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東大推薦入試への道(1)受験勉強と探求活動の両立に悩んだ高2

笹森ゆうほ authored by 笹森ゆうほ東京大学1年
東大推薦入試への道(1) 受験勉強と探求活動の両立に悩んだ高2

 こんにちは。東京大学1年の笹森ゆうほと申します。2016年度から、東大で「推薦入試」が始まったのをご存知でしょうか? 私はこの推薦入試の第1期生として合格し、昨年4月から東大で学んでいます。

 この連載では、なぜこの入試に挑み、どのように合格まで至ったのか、振り返りつつお伝えできればと思います。「結局東大の推薦ってどんな人が受けていたの?」と疑問に思っている同年代の大学生の皆さんや、アルバイト先の塾で東大推薦志望の生徒をお持ちの方などに、何か役に立つことがあればと思います。

 一部メディアでの報道もあり、「東大推薦」というと「理解不能なほど賢い人」「ハーバードに合格するような人」といったイメージをお持ちの方もおられるでしょうが、残念ながら僕は東大模試でA判定をとったこともなければ、高校2年の夏まで日本を出たことすらありませんでした。

 私は北海道出身で、札幌の地方公立校で高校時代を過ごしました。東大合格者も輩出する進学校にいたこともあり、ぼんやりと東大を目指したこともありましたが、将来の夢や目標はなく、志望動機も「日本で一番偏差値が高いから」という程度のものでした。

筆者近影

転機になったカンボジアでの経験

 そんな僕に転機が訪れたのは高2の春。「1度海外に行ってみたいし、ただの旅行では得られない経験をしてみたいな」と考え、北海道主催の国際交流プログラムに応募したのです。無事に選考を通過し、夏休みに1週間カンボジアを訪れました。戦争博物館やNGOの活動現場などを見学したのですが、最も強く印象に残っているのが田舎の小学校での体験です。

 私は中学生の頃、途上国の小学生に奨学金を送るボランティア活動に参加していたのですが、このプログラムで偶然にも、その頃の奨学金送付先の小学校を訪れることができました。ボランティアをしていた頃は、満足のいく金額を集め達成感を得ていたので、自分の活動の成果がこの目で見られると思い、ワクワクして小学校を訪れました。しかし、そこで目の当たりにしたのは、予想とは程遠い厳しい現実でした。

 学費を払えない貧しい家庭はかなり多く、支給希望者数に対して奨学金は全く足りていませんでした。また、小学校自体の数が少なく、通学距離が20キロほどになってしまうために学校に通えない子供達もいました。彼らは学校の隣に粗末な小屋を建て、そこで身を寄せ合って暮らしていたのですが、その原因は政府による学校建設の遅れなのです。奨学金だけではどうにもならない現実に言葉を失いました。

 中学生の時の達成感は自己満足にすぎなかったということに気付かされ、大きなショックを受けた私は、これをきっかけに「自分たちの活動に本当に意味があったのか」「効果的な支援とは何なのか」ということを考えるようになり、この経験をつづった作文でJICA中学生・高校生エッセイコンテストの最優秀賞を受賞することができました。

現地でのボランティア活動の様子

自己流で始めた探求活動

 カンボジアで見た現実を変えるには何が必要なのか。帰国後、私はこの疑問に自分なりに立ち向かってみようと決意しました。まずはカンボジアの教育についてもっと知りたいと考え、書籍やインターネットで調べてみたものの、日本語はおろか英語のサイトでも具体的な情報はなかなか見つかりませんでした。そこで、札幌にいるカンボジア人留学生にインタビューしてみることにしました。

 留学生からは、政府の教育予算の話や学校のカリキュラムなど、本やインターネットでは手に入りにくい詳しい情報を聞くことができました。また、カンボジア人留学生の数がかなり少なく、すぐにインタビュー相手がいなくなってしまいました。しかし、ここで調査をやめるのではなく、「カンボジアの現状を他の国と比較してみよう」と考え、調査する国を増やしてみることにしました。

 中国や韓国からの留学生や、視察で北海道を訪れたバヌアツ(太平洋に浮かぶ島)やジブチ(アフリカの一国)の教師にも突撃するなどインタビューを続けていくと、複数の国に同じ課題があり、国によって対応策が異なるなど、予想もしなかった発見がたくさんありました。そして、いろいろな国の教育政策を比較していくうち、大規模に環境を改善するためには行政の取り組みが不可欠であり、現状ではその取り組みがうまくいっていないのではないかと考えるようになりました。その頃には、将来はカンボジアなど途上国政府の教育行政を改善する手助けをしたいと思うようになっていました。

家から学校まで遠い生徒は、学校の隣にあるこの小屋で共同生活する。木と木の皮でできた粗末なものだった

見え始めた「推薦入試受験」への道

 学校行事や勉強、部活動と並行してインタビューを続け、2年生も終わりにさしかかっていた頃、学年最後の教師面談で担任の先生から東大推薦入試の受験を勧められました。僕は当初、この提案にはいささか消極的でした。実は、以前にこの入試の説明を聞く機会はあったものの、「自分には関係ない」と説明を聞き流していたのです。

 一方で、その頃の僕は前期一般入試の第一志望を東大にしていました。途上国の教育行政を研究する大学教員は多くないのですが、ぜひ教えを請いたいと思う先生が東大教育学部にいらっしゃったのです。

 しかし東大に合格するためには、今の探求活動をやめて受験勉強をしなければいけません。自分の強い意志で始めた独自の活動をやめる気にはどうしてもなれませんでした。「受験勉強と探求活動の両立」に悩んでいたのです。

 担任の先生からの勧めで推薦入試について調べてみると、様々なメリットがあることがわかりました。例えば、一般入試で入学した生徒は2年間専門を持たず、様々な分野の基礎的な授業を2年間受ける必要がありますが、推薦合格者はより早くから教育学部の専門的な授業が受けられるのです。

 その一方で、その年に初めて実施されるため試験についての情報はゼロ。対策の立てようもなく、教育学部のわずか5名の枠を「スーパー高校生」と呼ばれるような人材と競うことになります。受けるべきか、受けないべきか。僕はすごく迷いました。最終的には、「この推薦入試なら探求活動を続け、それを受験に生かすことができる。志望校が変わらないのなら、ダメ元で推薦入試も受けてみればいい」と考え、一般入試と推薦入試のダブル受験を決意しました。

 次回は、改めて東大推薦入試とはどんなものか、自分の体験を交えながら紹介したいと思います。

韓国からの留学生にインタビューした時の様子