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[ career-働き方 ]

VOYAGE GROUP社長に聞く(下)ワンピース世代を率いて目指す
理想の「海賊経営」

VOYAGE GROUP社長に聞く(下) ワンピース世代を率いて目指す理想の「海賊経営」

 学生結婚を原点に、コンサルティング会社やベンチャー企業での勤務経験を経て起業へと踏み出した宇佐美進典氏。アクシブドットコムからECナビ、そして現在のVOYAGE GROUP(ボヤージュグループ)へと、事業内容の見直しに合わせて数度にわたり、社名を変更してきた。IT(情報技術)業界では珍しい朴訥(ぼくとつ)タイプの社長兼CEOは「海軍」よりも「海賊」に憧れるという。海賊の少年を主人公にした世界的な人気漫画『ONE PIECE(ワンピース)』世代の従業員を率いるリーダーは今、何を思い、何と格闘しているのか。今年からスタートした「宇佐美プロジェクト」の意味などについて聞いた。

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◇   ◇   ◇

 米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズがパソコン「マッキントッシュ」を開発していた際、ビルの屋上にドクロの海賊旗を掲げ、「海軍に入るより、海賊であれ」とメンバーを鼓舞した話を何かの本で読みました。そのことが頭の片隅にありましたから、「海賊」には一種の憧れのような気持ちを抱いていました。

 僕らよりも上の世代にとって、海賊はあまりいいイメージじゃないかもしれません。でも、僕らより下の世代が海賊と聞いて思い浮かぶのは漫画の『ワンピース』ですから、世界政府直下の「海軍」よりも、公権力に抗う「海賊」の方がむしろ、ヒーローなんです。

社員は「クルー」で、事業は「航海」

VOYAGE GROUP 社長兼CEO 宇佐美進典氏

 VOYAGE GROUPでは、オフィスを「海賊である社員が、既存のルールを打ち破り、新しい社会、新しいサービスを創り出していくべく航海を続ける場」と定義しています。そのイメージを最初に形にしたのは2007年、社員の誰もが立ち寄れる社内バー「AJITO(アジト)」をつくった時だったかもしれません。規模が大きくなり、社員数も150人を超えてきて、社内全体がなんとなく固まってきたなという時期。その停滞感を打ち破るためにも、社内にもっと熱く語れる象徴的な場が必要だと感じました。

 ただし、具体的に「海賊」という言葉が出てきたのは、10年ごろのことです。オフィスをリニューアルする際、全体を「新時代を切り開く航海――VOYAGE」のイメージで統一する案が浮かんできて、それがそのまま社名になりました。それまでの「ECナビ」から社名変更したのは11年のことで、その時に社内のすべてを「海賊」や「海」に関するキーワードで表現しました。

 例えば、このフロアにある会議室の名前はすべて大陸の名前からとって付けています。ちなみに、この部屋は「アトランティス」。社員は「クルー」で、AJITOは「近未来的海賊の隠れ基地」。社内の失敗を共有し合う勉強会は「座礁学」、現場で起こり得る問題を、その問題に直面している人物などから学ぶ会は「見聞学」と呼んでいます。

 ボトムアップの経営改善を求める制度は「CANI(カニ:Company Advice New Innovation)」、新規事業提案制度は「EBI(エビ:Excellent Business Innovation)」。ここまでくると、ややこじつけ感のある名称ですけれど(笑)。

ゴールを共有できずに失敗した苦い経験

 制度の名前はやはり、覚えやすい方がいいんです。企業理念もわかりやすく「360℃スゴイ」を掲げています。IT(情報技術)企業の経営で難しいのは、ともすると営業とエンジニアの持っている文化が違いすぎてバラバラになってしまうこと。そこを統一して同じ方向に向けていくには、目指すゴールのイメージを共有しておくことが大事です。

「ゴールが共有できていないと、組織はバラバラになってしまう」

 僕自身がそのことを痛感したのは起業する直前、社員数人のベンチャー企業に勤めていた時でした。典型的な「プロダクトアウト」発想の会社で、ソフトウェアをつくったはいいものの、それを売る仕組みがまったくできていませんでした。これはもう自分でなんとかするしかないと思い、ビジネスプランをつくって助成金の申請をしたら、運良く1億円の助成金が下りた。

 よし、これで起業しようと思い、当時所属していた会社も含め、ベンチャー企業何社かでコンソーシアムを結成しました。プロダクトをつくるまでは良かったんです。みな和気あいあいとしていた。ところが、いざ、それをリリースしようという段階になった時、やれ、どこの会社がどんな権利を持つかの分け前でもめて、結局、リリースできませんでした。

 そんな経験を通じてつくづく思ったのは、会社をつくるなら、最初に集める仲間が大事だということ。ゴールが共有できていないと、組織はバラバラになってしまう。最初につくったコンソーシアムで失敗したのは、プロダクトを「つくること」にコミットする人間を集めてしまい、最終的に「それをリリースして成功させる」というゴールを共有できていなかったからでした。

能弁じゃなくても会社は回せる

 会社経営者としてやらなくてはいけないと思いながら、今も十分にできていないと感じるのは、僕が期待していることをきちんとクルーに伝えること。上場し、組織が階層化していくとガバナンス(企業統治)的には透明化していいのですが、リポートライン(命令系統)を超えた柔軟なコミュニケーションは、むしろ、しにくくなる。特にここ1、2年は僕自身、現場と少し離れすぎてしまったなという感覚があり、もっと直接コミュニケーションできる機会を増やしたいと思っていました。

 そんななか、16年から立ち上げたのが「宇佐美プロジェクト」です。イメージ的に言うと、これは「影の内閣」みたいなもの。いずれ幹部になるであろう中堅以上のクルーに声をかけ、3カ月から半年のタームで非公式の勉強会を開いています。

「自分自身がしゃしゃり出なくても順調に回る会社が理想」

 1タームあたり集まってくるのは8、9人で、メンバーを入れ替えながら、それぞれ都合6、7回、全社的な課題などを話し合っています。業務時間外の自主的な集まりという位置付けで、午前8時から9時半までの約1時間半。「今度、こんな会社をM&A(合併・買収)するんだけどどう思う?」というようなことも、率直かつオープンに話します。その代わり、「インサイダー取引にならないよう、気をつけろよ」と、くぎは刺しますけれど。

 そのあたり、うちは性善説です。クルーのことは信頼していますから、僕が考えていることを正直に話しますし、現場の声も真摯に聞く。これまで2ターム、合計20人くらい集めて実施しました。

 社長が情報収集をする手段にはいろいろあるかと思いますが、結局、業界全体の主要な動きを一番身近に感じているのは、現場の担当者ですから。社内から上がってきたミクロの情報と社外で拾ったマクロの情報。それを組み合わせてつくった見取り図を、自分自身が持つ羅針盤にかけながら経営している感じでしょうか。

 僕はもともと能弁なタイプじゃないし、クルーと話す時はむしろ、聞く方に回ることが多いです。なるべくいい質問を投げかけるようにして、それによって相手に気付いてもらう。ゴールが共有できた上でクルーが自律して動いてくれているのであれば、社長は何も言う必要はない。僕自身がしゃしゃり出なくても順調に回る会社が、理想だと思います。

宇佐美進典氏(うさみ・しんすけ)
1972年愛知県生まれ。96年早大商卒。トーマツコンサルティングなどを経て99年10月にアクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)を創業。同年に懸賞サイト「MyID」をオープンし、2004年価格比較サイト「ECナビ」にサービス転換。01年サイバーエージェントと資本業務提携し、05年から5年間サイバーエージェント取締役も務める。12年サイバーエージェントからMBO(経営陣が参加する買収)で独立。14年東証マザーズ上場、15年東証1部に市場変更。

(ライター 曲沼美恵)[日経電子版2016年11月24日付]

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