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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ニュースの見方(31)インターバル制って何?
働き方改革が必要なワケ

戸崎肇 authored by 戸崎肇大妻女子大学教授・経済学者
ニュースの見方(31) インターバル制って何?働き方改革が必要なワケ

 昨年は、電通の若い女性社員が長時間の労働を苦にして自殺を遂げた問題が大きく取り上げられました。今年に入って、新たに三菱電機でも違法な長時間残業の問題が明らかになりました。産業界を見渡すと、残念ながらこれまでの教訓は十分に生かされていないようです。

三菱電機の本社が入るビル(東京・丸の内)

三菱電機が若手に長時間残業

 三菱電機情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)が2013年4月に入社した男性新入社員に違法な長時間残業をさせたとして、厚生労働省神奈川労働局は1月11日、三菱電機と当時の上司を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。上司からは残業時間を過少申告するように求められていたといいます。

 この男性は適応障害になり、休職に追い込まれ、休職期間が満了された時点で解雇されています。憧れて入ったであろう大企業で、若い人材がこのようにつぶされていくのは本当に残念です。すでに世慣れした筆者くらいの年齢になれば、なぜそのようになる前に辞めなかったのかと言いたくなるところですが、真面目であればあるほど、追い込まれても何とかしなければならないと思ってしまうのでしょう。

世界から取り残される危機

 人手を確保しにくい中小企業が、取引先から無理難題を押し付けられ、長時間の残業を強いられることもあるでしょう。もちろん中小企業だからといって、違法な勤務形態は許容できるはずもありませんが、昨年来、電通や三菱電機など大企業で不法行為が続けて明らかになったことは見逃すことはできません。

 このままでは国際市場において公正な競争ルールを守っていないと、日本の企業は激しいバッシングと不買運動を起こされかねません。エコノミック・アニマルと言われた高度経済成長期の悪い側面がそのまま引き継がれているような感を受けてしまいます。

退社する電通の社員ら(2016年12月28日、東京都港区)

EUでは11時間の休息が義務

 日本の労働者保護の体制整備は、進んだ取り組みをしている欧州にかなり遅れをとっています。そうした状況下において上記のような深刻な問題が発生し、長時間労働の是正が緊急性の高い重要課題となっている中、欧州の取り組みを取り入れていこうという動きもやっと出始めました。

 その一つが「勤務時間インターバル制度」の導入です。従業員が退社してから翌日に出社するまで、一定の時間を空ける制度です。EU(欧州連合)では1993年のEU指令により、加盟国に対して、①24時間につき最低で連続11時間の休息時間を付与すること、②7日毎に最低連続24時間の休息日を付与すること、③週の平均労働時間が時間外労働を含めて48時間を超えないこと――などを義務付けています。このうち、特に注目されるのが①の連続11時間で休息をとるという項目です。

 残業時間を多少減らして早めに退社したとしても、固定された始業時間に必ず出社しなければならなければ、十分休むことはできず、結局は疲労が蓄積されていって健康を害してしまいかねません。また家族ともすれ違いの状態が続いてしまいます。帰宅する時間が夜遅くとも、翌朝に多少なりともゆっくりと家庭で時間を過ごすことができれば、子供や家族と話す時間もでき、家族の絆をしっかりと保すことも可能となります。

KDDIや三井住友信託が導入

 日本でこの制度を導入している代表的な企業の1つとしてKDDIがあります。KDDIでも長時間労働の解消が問題となっていましたが、2015の春闘の際、労働組合の側から「インターバル制を全社に導入してほしい」という要求がなされ2012年に裁量労働制を適用している一部社員を対象に、2015年7月からインターバル制度を導入しました。この結果、就業規則で8時間のインターバル制度を制定し、これを下回った場合には、8時間経つまで就業禁止とし、翌日の就業時間を遅らせます。そして安全衛生管理規定においては、月に数日は11時間を下回っても違反とはしないまでも、11時間未満の日が1月に11回以上になった場合には産業医との面談を行うことを義務付けました。

JTBグループはインターバル制度を導入している(写真は過去のJTBグループの説明会の様子)

 昨年12月からは三井住友信託銀行がこの制度を導入しました。こちらはインターバル時間を最低9時間に設定しています。この他には、JTB(国内グループ企業の約半数で9~11時間程度の休息を確保)、NEC(勤務が午後11時半以降に及んだ場合には、翌日の出勤時間を1~2時間遅らせることができる)、ホンダ(12時間のインターバル)、いなげや(2017年度に導入予定、パートを含めた約1万人の従業員に対し10~12時間の休息時間を確保)、などの企業が導入してきています。企業によって保障される休息時間はまちまちですが、業態の違いもあり、致し方のないところではあります。こうした制度を導入したこと自体を評価すべきでしょう。

ホンダもインターバル制度を採用(家電見本市「CES」で会見するホンダグループの本田技術研究所=2017年1月5日、米ラスベガス)

夜中のメールはダメ?

 世界的な動きとして、業務時間外に企業が労働者に対して電話やメールで連絡することを禁止するようになっています。フランスではこの点が労働協約の中に追加されていますし、ドイツでもこうした規程を設ける企業が出てきています。せっかく会社から離れることができても、仕事に関して携帯やメールなどでの対応をその時間帯に強いられてしまえば、いくらインターバル制度を導入しても、その意義は非常に小さくなってしまいます。

人を大切にする会社を選ぼう

 休息の時間であることをたてに、規程がなくてもこうした連絡に応じないという手もありますが、そのことを理由に会社から不当な扱い、評価をされてはたまったものではありません。きちんと連絡に応じない権利を明確にすることの意義は大きいのです。

 皆さんも就職活動する上で、人を大切にする企業を選びましょう。経営学の研究においても、人を大事にする企業こそが業績を伸ばし、成長していることが証明されているのですから。

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