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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018「就活? もう終わりました」
驚くべき先行組の実態

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 「就活? もう終わりました」 驚くべき先行組の実態

 2018年卒の学生向け採用活動が間もなく本格スタートする。日経電子版「お悩み解決!就活探偵団」もそんな就活生のために今シーズンの連載を開始します。と意気込んだ矢先、シーズン初回から意表を突かれてしまった。就活はずいぶん前から始まっていたようだ。

手取り480万円で夏に即決

 「就活はもうしないと思います。内定もらったので」――。探偵団が取材に取りかかった昨年12月、出会った慶応大3年生の男子学生Aさんはこう切り出した。驚くような話の内容とは対照的に、礼儀正しく穏やかな口調で淡々としゃべるAさんに面くらいつつも話を聞くと、彼の就活は昨年4月に始まっていたという。

 その頃といえば、17年卒の学生の就活が本格化していたタイミング。リクルートスーツ姿で走り回る1学年上の先輩たちを横目に、Aさんは企業と就活生を仲介するウェブサービスに登録した。そこで出会った情報が、あるシステム開発ベンチャーが夏季に実施するインターンシップの告知だった。技術系の学生に人気で、企業のシステム開発をアレンジする、最近伸び盛りのベンチャー企業だ。

 期間は夏休み中の1カ月間。勤務時間は朝8時から遅くて夜8時まで。16万円の給与まで支払われる。インターンには以前から関心があり、お金も欲しかったAさんにとっては好都合だった。1カ月のプログラムを終了したAさんに、会社側は内定を提案してきた。

 当初は「1カ月も社員に接すれば、会社の悪いところも見えてくるだろう」と、就活とインターンを直接結びつけていなかったAさんだったが、「社員さんと接するうちに会社の雰囲気のよさが伝わってきた」と気持ちが変わった。

 ベンチャー企業が先走って青田買いしたレアケースだ、そうレッテルを貼るのは気が早いだろう。ラッキーだった要素もあるとはいえ、Aさんはインターンを通して企業を研究し、社員の生の声を聞いて内定に応じるという就活の基本ステップを踏んだ。会社側も、初年度の年収として手取りで480万円を提示し、内定後も希望する社員と一対一で面談する機会を与えるなど万全のケアを用意した。

IT大手の内定蹴る

慶応大3年生、Aさんの就活は昨年4月に始まっていた

 立教大学に通う男子学生のBさんも昨年夏の段階で7社のインターンに参加し、そのうちの1社から実質的な内定を獲得した。誰もが知る、スマホゲームを主力とする大手IT(情報技術)企業だ。個別の面談や、グループ会社の幹部との会食の機会を設けるなど、他のインターン参加者とは違う厚遇ぶりに、「会社側の熱意を感じた」。

 いったんは「内定」受諾を決意したBさん。だが、別のベンチャーでの長期インターンに参加するうち、気持ちが揺れた。「この会社のサービスを好きになった。それに、ベンチャーでも思いのほかリスクは小さそうだ」。結果的にIT大手の誘いを断り、現在もインターンを続けているこのベンチャーへの就職を決めた。Aさんと同様に、インターンを通じて就職先をしっかり見定めた。

 昨年の経団連のスケジュール変更で、加盟する大手企業の就活は3月に採用広報活動がスタート、6月に選考が解禁となった。今年はスケジュール変更がないため、前年と同じく3月からの「超短期戦」となるはずだが、どうやら実情はそうでもないようだ。

 「コンサルティング会社を目指すのであれば、インターンは内定のために必須だ」

 大学の先輩からこうアドバイスを受けた男子学生のCさん。彼が動き出したのも昨年4月だ。志望するコンサル業界6社のインターンに片っ端から参加した。インターンを終えると、先輩のアドバイスが的中する。

 「選考を受けませんか?」。インターンを受けた企業の一部からメールや電話でCさんのもとに連絡がきた。これは「特別選考」と呼ばれる仕組みで、インターン中に企業側が目星を付けた学生と個別に選考を進めるものだ。エントリーシートの提出や筆記試験が免除され、審査は面接のみとなる。インターンが実質的に選考の場となっていたわけだ。

インターン=選考「本音では、あり」

立教大学3年のBさん。誘いを受けた2社のうち、大手を蹴ってベンチャーへ

 インターンはもともと、就業体験を通じた学生への社会教育という位置づけで国が推進し、採用活動とは結びつけるべきでないという自主規制を経団連加盟の大手企業などに促してきた。ただ、短期決戦で優秀な学生を集めたい企業としては、本来の就活期間だけでは時間が足りない。企業の前のめり姿勢は例年にも増して鮮明だ。

 今年2月に100人が集まる大規模インターンを予定する三菱UFJモルガン・スタンレー証券。同社人事部の嶺有佑・部長代理はインターンと内定について「まったく関係ない」としつつも、「インターンでめぼしい学生を見つけて、採用していいというなら喜んでそうする」と本音を漏らす。

 ルールの形骸化も始まっている。経団連加盟のある大手企業の人事担当者は、「学生の囲い込みはある」と明かす。インターンに参加して優秀だった学生には採用担当の社員1人を張り付けて、継続して接触しているという。「建前はあくまで就活全般の相談に乗る『個人としてのつきあい』。でも実際はごはんを食べさせるなどして、どうにか選考解禁後に面接に来てもらえるように説得している」

 学生側の意欲も旺盛だ。就活支援を手掛けるディスコの昨年11月の調査では、18年卒の学生のうち、インターンに参加したと答えた割合は全体の76.4%で、年々その比率は高まっている。今回、就活探偵団が取材した学生の多くも、インターン経験がすでに5~6社はザラだった。中には2時間ほどで終了する企業説明会のような簡易版インターンもあるという。

 就活本選に先行して過熱するインターン。ディスコの武井房子上席研究員は「短期決戦といわれながら、実質的に就活のスタートは前倒しされ、期間は1年に延びている」と分析する。同社によると、11月末時点で「すでに就活が始まっている」と答えた学生は全体の8割強。もっとも、「回答しているのは意識の高い学生なので、実際は始めていない学生がより多い」(武井氏)という。

「ゆったりさん」の後悔

 「説明会を聞いてから決めようとゆったりしていたら、第1志望を絞り込むだけで手いっぱいになってしまった」。今年春に慶応大を卒業予定の女子学生Dさんは、大手が採用を開始する昨年3月までインターンなどには一切参加していなかった「ゆったり系」。幸い、金融機関からの内定を獲得したものの、焦って十分な準備ができず、第1志望だったテレビ局への就職はかなわなかった。早くもテレビ局の中途採用情報を集め始めているという。

 リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長は「学生の分断がより明確になっている」と話す。意識の高い学生は早くからインターンなどで情報収集を始め、特別採用のような裏ルートを見つけ出し、ゆったり系に差を付けていく。早くも10社以上のインターンに参加した明治大の男子学生Eさんは周囲の就活生について、「さすがにこの時期から動いているだけあって、熱意があり、将来についてしっかりと考えている人が多いと感じた」と振り返る。リードは着実に広がっている。

 今年も企業の採用意欲は引き続き高い。売り手市場で経団連スケジュールも変わらない。ただ、「企業は前年から採用活動をカイゼンして、よりよい人材を確実にとりにくる。同じ傾向だと思わない方がいい」(リクルートキャリアの岡崎氏)。「ゆったりさん」もまだ焦る必要はないが、動き出しは早いにこしたことはなさそうだ。

 悩み、泣き、楽しみ、そして笑う。様々な思いが駆け巡る就職活動は静かに、しかし熱く始まっていた。

(夏目祐介、松元英樹、岩崎航、飯島圭太郎)[日経電子版2017年1月12日付]

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