」。スポーツ分野は初めてだったが、橋口寛代表は「状況を『見える化』し、目標に向かって戦略を立てるのは企業と同じはずだ」と引き受けた。

 東京都町田市の合宿所を訪れ、フィジカル強化を担当するジョン・プライヤー・コーチにプレゼンテーションをした。その時に要求されたのは3つ。3年で10キログラム以上の体重差がある海外チームに負けないパワーとスピードを身につけること、W杯の時にコンディションをピークにすること、ケガをさせないことだ。

 ベンチャーが日本代表のプロジェクトに参画するのは極めて異例。橋口代表は「大手金融やメーカー向けにシステムを作った実績とベンチャーのスピード感が評価されたのでは」と話す。

 システムはトレーニングとコンディションの2つの視点から5カ月かけ製作した。トレーニングは各選手の部位別の筋力を計測して世界トップ選手の数値との差を「見える化」した。筋肉トレーニングは30項目に上り、各選手の筋肉ごとに重要業績評価指標(KPI)を定め、3年で世界と戦える体作りを進めた。

 コンディションでは選手が疲労度や睡眠、ストレス、筋肉痛などのデータを毎日入力するシステムを作った。全地球測位システム(GPS)を使って選手の運動量を管理。疲労度が高く、体重が大きく減った選手はケガをしやすいため、トレーニングの負荷を減らして体調を整えさせた。

 限界までトレーニングをし、W杯にピークを定めた日本代表は強豪の南アフリカに勝つ大番狂わせを演じ、世界を熱中させた。W杯の活躍を受け、他のスポーツ団体からユーフォリアに注文が殺到した。汎用版のワンタップスポーツの提供を始め、Jリーグやプロ野球球団などの選手強化で利用されるようになった。

 だが橋口代表は「まだ世界のレベルに届いていない」と話す。先進国のオーストラリアは人口2300万人にもかかわらず、水泳やサッカーでめざましい結果を残している。20年の東京五輪に向けてセンサーやビッグデータ解析、人工知能(AI)など先端技術の応用を進め、スポーツテクノロジー大国ニッポンを目指す。
(企業報道部 阿曽村雄太)[日経産業新聞2016年11月17日付、日経電子版から転載]

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