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HAKUTOとau、
月面映像の通信でタッグ

HAKUTOとau、月面映像の通信でタッグ

 日本初の月面探査という夢が現実になろうとしている。米グーグルが2017年に開催する月面探査の賞金レースに民間チーム「HAKUTO」が参加するのだ。米国や中国など、世界中から10カ国のチームが参加するなかで、KDDI(au)が通信面や資金のサポートをするなどHAKUTOはオールジャパンでチャレンジする。

重さ1キロ打ち上げに1億円超

 グーグルが開催する競技は、民間開発の無人探査機を月面に着陸させた上で、月面探査ロボットが500メートル以上走行し、カメラで撮影した月面の静止画や動画を地球に送信するというものだ。全世界から16チームが参加し、賞金総額は3000万ドルに達する。

 HAKUTOチームでは、16年内にも月面を探査するロボットローバーの開発を終え、17年初には、月面に飛ばすモデルの製造を完了させる予定だ。そのために、課題となったのがコストと技術力だ。

HAKUTOが月面に送り込もうとしている探査用のロボットローバー

 HAKUTOチームが開発しているロボットは、あくまで月面を探索するだけのもの。月面までは、他の会社が開発したロケットに相乗りさせてもらう必要がある。相乗りで月面に到着し、そこから探査を始めるというわけだ。相乗りするには「乗船代」が必要となるが、この費用は1キログラムあたり約1.2億円にもなるという。

 そこで、HAKUTOチームがまず取り組んだのはロボットの軽量化だ。

 2011年8月に発表した開発当初のモデルでは10キロあった重量を、最新モデルでは約4キロまで軽くすることに成功している。チームHAKUTOの代表である袴田武史氏は「とことん軽量化するために二輪タイプのロボットを開発したいと考えていた。だが、参加するだけでなく優勝を狙えるロボットを開発するために、あえて四輪を選択した」という。

 ライバルである米国チームの900キログラム、中国チームの120キログラムと比べても、HAKUTOチームが相当に小型軽量化を図っていることがわかる。

 16年9月に鳥取砂丘で行われた試験で、ロボットが実際に走行しているところを見たが、本当に小さくゆっくりと進んでいる姿が印象的だった。おそらく、模型メーカーのタミヤが市販する無線操縦カーのほうが圧倒的に速いスピードで鳥取砂丘を走り抜けることができると思う。

汎用の部品と技術を積極活用

HAKUTOはKDDIをはじめとする日本企業が支援している

 ロボットの開発コストを削減するために、部品として民生品を積極的に流用している。スマートフォン(スマホ)に搭載されている基盤などの身近な民生品を採用し、最終的には民生品の使用率を70%までに高めている。さらに、実験などもチーム自ら実施することで、開発コストを大幅に節約することに成功した。

 もちろん、大きなプロジェクトだけにスポンサー集めも重要となる。今回のHAKUTOプロジェクトに積極的に名乗りを上げたのがKDDIだった。田中孝司社長自ら前のめりとなり、メーンスポンサーとなって自社のCMにもHAKUTOを登場させる熱の入れようだ。

 KDDIがサポートするのは資金の面だけではない。月面に着陸し500メートル以上走行した上で、日本に高解像度の動画や静止画を送るには通信技術も重要となる。KDDIでは、こうした通信面の開発についてもバックアップしている。

 月面を探索するHAKUTOのローバーには、垂直に伸びる2本のアンテナが立っている。ここでは短距離向けだが高速通信が可能な2.4ギガヘルツ(GHz)帯と、長距離向けの900メガヘルツ(MHz)帯という2つの周波数帯を組み合わせて通信する。

月面の映像を遠く地球まで送信

HAKUTOの通信部分はKDDIが全面的にバックアップしている

 月面に着陸した際の着陸船と、HAKUTOプロジェクトのローバーとの通信において、2.4GHzと900MHzの電波を使い、KDDIがサポートをすることになる。月面と地球との間の通信は、ロケットを月面まで飛ばす会社が担当し、通信の伝送速度としては「100Kbps程度と聞いている」(袴田氏)。

 鳥取砂丘の実験では2.4GHz帯を使うにあたって市販されている無線LANルーターを活用していた。もう一つの900MHz帯もKDDIがスマホやケータイ向けに長年利用している800MHz帯に近い、いわゆるプラチナバンドと呼ばれる周波数帯だ。日本ですでに広くサービス提供されている周波数帯を使えば、KDDIとしてもノウハウがあるだけでなく実験もやりやすい。あえて、普段から扱い慣れており、民生品の流用も可能な周波数帯を使うことで、実験にかかるコストも節約しているわけだ。

 ちなみに、月面における電波事情に関しては、1960年代からのアポロ計画のころの資料に少なからず残されており「当時は2GHz以上の電波を使って交信していたとされている」(開発担当者)という。

 月面探査をする上で、カメラで周辺の状況を撮影しながら、地球にその画像を送り、ゆっくりと進んでいくことになる。ローバーには360度の視野を確保できる4台のカメラを装備。鳥取砂丘では、月面の光の状況に近い夜間の真っ暗な中で、きちんと周辺をカメラで撮影し送信できるかという実験をした。

 ここ最近、キャリア各社は、端末ラインアップは似たようなものがそろい、ネットワーク品質も同質化が進んでいる。そんななか、インパクトのあるCMを大量投入することで、KDDIは自社の存在感を訴求している。最近は各キャリアともモータースポーツやサッカー、ヨットなどへのスポンサーシップを強化している。KDDIは、さらに「宇宙」という分野を支援することで、ユーザーに新たなブランドイメージをつくろうとしているようだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで趣味どきっ!「はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

[日経電子版2016年11月20日付]
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