日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

発信! 理系女子(8)相談者に寄り添う
遺伝カウンセラーを目指して

authored by 東北大学サイエンス・エンジェル
発信! 理系女子(8) 相談者に寄り添う遺伝カウンセラーを目指して

 こんにちは。東北大学サイエンス・エンジェルの佐藤花保です。私は現在、遺伝カウンセラーになるため大学院で学んでいます。前回、私が医学部保健学科から遺伝カウンセラーの道を選んだ理由をお話ししました。今回は遺伝カウンセラーとは何か、遺伝カウンセラーになるために、どのような勉強をしているのかご紹介したいと思います。

 そもそも、皆さんは"遺伝カウンセリング"や"遺伝カウンセラー"という言葉は聞いたことはありますか? 日常あまり耳にしないかもしれませんが、女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝性乳がん卵巣がん症候群のために乳房と卵巣を切除する手術を受けたという報道や、新型出生前診断(NIPT)の報道などを通して、少しずつ認知度は上がってきています。

遺伝カウンセラーとは?

授業の様子

 "遺伝カウンセリング"という言葉は1950年代に北米で誕生しました。遺伝カウンセリングでは、染色体や遺伝子に関わる病気について、不安や心配を持つクライエント(相談者)の話を丁寧に聞き、病気に関することや遺伝する可能性について正しい情報を提供します。そしてその人やご家族の持つ不安に寄り添いながら、心理・社会的なサポートを行います。

 遺伝性乳がん卵巣がん症候群を例に考えてみましょう。遺伝性で若くして乳がんや卵巣がんを発症するため、クライエントは遺伝学的検査を受けるかどうか、検査について家族にどのように伝えるかなど悩みを持つことがあります。

研究室の棟の1階のタイル(世界で最も大きなDNA二重らせんという説も)

 遺伝カウンセラーはクライエントの動機を確認したうえで、遺伝の可能性や検査で分かること・分からないことなど十分に説明し、検査を受ける場合・受けない場合、検査結果が陽性の場合・陰性の場合・曖昧な場合などそれぞれの場合に本人やその家族に与える影響を一緒に考えるのが「遺伝カウンセリング」です。専門知識を持つ遺伝カウンセラーは正しく最新の情報を分かりやすく提供するとともに、他の医療者とチームで連携し、医師とは異なった立場から心理・社会的支援を提供します。

 日本では2005年より資格認定が始まりました。全国14の大学にある専門養成修士課程を卒業し、試験に合格することで、認定遺伝カウンセラーとして認定されます。東北大学では2013年より養成課程がスタートし、4名の卒業生が全国各地で認定遺伝カウンセラーとして活躍しています。

研究室ではどんなことを勉強するの?

 遺伝カウンセラーには、様々な知識が必要とされます。大学院では、医学や遺伝に関する知識はもちろんですが、医療倫理や分子生物学、疫学、統計学など幅広く学びます。私たちの研究室の特徴は、"サイエンス"と"ナラティブ"をバランスよく学ぶことです。

ロールプレイ演習(左が筆者)

 サイエンス分野では、次世代の医療に向けて日々進化するゲノム医学について、最新の研究を元にした講義が受けられます。たとえば1年次には「バイオメディカルゲノム解析実習」という授業があります。この授業では、次世代のゲノム医療に向けて、実際の塩基配列のビックデータの取り扱いや解析について学びます。非常にハードルの高い実習ですが、どのようにしてゲノム情報を解析し、解釈するのかを体感できた興味深い授業でした。

 ナラティブ(Narrative)は"物語"や"語り"と訳されます。遺伝カウンセリングにおいては、クライエントそれぞれが持つ語りに耳を傾け、その物語を医療スタッフも共有したうえで悩みを一緒に考えていきます。

遺伝カウンセリングの授業で使う教科書

 たとえばロールプレイ演習の授業では、学生がクライエント役・遺伝カウンセラー役・オブザーバー役に分かれて、場面設定を元に遺伝カウンセリングのロールプレイを行います。このロールプレイでは、遺伝カウンセラー役はもちろんですが、クライエント役を演じることも大変勉強になります。こんなことを不安に思うかもしれない、悩んでいるかもしれないと想像し、その気持ちの揺らぎを感じながらクライエント役になりきります。ロールプレイのあとは、フィードバックといって、教官を交えてお互いに振り返ります。

 また修士1年の夏休みには"難病キャンプ"に参加しました。難病と闘うお子さんとそのご家族の担当となり、3日間寝食を共にして活動しました。普段の生活の様子を見聞きしたり、お子さんへの思いを聞いたりと貴重な体験ができました。

研究室のメンバー(右から4番目が筆者)

 どうでしたか? 皆さんが想像していた科学や理系のイメージとは、少し異なっていたかもしれませんね。文系と理系の垣根を超えた融合分野だと思います。遺伝医学の進歩により、ひとりひとりのゲノムを解析することができるようになりました。医療の現場でも遺伝情報をもちいた医療が行われるようになっています。今後のゲノム情報を利用した医療には、遺伝カウンセリングや遺伝カウンセラーは確実に必要となってきます。

 大学院で学び始めて半年ですが、学ぶこと・考えることが多く、非常に濃い半年間でした。日々進歩するゲノム医学について知識を更新しながらも、クライエントやそのご家族につねに寄り添える遺伝カウンセラーになるために、これからも勉強していきたいと思います。
(佐藤花保)

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>