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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ニュースの見方(30)トランプのつぶやきに
トヨタ自動車が反応した

戸崎肇 authored by 戸崎肇大妻女子大学教授・経済学者
ニュースの見方(30) トランプのつぶやきにトヨタ自動車が反応した

 2016年は世界が大きく揺れ動いた年でした。英国のEU離脱から、各地でテロ発生まで。でも、何といっても米国次期大統領にトランプ氏が選出されたことが一番の話題となりました。そして17年1月20日、新大統領就任式を迎え、トランプ政権がいよいよ始動します。まさに米国の新しい歴史が始まるといっていいと思います。ちょうど週末に当たりますから、トランプ氏がどのような就任演説をするのか、ライブで見てみましょう。いい英語の勉強にもなりますよ。

トランプ・バブルの先行きは?

 選挙期間中はあれほどマスコミやエンターテインメントのスターたちがこぞってトランプ氏を批判していたにも関わらず、当選直後の一時的な混乱を除いては、次期政権に対する市場の期待感は高まっています。年明け1月3日の米ダウ工業株30種平均が2万ドル寸前まで高騰しました。市場関係者の中では「トランプ・バブル」と分析し、いつバブルが弾けるか警戒しています。

エクソンCEO起用で話題

いよいよトランプ政権が始動する(トランプタワーを警戒する警察官=2016年12月14日、米ニューヨーク)

 ビジネスマンとして大成功したトランプ氏の手腕には期待させるものがあります。周りを固める側近もビジネスの世界からの登用が多く、特に政権の要となる国務長官に、石油大手エクソンモービルのCEOであるレックス・ティラーソン氏を起用したことは話題となりました。

 ティラーソン氏は資源開発の関係でロシアのプーチン大統領と親しく、トランプ氏の親ロシア姿勢を示すものととらえられています。ロシアとの関係では、大統領選挙の際にトランプ氏に有利になるようにロシアが米国にサイバー攻撃をしかけたとした報告書を米国の中央情報局(CIA)がまとめ、オバマ現大統領が報復措置をとるとしています。任期がまもなく終わる段階では実効性もなく、今後は米国とロシアの関係が改善する可能性があります。

中国には強硬姿勢

 中国に対しては、不公平な関税を米国製品に課しているとしていることや、南シナ海での中国軍の軍事演習に対する批判など、トランプ氏は強硬な姿勢を示しています。これもオバマ政権とは好対照です。その代わりに台湾の蔡総統とは電話で直接会談、1979年に米国と中国が国交を正常化して以来、初めての米台間での首脳の直接の対話となりました。これも中国を強く刺激しています。

 オバマ政権での親中、反ロの構図は逆転し、今後、世界政治は大きく変化していくことになります。これに、欧州での右傾化の動きが加わります。私たちの生活にも直接的な影響を与えてくることになるでしょう。

安全保障はどうなる?

「トヨタはメキシコのバハ・カリフォルニア州に工場を建て、米国向けに『カローラ』をつくろうとしている。ありえない!。米国に工場を建てるか、高い関税を払え」と投稿したトランプ氏のツイッター

 さらに、トランプ氏の強硬路線を象徴する人事としては、国防長官に元中央軍司令官であるジェームズ・マティス氏を起用したことが挙げられるでしょう。「狂犬」との異名をもつマティス氏が、米国の安全保障のためにどのような対策をとってくるか注目されます。

 現状、世界的にテロの危険性はますます高まっているといっていいでしょう。1月8日にはフロリダ州の国際空港で男が銃を乱射、5人が死亡、8人が負傷しました。また、2016年年末にはトルコで、年越しを祝うナイトクラブで銃が乱射され、39人が死亡しています。この事件に関してはIS(イスラム国)が犯行声明を出しています。トランプ氏は、こうした脅威に対しては相当な強硬姿勢で臨むことでしょう。その意向をマティス氏がどのように体現するのか注目です。私たち自身に関わることとしては、米国への入国検査がますます厳しくなるかもしれません。ニューヨークの空港では入国管理のために長い時間がかかりますが、それがさらに長く煩雑にならないように祈ります。

 ビジネス界などからの思い切った登用人事が話題にはなっていますが、政治の世界からもマイク・ペンス次期副大統領を筆頭に、手堅い人材をそろえ、議会などの対応にも備えています。トランプ氏の堅実な面も見てとらなくてはなりません。

トヨタ自動車への圧力

100億ドルの投資を表明したトヨタ自動車の豊田章男社長(2017年1月9日、米ラスベガス)

 日本の企業への影響もすでに表れ始めています。トヨタ自動車がメキシコに工場を建設することを計画していることに対し、1月5日、ツイッターで痛烈な批判を行ったのです。これに対してトヨタ側は米国で今後5年間に100億ドル(1兆1600億円)を投資する計画を明らかにしました。欧米自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)も10億ドルを投資する計画を発表しており、投資・雇用増を求めるトランプ氏に応じた格好です。

 ここで注目したいのはソフトバンクの孫社長の行動です。日本でも大きく報道されましたが、2016年12月7日、孫氏はトランプ氏を訪問し、500億ドルを米国に投資するとしてトランプ氏と一緒にマスコミとの会見を行いました。トヨタももっと早い段階でトランプ氏に接触し、メキシコへの投資に対する説明をし、理解を求めるべきだったのです。トヨタは世界に冠たる企業ですが、孫氏の国際的なビジネス感覚に後塵を拝しました。大きな変化にどこまで素早く、柔軟に対応できるか、今回の孫氏の行動には学ぶべきでしょう。

世界的な変化を理解しよう

 2017年は世界的な変化の大きな流れを受け、我々日常生活にも少なからぬ影響があるはずです。特にこの春から就職する皆さんは、いきなり変動の波にさらされ、重大な経営判断の一端を担わされることになるかもしれません。でも、その時こそがチャンスです。新たな感性で、就職する企業に新風をもたらすことができるよう、この春までの準備期間に今回取り上げたテーマについても、その日本との関係についてよく考えてみてください。

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