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[ career-働き方 ]

同族経営の事件簿
創業家が目立った1年

同族経営の事件簿創業家が目立った1年

 セブン&アイ・ホールディングス、出光興産、大塚家具、大戸屋ホールディングス、ロッテ......。2016年は同族企業にとって創業家のあり方が問われるケースが目立った。前ファミリービジネス学会会長の奥村昭博静岡県立大学特任教授・慶応大学名誉教授とファミリービジネスをめぐって起きた出来事を振り返りながら17年の動向を展望する。

ファミリーが存在感をリマインド

 15年のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)をはじめ、上場企業はこのところ、グローバルで共通な仕組みづくりを進めてきた。奥村教授は創業家の活発化がこうした流れのなかで起きたことに注目する。「追いかけてきた欧米のグローバルスタンダードにはほころびがあり、例えば所得格差やポピュリズムの台頭を招いている。『思っていたものでない』と気づいた創業家が『企業は何のために存在するのか』『創業のDNAとは何か』と問い直し、ファミリーの存在感をリマインドしたといえるだろう」(奥村教授)

 セブン&アイ・ホールディングスで会長兼最高経営責任者(CEO)を務めた鈴木敏文氏が4月、退任を表明。その過程では創業家、そしてコーポレートガバナンス・コード導入に伴う社外取締役が存在感を示した。

 「流通のカリスマ」、鈴木氏が去るきっかけは、中核子会社セブン―イレブン・ジャパン社長をめぐる自らの人事案が取締役会で否決されたこと。表決権を持つ取締役は15人。無記名による投票の結果、賛成は7票となり過半数に達しなかった。反対は6票、白票が2。

セブン&アイ・ホールディングス本社(東京都千代田区)

 表決をめぐっては、伊藤雅俊名誉会長の創業家が反対に回ったことに注目が集まった。伊藤氏はそれまで鈴木氏の人事案に口を出したことがなかったという。方針を変え、中興の祖ともいえる鈴木氏を支持しなかった影響は大きかった。鈴木氏は記者会見で「世代が変わった」と述べた。

 もう1つのポイントは社外取締役と創業家とのあり方。コーポレートガバナンス・コードによって、上場企業は2人以上の社外役員を置くことを求められる。セブン&アイのトップ交代では、社外取締役が鈴木氏の示した人事案に反対を表明。この仕組みが機能したと評価する見方が強い。

 一方で創業家の反対は任意の指名報酬委員会を通じ、「大株主の意向」として少なくとも一部の社外取締役にあらかじめ伝わっていたという。奥村教授は「それが本当に必要だったのか」と指摘する。伊藤家の持ち株は約1割。社外取締役、指名報酬委員会と創業家の関係は今後もファミリーとビジネスとの関係を考えるうえでポイントになりそうだ。

 歩調を合わせるように、セブン&アイでは次世代にも動きがあった。伊藤氏の次男で取締役執行役員を務めていた順朗氏が12月19日、取締役常務執行役員に昇格。一方で鈴木氏の次男、康弘氏は12月30日付で取締役を退任。創業家が存在感を増す形となった。

創業家が表に出た出光

出光興産では創業家と経営陣の対立が表面化した

 出光興産では創業家がもっとはっきりした形で表に出てきた。出光は大家族主義を掲げるなどユニークな企業文化を持つことで知られてきた。創業者の出光佐三氏が主人公のベストセラー小説「海賊とよばれた男」が12月に映画化された。

 昭和シェル石油との経営統合を進める経営陣に対して、創業家は6月の株主総会で反対を表明し、「創業家の乱」といわれた。石油産業に対する危機認識は佐三氏の長男で元社長の昭介名誉会長ら創業家、月岡隆社長ら経営陣ともに持っている。しかし今後の経営改革について、企業文化を強調する創業家は独自の合理化や販売努力が必要だと指摘。経営陣は昭和シェルとの「対等の精神」に基づく経営統合を掲げた。両者の溝は深く、話し合いの場が持たれたが、解決の糸口は見えないままだ。

あり方は一様ではない

 創業家が注目を集めるなか、ベネッセホールディングスで6月、原田泳幸会長兼社長が退任するなど、社外から加わった「プロ経営者」は退陣が相次ぐ1年だった。ただし、家電量販店のケーズホールディングスでは6月、創業家出身で会長兼CEOを務めた加藤修一氏が相談役に退き、ファミリー出身の取締役がいなくなった。ファミリーと会社のあり方は一様でなく、トヨタ自動車とスズキが10月に業務提携に向けた検討に入ることに合意したときには、創業家同士の絆が指摘された。

 ファミリー内の対立も目立った。同族企業のコーポレートガバナンスには、創業家をまとめるファミリーのガバナンスと事業についてのビジネスのガバナンスがある。ファミリーのガバナンスは同族企業に特有であり、「トップは2つのガバナンスに気を配る必要がある」(奥村教授)

大塚家具の親子対立は新局面に

大塚家具の大塚久美子社長=右=と父で創業者の勝久氏は今後、事業を通じて競い合う

 大塚家具はここ数年、社長の大塚久美子氏と父で創業者の勝久氏が対立。2つのガバナンスの間で揺れてきたが、親子は16年、とうとう事業家として別の道を歩み始めた。

 14年に始まった経営権争いは15年3月に終結。バトルは法廷に舞台を移し、久美子氏が役員を務める資産管理会社の社債償還をめぐる訴訟となった。4月11日に東京地方裁判所の判決で勝久氏が勝訴。久美子氏は控訴せず、利息を含む約17億円を勝久氏に支払った。

 勝久氏は3月上旬までに大塚家具の株を売却して主要株主をはずれた。その後、家具販売会社、匠大塚(東京・中央)の営業を4月から開始。長男の勝之氏も加わった。これに対して、久美子氏は大塚家具の経営改革として、価格帯や店舗サイズを見直すと同時に中古家具の販売にも乗り出した。この結果、父娘はそれぞれの会社を率いてビジネスの場で争うことになった。

 ファミリーをめぐるガバナンスではほかにも例えば、ロッテで15年に創業者、長男と次男の対立が表面化。騒ぎが収まらないまま韓国の検察が16年10月、3人を横領などの疑いで在宅起訴する事態となった。

気づき始めた創業家

 また、定食店を運営する大戸屋ホールディングスでは15年7月に実質創業者が亡くなり、経営陣と創業家の対立が6月の株主総会で表面化。実質創業者に対する功労金や長男の処遇が焦点となったが、解決していない。

 17年のファミリービジネスの動向について、奥村教授は「企業の価値は時価総額や自己資本利益率(ROE)だけではない。信頼、信用といった社会情緒資産もあり、これはかつての日本的経営のよさと重なる。今年の創業家の動きをみて、ほかの同族企業のファミリーに『自分たちはどうしようか』と考える動きが進むだろう」と指摘している。
(コンテンツ編集部次長 中沢康彦)[日経電子版2016年12月28日付]

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