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career-働き方

「サイゼリヤ 美味しいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」を読んで

平井幸奈 authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO
「サイゼリヤ 美味しいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」を読んで

 こんにちは。平井幸奈です。大学3年生のときにブリュレフレンチトースト専門店ForuCafeを立ち上げた当時、私が思い描いていた「夢」は次のようなものでした。

「自分のお店を立ち上げて、家族のようなチームと仕事がしたい」
「目の前のお客様に「美味しい」と「小さな幸せ」を届けて、その輪を広げていきたい」

 「好きなことを仕事にする」という夢を描き、無防備にエイッ、とこの世界に飛び込んだ当時の私に、強く突き刺さる言葉が本書にはありました。

 正しい考え方は何かといえば、「みんながより良くなる」ことを考えることだ。お客様に喜ばれることは当然だが、従業員や自分自身を含めて、より幸せになることを考える。人がなぜ働くのかといえば、幸せになるためだと私は思う。そして、自分を含めた「みんな」で幸せになることを考えなければ、人は本当の意味では幸せにはなれない。(P.195)

平井幸奈(ひらい・ゆきな) 1992年生まれ、広島県出身。フレンチレストランのキッチンでのアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年8月より2カ月間、単身オーストラリアのシドニー渡り、billsサリーヒルズ店、ダーリンハースト店で修業。帰国後、料理教室・ケータリング単発のカフェプロデュースなどを手がける。13年9月に日本初のブリュレフレンチトースト専門店『ForuCafe』、14年11月にシチュー専門店『ForuStew』をオープン。15年4月に黄金比グラノーラ「FORU GRANOLA」をオープン。

 会社を経営するということは、これに尽きると思います。今、私は株式会社フォルスタイルという会社を経営しています。大学3年生の時にフレンチトーストの専門店を立ち上げました。幾度となく壁にぶつかりつつも、今は飲食店事業だけではなくグラノーラの製造販売事業、「ドラフトコーヒー」の技術開発など事業内容は多角化しています。「チーム」は社員とアルバイトを含め15人。私にとって家族のような存在です。3年前の私には想像もできなかった幸せな毎日。たくさんの方の支えていただき「就職せずに好きなことを仕事にする」という、当時思い描いた通りになりました。

 でも今の私にとってこれは100%「成功」なのかと言われると、そうではありません。家族のような社員、こんなドベンチャー企業に飛び込んできてくれた彼女たちを、報酬の意味でも、会社の地位という意味でも、幸せにできているかといえば全くできていません。

 ある日、ForuCafeに来ていた社員の友人が「よくわざわざ上京して大学に行って、こんな小さくて無名で大変そうな会社で働けるよね。」と話しているのを小耳に挟みました。あまりの悲しさに、その時焼いていたまかないのフレンチトーストを焦がしてしまいました。社員への申し訳なさと悔しさと自分の情けなさにかられながら、その黒く焦げたフレンチトーストを平らげて、更に気持ち悪くなったあの時の味は今でも忘れられません。

 社員が胸を張って働ける会社、社員の家族までも幸せにできる会社に早くしなければいけません。「みんながより良くなること」を徹底的に追求し続けたいと思います。

「自分の店の料理はうまい」と思ってはいけない。それこそが悲劇の始まりだと私は思っている。なぜなら、「自分の店のうまいと思ってしまったら、「売れないのはお客が悪い。景気が悪い」と考えるしかなくなってしまうからだ。商売とは、お客様に喜ばれるという形で社会に貢献し続けることなのに、そんなふうに考えてしまったら、もう改善を進められなくなってしまう。(P.8)

 ForuCafeを立ち上げて2年目、FORU GRANOLAという新規事業の立ち上げに注力していた時期がありました。今だから暴露しますが、後にも先にもその間約半年間くらい、ForuCafeの売上は最低でした。私はどこか「ForuCafeは大丈夫だ!」と過信してアルバイトの子に私の作ったルールを押し付け、言わば放ったらかしにしていました。まさにこれが「悲劇の始まり」だったと思います。

 本書を読んで翌日から、私はForuCafeの現場で働く社員に「1日1つ改善点を提案する」というルールを作りました。3年もすると仕事のルーティーンがある程度出来上がり、そのルールをいかに守りクオリティーを維持し続けられるかという保守的な思考になりがちです。そもそも私が作ったルールは、今現場に立っているメンバーからすると改善すべきと思っても言い出しにくいことがたくさんあるはずです(実際にこれまでも何度か変更したいと言ってくれたことがありましたが、とても言いづらそうでした)。

「思い描いた通りになりました」と話す平井さん

 全員がそれぞれの視点でどうすればより良くなるかを考えるこの作戦は効果覿面でした。「お客様の荷物カゴの置き方は動線を確保するためにこうしたらいいと思います」「トイレ掃除のタイミングは朝一にするべきだと思います」など、これまでのルーティーンを見直して現場の判断で常に改善を進められています。毎回ForuCafeに行くたびに小さな改善点が見つけられ、たった1カ月で大きな変化があったと実感しています。現場の小さな改善を積み重ねること、変化することを恐れずに常にアップデートしていくこと、そして優秀な社員にはその意見をどんどん言ってもらえる環境をつくることは何よりも大切なことなのです。

時代の変化に合わせて変え続けるためには、「大きな目標」を持つことが効果的だ(P.200)

 最後に、正垣さんのこの言葉に背中を押されました。3年前の私にとって、ForuCafeを立ち上げるということは、「夢みたいな大きな目標」でした。「夢みたいな大きな目標」は批判されがちです。家族はもちろん、ほとんどの人に否定され、二十歳の私には大きすぎる夢でした。でもその「夢みたいな大きな目標」を自分自身が実現すると信じて、走り続けることが大切なのだと正垣さんに教えてもらった気がします。

ForuCafeをはじめる3年前の私へ

これから幾度となく苦労苦難があなたを待ちうけています。両親からは「もっと安定した職業に就いて」と理解されず、社員の友達からは陰口をたたかれ、黒焦げのフレンチトーストを泣きながら食べることになります。

 それでも、夢を描き続けてほしい。

「自分のお店を立ち上げて、家族のようなチームと仕事がしたい」
「目の前のお客様に『美味しい』と『小さな幸せ』を届けて、その輪を広げていきたい」

 そんな「夢みたいな大きな目標」を実現するために、胸張って突き進んでほしい。

  今の私は、ForuCafeを立ち上げると決めた時ぶりに、「できっこない」と言われるような「夢みたいな大きな目標」を持っています。この3年で新築だった内装は少し古みが増し、あの時必死に覚えてノートにメモしたレシピの字は消えかかっています。

  それでもその分、絆が強くなった家族のようなチームと一緒に、「3年後の私」に笑われないように、私はこれからも走り続けていくつもりです。

サイゼリヤ おいしいから売れるのではない
売れているのがおいしい料理だ (日経ビジネス人文庫)

著者 : 正垣 泰彦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 810円 (税込み)

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