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過労死問題「もっと株主が追及を」
海外から厳しい視線

過労死問題「もっと株主が追及を」 海外から厳しい視線

 「休まない人は生産的ではない」「もっと株主が追及を」――。日本の過労死や長時間労働の実態について、外国人読者の関心が高まっている。日本経済新聞の英字媒体「Nikkei Asian Review(NAR)」が報じた、電通の新入社員が過労自殺した問題に関連した記事に、外国人の読者から多くの反響が寄せられた。NARのフェイスブックページに寄せられたコメントを見ると、法整備や取り締まり強化よりも、組織の管理力を向上すべきだという指摘や提案が目立つ。長時間労働が日本だけの問題ではないという実態もうかがえる。

 NARは2016年11月30日、「電通の自殺問題、一斉捜査の引き金に(Dentsu suicide triggers major crackdown=英文はこちら)」という記事を公開した。同社の高橋まつりさん(当時24)が過労自殺した問題で、労働当局が電通本社などを違法な長時間労働が常態化していたとして強制捜査した経緯を伝えた。残業時間を過少申告したという社員の声や、「午後10時以降の業務禁止」など電通の対策も紹介した。

「休まず不幸せな人は生産的にならない」

 日本で働いたことがあるという外国人の読者は「たまたま金曜日の午後10時にオフィスに財布を取りに戻ったら半分の人が残っていた」という自身のエピソードを投稿。「休まず不幸せな人は生産的な従業員にならない」と感想を記した。

 経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2012年の日本の労働時間1時間あたりの国内総生産(GDP)は約40ドル(約4500円)。OECD加盟国で首位のノルウェー(86ドル)の半分以下で、米国(64ドル)やドイツ(58ドル)よりも相当低い。別の読者は日本企業が持つ高い技術を非効率な業務の改善に生かせていないと指摘。長時間働くほど良いと考える経営者らについて「株主が彼らを交代させ、中身のある仕事をするよう求めるべきだ」などと述べた。

外国人ヘルパーの労働条件改善に向けて署名を集めるグループ(16年11月、香港)=写真 澤井慎也

 それでは、日本以外の国・地域の労働実態はどうなっているのだろうか。16年10月23日付の記事「過労死なおぬぐえない日本(Japan still plagued by death from overwork=英文はこちら)」では、厚生労働省の「過労死白書」から、月80時間以上の超過労働をしている企業が2割に上ること、労働に関連した自殺が15年は2159件に達したことなどを紹介。専門家の「管理職には残業を美徳とする考えが残っている」という見方を伝えた。

 これに関して、読者からは「韓国も同じような状況だ」など、自国の労働環境について訴える声も寄せられた。OECDの統計によると、韓国は15年の労働者1人当たり年間平均労働時間が2113時間に達し、日本の1719時間を大きく上回った。韓国出身で政策研究大学院大学の魏茶仁准教授(労働経済学)は「韓国企業は経営側が従業員より強い力を持つことが多い。非正規従業員の賃金水準が低いことも影響している」と分析する。

 国際労働機関(ILO)のデータを見ると、週に49時間以上働く労働者の割合は韓国が32%、香港30%、日本21%などで、フランスやドイツの10%よりも高い。総じてアジアの国・地域が欧米諸国よりも高い傾向だ。香港やフィリピンの場合、男性よりも女性の長時間労働者の割合が多い。

労働時間が長い韓国でラッシュアワーに通勤する人たち(ソウル)

「部下に学ぶ姿勢あれば気付くはず」

 NARが16年12月15日に公開した長時間労働に関する特集(英文はこちら)では、日本を含むアジア各地の過労死や長時間労働の実態をまとめた。急成長を続ける中国のネットサービス大手、騰訊控股(テンセント)では15年、中核部門の30代男性社員が突然死した。香港では、フィリピンやインドネシアから出稼ぎしている住み込みヘルパーが長時間労働にさらされている。フィリピンの女性は賃金の低さから長く働くケースが多い。

 これに関して、読者からは「(部下から)学ぼうとする上司ならば問題に気づくはず。部下に問題点と解決案を書いてもらい、それを基に行動するのがよい」といった意見も届いた。

 ILOの労働条件の専門家、ジョン・メッセンジャー氏は「労働時間の短い国の方が生産性は高くなる傾向が見られる。そこに成長を維持しながら労働時間を減らすチャンスがある」と強調。具体的な対策として、厳しい罰則を伴う法的な残業時間の規制や十分な給料水準の確保などを挙げる。

 アジアは急速な成長を続ける陰で、働き方の問題への対応は後手に回りがちだ。発展の度合いや文化事情は違っても、過重な労働が国民の健康や暮らしに弊害をもたらすのはどの国・地域でも変わらない。それが企業活動や経済全体にも損失を与えるのは確かだ。
(岩本健太郎)[日経電子版2016年12月18日付]

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