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[ liberal arts-大学生の常識 ]

五行歌の世界(1)ジェルネイルが歌になる

吉野佳苗 authored by 吉野佳苗
五行歌の世界(1) ジェルネイルが歌になる

 はじめまして。五行歌人の吉野佳苗です。「五行歌って?」と思う方が多いと思いますので、一回分たっぷり使ってご紹介させてください。まだまだ未熟な私が「五行歌人」を名乗るのはおこがましいですが、「文学、特に詩歌を真剣にやっていきたい」、「伝手もないし、大きな賞をもらったこともないけど好きなことをあきらめたくない」という方の参考に、少しでもなれば嬉しいです。

 破壊と
誕生
同時に起きる合図
ぴきっ
卵に入ったひび

 これは私が作った五行歌です。五行であれば他にルールはなく、自由に書くことができます。2016年12月発行の『五行歌秀歌集3』に選んでいただいた歌でもあります。

 「詩歌」というと「高尚なもの」と考えたり、逆に「ポエム書いているの?」とばかにしたりする人がいます。しかし、日常の中でふとしたことを自分の思うままに書きとめて、感情をアウトプットできる、誰にでもできる素晴らしいものだと思います。

 ちなみにこの歌は、以前勤めていた保険会社の忘年会が終わった深夜に作りました。ジェルネイルを初めてやったのですが、あまりケアをしていなかったせいかヒビが入ってしまったのです。ほろ酔い気分でその様子を見た瞬間に、なぜか上の歌が生まれました。変てこな例ですが、「誰にでもありそうな日常の中でも歌は生まれる」と思うのです。見過ごしたら「あっネイル割れちゃった」で終わるところを(それも歌になりそうで面白そうですが)、自分の頭の中の違う情報と合わせたときに、新たな世界が現れます。人それぞれ持っている思い出、感情、情報は異なるので、同じものを見ても書き手ならではの歌になると思います。

五行歌とは?

花や木、空など自然から歌のヒントを得ることが多いです

 この「五行歌」を考え出したのは、「五行歌の会」主宰である草壁焔太先生で、1957年、19歳のときでした。そして1994年に「五行歌の会」が結成され、その4月より月刊誌『五行歌』が刊行されました。現在、全国の支部数は100を超え、同人・会員数約1000人、学習に採り入れている学校は、約120校も。この月刊誌『五行歌』の同人に私がなったのは、2015年8月号からでした。

 「五行歌の会」には、月刊誌『五行歌』や五行歌の個人歌集、秀歌集などを発行する出版社があります。私は2016年4月から、その出版社に勤めています。なぜ勤めることになったかは次回以降にお話させていただくことにして、どんな仕事をしているかを簡単にご紹介します。

 出版の仕事の編集、校正、発送以外に、五行歌を広めるための講演会や勉強会、五行歌人が一年に一度集う、全国大会という歌会の準備などがあります。

 私も少しずつ関わらせてもらっているのですが、担当している仕事で一番多くの時間をかけているのは、校正作業です。2016年秋に『校閲ガール』という石原さとみさん主演のドラマが放映されていたので、見ていた方は少しイメージがしやすいかと思います。雑誌や歌集に掲載される歌が誤って入力されていないかなどの確認をしています。

どんな風に五行歌を書いているの?

「関東新年合同五行歌会」の受付にて

 私の場合、「①ひらめくとき」と「②意識して歌を作るとき」の2パターンで五行歌を書いています。何年も前に気になっていた言葉と、今日そのときに気になった景色が合わさって歌が生まれる瞬間があります。また、「書くぞ!」と意識して、自分から自然の中や、友人が経営しているカフェに出掛けていってひたすら書くこともあります。下の歌は、②で書きました。

 散ってしまうより
きれいな形を残したいから
と 押し花になることを
選んだ恋
ただただ苦しい

どうして五行歌にはまったの?

草壁先生の著書・歌集、月刊誌『五行歌』『秀歌集3』

 五行歌に出会ってから10年になります。はまったのは、新聞投稿で入選したことがきっかけです。「評価してもらえた、詩歌を書いていていいんだ」と嬉しかったです。しかし、そのあと投稿しても投稿しても入選しませんでした。ではなぜ書いていたか。単純に楽しかったからです。五行という制限があるため、重複した表現や無駄な言葉をはぶいていくと、すっと言葉がしまります。また、一行の中は短くも長くもできるので、自由に思いを表せます。五行の中にある無限の可能性に、次はどんな歌を書こう、この表現なら入選するかなと工夫をすることに夢中になりました。

毎月歌会を開催

 「全国に支部がある」と上記に書いたのですが、これは「歌会」のことです。地域の公共施設などを借りて、月に一回歌会を開催します。歌は事前に提出し、歌会当日に作者名を伏せた歌のプリントが配られるので、それぞれ点数をつけ、意見を交わします。私も埼玉県にある歌会のひとつ、「小江戸五行歌会」の事務局をしています。会場を予約したり、資料を作成したり準備をする係です。始めは、私の力不足で運営がうまくいかないことがありました。

 いまは、チラシを作ったり、歌会ブログを作成したり、五行歌の先輩方に助けていただきながら、参加者を増やすために少しずつ動いているところです。歌会で他の方の五行歌に触れたとき、作者の心からの思いが伝わってきて感動します。また今までにない比喩表現、新しい視点から切り込んだ歌に惹かれます。

 以前、数名の五行歌人の方が話をしてくださる研究会に参加しました。そこで「人生を充実させるためには、『異職業、異性、異年齢』の3つの『異』と交流することが大事であり、まさに歌会がこれを可能にする」という内容のお話をされた方がいました。社会人サークルや習い事と比較して考えたときに、五行歌の歌会は、「異年齢」の幅が広いことが大きな特徴だと思います。歌会だとだいたい小学生~100歳くらいの方と知り合えます。

 今回は、内容がやや説明的になってしまいましたが、次回は、詩歌の道に進むと決めたきっかけや、学生時代のことを中心に書きたいと思います。ぜひお読みください!

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