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[ career-働き方 ]

同僚はロボット?
初めての共同作業にトライ

同僚はロボット?<br />初めての共同作業にトライ

 インダストリー4.0(第4次産業革命)が実現すると、人とロボットが同じ職場で働くことが当たり前になるという。「ロボットが同僚になったら、仲良くできるだろうか」。そう思っていたら、4.0の本場、欧州でロボットを製造しているスイスのABBから人と一緒に働くロボットを日本で導入する話を教えてもらった。

 2016年10月中旬、静岡県島田市にあるABB日本法人(東京・品川)のテクニカルセンターを訪れた。ここは自動車や建機の工場で使われる塗装機を生産している。自社の協調型ロボット「YuMi(ユーミィ)」を、塗装機の部品組み立てに活用しようというのだ。

 組み立てるのはカラーチェンジバルブ(CCV)という塗料を噴射する基幹部品。手のひらに乗るほどの大きさで、今は作業員が部品8点を組み立てている。これを年内にも人とユーミィの共同作業に切り替える。

 まずは人による作業を体験することに。指導役のロボット部門塗装機器部の荒川光紀さんが手本を見せてくれた。バラバラの部品を順番にはめ込み、工具で固定する。「基本はねじ回し。これなら私もできそう」

 しかし、その自信はすぐに打ち砕かれる。「うまくはまらない...」。部品同士を真っすぐかみ合わせる必要があるが。特にプラスチック製のフタをはめるのが難しい。

 フタの下にバネがあり、蓋を押し上げ、閉めるのに力がいるからだ。無理にはめようとするとフタの角が削れ、密封性に問題が出てしまう。慎重に何度か押し込んで、ようやく2分半で1個作れるようになった。

 3個ほど組み立てたところで、左手首に痛みが...。CCVの重さは約132グラム。普段はペンしか持たない非力な手で力を入れて作業したためか、負荷がかかったようだ。

 思わず顔を上げて「1日何個作らないといけないんですか」と尋ねた。荒川さんは「繁忙期は200個は作らないと」。作業は難しくないが、200個も作るとなると手首が持つだろうか...。

 「何度もやっているうちにミスしそう」。弱気になっていると、荒川さんが「そろそろユーミィと二人三脚で作業してみましょうか」と助け舟を出してくれた。

双腕型のユーミィと協力して部品を組み立てる

 案内された机にはユーミィが固定され、部品を置いたり、固定したりする治具が並んでいた。ユーミィは双腕型ロボット。顔のない人の上半身のような形をしている。

 「こんにちは」とあいさつし、ユーミィが大まかな組み立て、私が部品渡しとネジ締めの確認をすることになった。私は机にある緑のボタンを押して作業を指示。ユーミィは右手に部品を持つと、左手の2本の爪をチョイチョイと動かして、私に何かを渡すように催促してきた。

 「左手に部品を取り付けた治具を渡してください」と荒川さん。産業用ロボットは通常、人との接触事故を防ぐため、安全柵で隔離されている。ロボットに部品を手渡すなんて、今までの常識ではあり得ない。

 しかし、ユーミィは接触を感じたらすぐ停止するので安全だ。20センチメートルほど先の爪に治具の穴がはまるように手渡しした。再びボタンを押すと、ウィーンというモーター音と共にユーミィが両手を近づけて部品を組み合わせ、ネジをくるくる回して締め付けた。

 規定の回転数に達すると、部品を作業台にセットし、停止。ここで選手交代だ。私が工具を使って、ネジ締めの最終確認をする。「工具を2回転ほどさせるだけで楽ちん」。私があれだけ苦労した蓋のはめ込みも、ユーミィは楽々とこなす。

 1人で作業するのに比べ、部品や工具を持つ時間が圧倒的に少ない。部品をかみ合わせる難しい作業はユーミィがやってくれる。「優秀な相棒を持つと仕事が楽だわ」と、笑顔で話す余裕が出てきた。

 ユーミィは部品を2個同時に作る。時間は1個当たり3分。生産効率が大幅に改善する訳ではないが、ロボティクス事業部の中島秀一郎事業部長は「手作業による品質のバラツキをロボットで安定させたい。作業時間は今は人と変わらないが、いずれは2分ほどに縮めたい」と意気込む。

 作業を全て自動化すれば生産効率は上がるが、工場のレイアウトを大幅に変える必要がある。機械装置も複雑になり、投資額も膨らんでしまう。

 もともと組み立て工程は柔軟な人が作業する方がコストが安く、効率も高いのが一般的。そこで協調型はロボットと人がそれぞれ得意な作業を分担する。向きや裏表がバラバラな部品を選んで、特定の場所に置くのは人。ロボットは部品を真っすぐ組み合わせたり、回したり反復作業を担う。中島事業部長は「高齢化で労働力確保が難しくなっている。協調型は人手不足に対応できる」と胸を張る。

 課題は残っている。間違えてボタンを2回押してしまったことがあった。「あ、ウソ。今のなし」。そう言っても手遅れ。ユーミィは間違いに気づかないまま、次の作業に進もうとする。

 私が部品を渡し忘れると、左手に何も持たないまま空中で手首をくるくる回し、ネジを巻こうとする。慌てて荒川さんがユーミィの動作を止めてくれた。

 人と接触して緊急停止することもある。こういう時、ユーミィの動作を修正するには専門知識が必要だ。荒川さんは「知識がなくても対応できるように改善したい」と話していた。
(企業報道部 長江優子)[日経産業新聞2016年11月29日付、日経電子版から転載]

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