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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018本当は選考なの?
「1日インターン」就活生が殺到

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 本当は選考なの?<br />「1日インターン」就活生が殺到

 学生が会社での仕事を体験するインターンシップ。就活や採用とは関係なく、社会経験を積むためのものだが、就活探偵団がたどり着いたのは特殊なインターンの急増だ。その名も「ワンデーインターン」。これまで「5日以上」という取り決めがあったプログラムが1日で終了する「短縮版」だ。就業体験の名をかりた選考の一過程ではないのか。実態を探った。

京都→東京、「弾丸インターン」

 1月半ば、同志社大学3年生の女子学生Aさんは、東京のJR新宿駅構内の人混みの中にいた。観光ではない。あるPR会社のワンデーインターンに参加するため、新幹線で上京したのだ。翌日にはIT(情報技術)コンサルティング会社のワンデーの予定も詰め込み、その日の夜行バスで京都に戻る強行軍。まさに「弾丸ツアー」ならぬ「弾丸インターン」だ。

 Aさんがワンデーに参加した企業は、これで4社目。昨年夏以降、ワンデーにのみ絞って就活を進めてきた。「3~5日のインターンに参加して、『この会社は違うな』となっても後の祭り。それよりもワンデーでいろんな会社を回ったほうが、企業や業界の研究に役立ちます」。今回の2社のワンデーは幸い、Aさんにとって満足いくものだったようだ。「業界のことをしっかり説明してもらえたし、グループワークを通じて仕事の面白さがみえてきました」

 こんな具合に、ワンデーをしたたかに活用する学生が増えている。「私はこれまでに5社。2月には10社参加するつもりです」。立教大学3年生の女子学生Bさんが見せてくれた手帳は、ワンデーの予定で真っ黒だった。参加申し込みの結果を待っている企業も勘定に入れれば、4日連続のワンデーとなる週もあるという。もちろんそれぞれ別の会社だ。こんなやり方で、就業体験になるのだろうか――。探偵の疑問をBさんはさらりと受け流した。「業界研究に役立ちますよ。『ワンデー企業説明会』でもかまわないじゃないですか」

 Bさんがそう割り切ったきっかけは、ある不動産開発会社のワンデーだった。就業体験を期待して実施要綱をみたBさんは目を疑った。「2時間だけ?」。主なプログラムは業界や、その会社の事業内容に関する1時間程度の座学。30分弱のグループワークでは、都市開発について他の参加者と話し合ったものの、消化不良で終わった。不動産開発に携わる現場の社員は最後まで姿を見せず、仕事の実情はつかめないまま。「成果といえば、どんな人がこの会社を志望するかが何となくつかめたことぐらい」と、Bさんは肩をすくめる。

経団連は「5日以上」が条件

 インターンとはそもそも、就業体験を通じて働くことのイメージをつかんでもらうキャリア教育の一環だ。大手企業が加盟する経団連は「インターンを選考に直結させてはならない」との指針を打ち出している。さらにこれまでは、インターンを名乗るなら「5日以上のプログラムがあること」を条件にしていた。「採用活動が学業に響いては困る」という文部科学省や大学当局の苦情に配慮するためだ。実際、多くの企業は「参加した学生にキャリアパスをどう描くかについての気づきを得てもらいたい」(富士通)、「参加者に対して特別扱いの評価をすればルール違反になる。連絡するにしても、情報提供程度にとどめている」(京セラ)などと、選考とは一線を画している。

 だが、そんな建前とはかけ離れたワンデーに、就活生は競って参加する。これまで5社のワンデーに参加した学習院大学3年生の女子学生Cさんが話してくれたこんな心情が、学生側の思いの最大公約数といえるかもしれない。「インターン参加は就活に必須だが、数日間の日程では参加しづらい。ワンデーなら選考のハードルも低い上に、会社の雰囲気を知ることもでき、業界研究にもプラスになる」

 あるメーカーの担当者は「ワンデーで発見した優秀な学生にコンタクトを取り、今後の選考に進んでほしいと促すことはある」と打ち明ける。たった数時間のワンデーで、優秀かどうか判断できるのか――。なんと、「積極性や統率力などに着目すれば、実際の選考結果と比べても、7~8割の精度で見極めをつけられる」(担当者)というのだ。企業側にとってワンデーはインターンを隠れみのにした採用活動の前倒し。学生側が殺到するのも、そんな本音を敏感に察知した結果ともいえる。

「学生との接点、とにかく早く」

 表だって「選考の過程」とは言わないものの、学生との接点であることは多くの企業が否定しない。村田製作所では昨年の就活生向けに、ワンデーの開催日程を12回から25回に増やし、今年も同等の規模で開催している。1月半ば、探偵が取材に訪れたちょうどその日にも、企業向けのBtoB事業とはどんなものかといった内容について、担当者が学生に熱弁を振るっていた。「どれだけ多くの学生に接触できるかを大切にしたい」と、人事部採用課の関口晴巳シニアマネージャーは説明する。

 東証1部上場のPR会社ベクトルは、本来昨年末までに一段落させる予定だったワンデーの開催回数を前年の5割以上増やし、1月以降も続けている。学生の応募が2倍以上に膨れあがったためだ。「大手企業ほどの知名度がない我が社にとって、たくさんの学生と接点を持つためには重要だ。ワンデーを実施することで、選考に参加してくれる学生も増える」と、グループ戦略本部の花村夢子マネージャーは力を込める。

Bさんの手帳は、ワンデーインターンの予定で真っ黒

 採用コンサルタントの谷出正直さんによると、インターンの実施予定を就活情報サイトに掲載した企業のうち、ワンデーを開催するのは1月時点で7割超。各サイトへの重複掲載を含む延べ社数では、8000社超の企業がワンデーへの参加を募っている。サイトがオープンした昨年6月時点のデータを振り返ると、前年より約4割多い企業がインターンを予定。この増加分の大半が、ワンデー開催だったとみられる。

 「とにかく早く学生への接点をつくり、選考過程に応募してくれる人数を確保しようとしている」と、谷出さんは分析する。「3月広報開始、6月選考解禁」の短期決戦となった昨年の就活戦線で、採用計画を満たすのに苦労した企業側が、「同じことしかやらなければ、また同じように苦労する」とばかり、危機感を強めているという構図だ。

大学の意外な反応

探偵が取材した日にもインターンの面接が開かれていた(京都市伏見区の京セラ本社)

 魚心あれば水心。学生も企業も是々非々で接触しあっているのが実態のようだ。では、「インターンの乱用」にもっとも厳しい目を向けるべき大学や文部科学省はどうだろうか。

 立教大学キャリアセンターの市川珠美課長は、「説明会のような内容のワンデーは、学生側の評価も低い。インターンとしての意味はあまりない」と前置きしつつも、「それでも社会や企業を知らない学生が一歩踏み出すきっかけになる」と評価する。現状を追認せざるを得ないというスタンスがにじむ。京都大学の返答はもっと予想外だった。学生総合支援センターのある担当者は、「インターンで優秀な学生に目を付け、1次選考をスキップさせるなどといった考え方は、企業側からしたら当然。ルールでそれがダメというなら、違和感がある」と本音を語った。

 文科省はさすがに建前を崩さない。「インターンはあくまで教育の一環との位置付け。就活の早期化につながるようなら、学習機会を確保しにくくなりかねない」(高等教育局の山路尚武課長補佐)。それでも、現実との乖離(かいり)に混乱する様子を物語る出来事があった。

「空転」する有識者会議

 実は、昨年末に開催予定だった文科省主催のインターンの有識者会議が、予定の期日に開かれず、現在まで開催されないままになっているのだ。その前後に大手メディアが「1日インターン解禁」と報道したが、正式発表はなく、混乱が続いている。実は、文科省などはその裏で非公式の会合を開き、インターンの定義について議論を重ねているという。本来のインターンとワンデーをどう切り分けるか、インターンと選考をどこまで直結させてよいのか、といったことが議題となっているもようだ。

 有識者会議は年度内に議論を取りまとめるもよう。インターンが独り歩きしている実情に、なんとか折り合いをつける必要があるのだろう。だが、就活生にはあまり関係のない話かもしれない。探偵の取材に答えてくれた明治大学3年生の男子学生Dさんは、なんと「2年生の2月からワンデーに参加していた」という。「就職についてよくわからなかったので、さまざまな業界や企業について知りたかった」。現実は、議論を置き去りにして、前へ前へと進んでいる。
(岩崎航、松元英樹、夏目祐介)[日経電子版2017年1月26日付]

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