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平和のかけら(4)私の究極の夢は、自分の仕事を失うこと

栗田佳典 authored by 栗田佳典認定NPO法人テラ・ルネッサンス 啓発チームマネージャー
平和のかけら(4) 私の究極の夢は、自分の仕事を失うこと

 これまでの連載では、認定NPO法人テラ・ルネッサンスの活動紹介、テラ・ルネッサンスで私が働く理由について、「現場」の活動経験について、お伝えしてまいりました。NGOのキャリアでありながら、日本国内でのことも多く記載しておりましたので、最終回となる今回は、アフリカ事業を担当する鈴鹿スタッフの活動現場での体験をお伝えし、取り組みのまとめをしていきます。

自分で自分の未来を切り拓く

栗田 鈴鹿さんは、テラ・ルネッサンスのアフリカ事業マネージャーとして、2016年から、ウガンダ、ブルンジに駐在し海外の支援活動の最前線に立っています。たくさんあると思うのですが、その中で最も印象的なエピソードを教えてください。

鈴鹿 ウガンダでは元子ども兵士の社会復帰を支援していました。私がウガンダに入った2016年6月頃、8期生の元子ども兵たちは3年のプログラムのうち、既に1年間訓練を終えていました。8期生の元子ども兵たちの平均年齢はおよそ28歳で、彼・彼女たちの場合、平均して14年もの間、武装勢力に拘束されていて、つまり人生の半分を反政府軍の中で過ごしてきたことになります。

鈴鹿達二郎(すずか・たつじろう) 認定NPO法人テラ・ルネッサンスのアフリカ事業マネージャー。学生時代に、テラ・ルネッサンスが共催するカンボジア・スタディーツアーに参加し、国際協力に関心を持つ。大学院を卒業後、青年海外協力隊として、アフリカのタンザニアにて、現地NGOで地域住民へのHIV感染予防の啓発活動や現地スタッフへのPCスキル教室開催等の活動を行う。その後、在タンザニア日本国大使館が政府開発援助(ODA)として実施する、同国内の開発プロジェクト支援に携わる。2011年から現在まで働くテラ・ルネッサンスで、東北支援の「大槌復興刺し子プロジェクト」を中心に岩手県で活動を行う。2015年からは、海外事業部の所属となり、現在ウガンダ、ブルンジに駐在して海外の支援活動を行っている

 子どもの時に誘拐されてから教育をほとんど受けておらず、読み書きも計算もできず、自分たちの技術も全くないという状態から、彼らの社会復帰が始まりました。私が彼らと初めて会った時には、既に木工大工や洋裁の訓練を1年間で終えていました。

 彼らと話すと、「ずっと訓練に集中してきて、町のお店にも負けないくらいの自信がついてきた」「自立してお金が貯まったら、奥さんと正式に結婚したい。家を建てて、子どもに教育を受けさせたい」「村に帰ったら、仕事がなくて邪魔者扱いされている若者たちに、仕事を教えて、村に役立つ人材に育てるんだ」と言ったことを話してくれました。過去に壮絶な体験をしてきたにも関わらず、必要なサポートや環境があれば、「同じ人が、これほどまでに変化して、自分の未来を切り拓いていくことができるんだ」ということを、彼・彼女たちから教えてもらいました。

一番大切なことは「平和」であること

栗田 ブルンジでの活動や、その時のエピソードも教えてください。

鈴鹿 ウガンダと同じく、ブルンジも紛争の影響を強く受けた国の一つです。ルワンダ大虐殺は国際社会にも広く認知されていますが、ブルンジでも虐殺が起こっており、1993年からの紛争では、30万人もの人々が亡くなりました。また、現在でも一人当たりGDP(国内総生産)から考えると、世界最貧国と言われている国です。

 ちょうど1年前、出張で初めてブルンジへ入国しました。印象に残っているのは、現地スタッフであるパシフィックの言葉です。彼自身、幼い頃に紛争に巻き込まれ、家族も虐殺されたという状況の中で苦労しながら、勉強をするために大学に通うという(途中で1度大学を辞めているのですが)、大変な人生を歩んできた人です。

ブルンジの子ども達と

 彼は細かい作業ができ、約束も守れるなど、日本人の気質に似ていていました。中でも最も心に残っているのが「ブルンジって色々な問題を抱えているかもしれないけど、何が問題だと思う? 例えば教育とか医療とか?」と質問した時のことです。「その2つも大切かもしれないけど、一番大切なのは『平和』であることだよ」と語っていました。

 平和でなければ、自分たちが自由に行動することもできないし、地域を発展させることもできない。「教育や医療といった個々の問題に取り組む以前に、平和が存在しないと何もすることができない」。その言葉は家族や親せきを紛争で亡くした経験を持つ彼だからこそ、重みのある言葉なのかなと感じました。今、彼は自分の生まれた村でもある、テラ・ルネッサンスの活動地で、住民の人たちと自立したコミュニティーをつくるために、日々活動に取り組んでくれています。

栗田 ありがとうございました。

元子ども兵である8期生の方との会話(photo by Kanta Hara)

一人ひとりに未来をつくる力がある

 最後に私、栗田が当連載のまとめをしていきます。私は「伴走」という言葉がとても好きです。私が、元子ども兵や紛争被害者の人々を助けてあげているわけではありません。私の関わりはあくまでも、自立に向けて寄り添い、一緒に歩んでいくことなのだと思います。

 鈴鹿スタッフは海外を現場とし、直接の関わり合いの中で現地の人々に伴走しています。関わりを深めながら、本音で話し合える関係を構築し、活動を実践しています。私は日本を現場とし、平和な社会をともに目指す人々に伴走し、歩みを続けています。NGOの活動は十人十色。最近はビジネスの手法で社会貢献を実践している企業さんもあります。国際機関でもできることがあります。海外で働きたい、現地の課題を解決したい。そんな思いを実現させる「立場」も今は十人十色なのです。

 選択肢が私の学生時代よりも増えている昨今だからこそ、大切なことは自分のフィールドを自分自身で見つけることです。そのために必要なものは、経験です。ボランティアにしろ、インターンシップにしろ、スタディツアーにしろ、自分でアンテナを張って情報を受信しながら挑戦を続け、自分のフィールドを見つけていってほしいと思います。お金の寄付だけが寄付ではありません。自分の未来のために、大切なその学生生活という「時間」を社会に寄付してみてください。

 「ほっとけない」。そんな問題意識から始まった、私のNGOでの活動。そして絶対に「ほっとかない」という信念のもと、活動は今も続いています。課題に小さいも大きいもありません。でも、課題と認識されないと解決には向かわないのです。まずは「ほっとけない」という関心を増やすこと、そして「ほっとかない」ために行動できる仕組みをつくること。それが私の今の役割です。

 そしてそんな私の究極の夢は、自分の仕事を失うことです。子ども兵という言葉が過去の言葉になり、国際協力というものが必要とされなくなる社会を作りたいのです。言うなれば私は、仕事を失うために仕事をしているようなものかもしれません。この連載が一人でも多くの平和のかけらと共鳴し、そこから新たな可能性が育まれることを願っています。