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発信! 理系女子(10)高校生から学んだ「伝える力」

authored by 東北大学サイエンス・エンジェル
発信! 理系女子(10) 高校生から学んだ「伝える力」

 こんにちは、東北大学サイエンス・エンジェル(SA)の邉見ふゆみです。私の在籍する工学部では、先生方からことあるごとに「君たちにはコミュニケーション能力が必要だ」と言われてきました。学会発表にインターンシップ、就職活動など、自分をアピールする場面でコミュニケーション能力は特に重要になってきます。皆さんは「コミュニケーション能力」と聞いて一体どんな力を想像するでしょうか? 今回から2回にわたって、SA活動をはじめとする他者に「伝える」経験を多く積む中で、筆者が考えた「伝える力」と「聞く力」、2つのコミュニケーション能力についてお話したいと思います。

 私はSA活動でたくさんの高校生と接しています。自分自身が工学部に進学した経緯や大学生活の実際をお話しし、彼女たちの理系進学への不安を取り除き、女性進学者の少ない工学の魅力を伝えるのが私の役割です。基本的には自分のことをお話すればよいので、はじめはそんなに大変でもないかな、と考えていました。しかし、実際に講演の準備をする段階になると、これが予想以上に大変で、学ぶことが本当にたくさんありました。

「半導体」って何?

研究室のメンバー(一番右が筆者)

 私は自分の講演で必ず「私の研究は"半導体"です。半導体って知ってる人~?」と高校生に投げかけます。しかし、高校1・2年生で半導体を詳しく知っている子は、まずいません。物理を履修していない高校1年生に対して講演することもあるので、中学校までの知識で分かりそうな範囲での説明を目指します。限られた時間の中で、どんな説明をすれば初学者にも理解できる話ができるのでしょうか。

 大学院生は普段から学会で外部の人向けに発表する機会は多くありますが(年1~4回ほど)、相手が基本的な知識を持っていることを前提として話を構成するので、背景などを一から説明せずとも困ることはありません。しかし、研究背景や基礎知識をほぼ知らない相手に話すとなると一気にハードルが高くなります。

大学のイベントで子供にラジオ工作を教える筆者(写真左)

 身近な例として、私が通っている東北大学片平キャンパスの所在地を人に説明する場合を考えてみましょう。このとき、相手が日本に住んでいる人なら「仙台駅から歩いて20分ほどの場所にあります」と説明すれば十分通じます。一方で、相手が海外の方ならどうでしょうか? 恐らく仙台が日本のどこにあるか、というところから説明を始めないと多くの方は首をかしげてしまいます。「日本の北部にある仙台という都市にあります」「東京から350kmほど北にある仙台の街中にあります」など外枠から説明する方が親切です。

 これを私の研究紹介に当てはめてみます。私の研究テーマは「窒化ガリウム系高電子移動度トランジスタ(GaN HEMT)の高性能化」です。GaN HEMTの研究をしている人が集まる学会発表なら、背景説明は簡単に済ませ、「高性能化」の具体的な手法を述べます。しかし、高校生も含めて GaN HEMTを知らない人に対して紹介するのであれば、「GaN(窒化ガリウム)とは何か」「半導体とは何か」から始めるべきでしょう。窒化ガリウムとはノーベル賞を取った青色発光ダイオードにも使われている材料で、身近なところだと携帯電話の基地局や気象用のレーダーといった通信に使われています。そしてその課題は...。というように一つ一つを分解して説明して、まずは相手に興味を持ってもらえなければ、聴衆を置き去りにした発表になってしまいます。

初めて担当した子ども向けイベントで作成した資料

GaN HEMTの測定風景

フィールド外の人に説明する難しさ

 自分でやってみてわかったのですが、初心者にもわかる説明をするためには、専門家に向けた説明をする時よりも詳しい知識が必要です。意外に思われるかもしれませんが、学会発表では「木をみて森を見ず」な発表でも相手に通じてしまうので、森(=研究の位置づけや身近な生活とのつながりなど)のことについて改めて詳しく調べる機会はなかなかありません。

 そのためか、いざ後輩や異分野の研究をしている人に説明をする、となると圧倒的に説明下手になってしまう人が私の周りを見る限りでもとても多いように感じます。実際私も、市民向けの講演で「携帯電話等で使われているデバイスの開発をやっています」と自身の研究を紹介したところ「デバイスってなんですか?」という質問を受け、回答に困ってしまったことがあります。普段、自身の研究フィールド (=森) の中だけで生活している大学院生は、外から見た森がどんな姿だったのかを 忘れがちなのかもしれません。おかげでSA活動での講演を終える度に課題が見つかり、自身の研究を見つめ直すきっかけになります。

高校生へのセミナーで研究室紹介をする筆者(写真右)

2015年6月に新館が完成した東北大学電気通信研究所本館

 自分から機会を持とうとしない限り、大学院生の多くは一般の方に研究を説明する機会があまりありません。しかし一方で、自身の専門分野を高校生や専門外の方にもわかるように説明できるスキルは社会人になる上で必須です。せっかくいいアイディアや成果を持っていても、他者に伝わる発表ができなければ真の実力を発揮できません。私はSA活動をする中で、相手のことを考え、何を重視して説明するのか臨機応変に変化させられる「伝える力」が重要だと強く感じました。どんな立場の人にも「わかりやすい」説明ができるよう、学生のうちに力をつけておきたいものです。皆さんは「伝える力」、身についていますか?
(邉見ふゆみ)

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