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iPhone登場10年
携帯ニッポン復活へ

iPhone登場10年<br />携帯ニッポン復活へ

 2007年1月に米アップルが初代「iPhone」を発表してから10年、IT(情報技術)業界の新陳代謝が加速している。スマートフォン(スマホ)世界の頂点に君臨するアップルも16年1~3月期にiPhoneの世界販売台数が初の前年割れになるなど苦境にあえぐ。その裏で「ケータイ大国ニッポン」が復活しようとしている。

廉価スマホ、光る「日本発」

 シンガポールに本社をおくベンチャー企業「Gooute(グート)」。ニフティ出身の横地俊哉最高経営責任者(CEO)を中心に、通信大手などの経験者が13年に立ち上げた社員14人の「スマホメーカー」だ。

 狙うのは低価格スマホが主流となっている新興国。日本の有名デザインチームに依頼、中国のODM(相手先ブランドによる設計・生産)工場で生産してもらう。16年春から「Designed by JAPAN」と裏に明記した低価格スマホをインドやフィリピンなど日本を含めた10カ国以上で販売している。

 丸みを帯びたデザインのスマホ「アラタス」は1万円台だ。着信音や起動音などの音源は国内アーティストの楽曲を手掛ける音楽家に提供してもらい、スタイリッシュさにこだわった。横地CEOは「日本製であることは大きな訴求力になる」と狙いを語る。

 グートのビジネスモデルを実現しているのは中国に集積されたODM工場や設計会社だ。世界中のスマホ生産技術が集まる広東省深圳では大手メーカーから受注を受けて生産技術を磨いた工場が多数存在する。デザインハウスと呼ばれるスマホ設計会社が600社以上あり、依頼すれば誰でもスマホを製造できる。

 だがデザインハウスは品質の差が激しい。ブランドロゴだけが違い、同じデザインの低価格スマホが出回ることも珍しくない。グートはそこに目を付け、日本発のデザインを武器に市場を開拓しようとしている。

 その一方で「端末そのものを売りにするつもりはない」(横地CEO)ともいう。端末は入り口で、格安スマホ向けに音楽や動画配信機能を搭載する使いやすいプラットフォーム(基盤)「アラタスネット」の提供をビジネスの軸に据える。

 新興国向けに販売するスマホメーカーと提携し、端末にあらかじめ広告がついたニュース配信アプリを組み込む。アプリを立ち上げる度に生じる広告収入をメーカーとグートで分け合うしくみだ。会員情報の管理などでもコンサルティングを提供する。すでに台湾・華碩電脳(エイスース)など7社と契約、17年春には「アラタスネット」を搭載したスマホ5000万台が世界で販売される見通しだ。

 グートのビジネスモデルは、かつて日本のIT企業が連戦連敗を喫した「ファブレス」モデルに似る。自らは製造設備を持たず、付加価値の創造やサービスに徹する「スマホメーカー2.0」の姿が見えつつある。

 国内市場でも産業構造が変化している。シャープやソニーなど大手メーカーの販売が低迷するなか中国・華為技術など海外勢がシェアを伸ばす。調査会社BCN(東京・千代田)によるとSIMフリー端末がスマホ全体に占める割合は16年夏から2割で推移する。

 格安スマホ端末メーカーは乱戦状態だ。国内では「フリーテル」ブランドのプラスワン・マーケティング(東京・港)など30社以上のメーカーがしのぎを削る。

「格安+α」を競う

 淘汰が進むなか、価格以外の訴求要因の確立が急務になっている。そのなかで日本製の格安スマホで存在感を高めているのが富士通だ。16年夏に「アローズ」ブランドの格安スマホを出し、SIMフリー端末の販売シェアで3位圏に入った。

コヴィアは病院など法人向けを強化する(福井県永平寺町の福井大学医学部付属病院)

 おサイフケータイや防水機能など高級スマホと同じ機能を搭載しても価格は3万円台。中華スマホが機種を増やすなか、一機種のみでシェアを拡大し、隠れたヒット商品となっている。

 ブランド力に乏しい企業は別の道に活路を見いだす。通信機器メーカーのコヴィア(横浜市)は13年ごろからSIMフリー端末に参入。部品設計にネットワーク技術を生かし格安機種を家電量販店などに並べる。

 ただコヴィアの山本直行執行役員は「1機種最低1万台さばける見込みがないと中国の工場と契約を結ぶことさえ難しい」と厳しい環境を語る。1万台出荷の場合でも開発コストは1台あたり1000円と重い。

 そこで法人向けに目を付けた。17年春に販売する予定の格安スマホは搭載カメラの性能などを絞る代わりに、業務で必要な全地球測位システム(GPS)や加速度センサーの精度を高める。輸送業や介護施設などの利用を想定し、価格も1万円以下に抑える。

 前回モデルは福井大学医学部付属病院などで採用されており、1000~2000台規模で導入された。売るのは端末だけではない。電子カルテの閲覧やナースコールとの連動で職員が使いやすい機能を個別に盛り込む。データを送受信する通信機器やシステム開発などとまとめて売り込む戦略だ。

 14年にイオンが格安スマホの販売を始めてから2年。端末の「実質ゼロ円販売」を是正する総務省のガイドラインが出たことで、16年に格安スマホの市場は急拡大したが過当競争により新陳代謝のスピードはさらに増している。品質や独自のビジネスモデルといった「格安スマホ+α」の付加価値をつけられたメーカーが生き残る、新たな戦国時代が始まろうとしている。

パソコン・カメラ、周辺産業大打撃

 スマホは消費者にとって最も身近な端末としての地位を確実にした。その影響力は携帯端末の世界にとどまらず、あらゆるIT(情報技術)関連産業での新陳代謝を加速させた。消費を奪われ衰退する産業もあれば、スマホならではのサービスも勃興している。

 スマホの普及によってもっとも大きな影響を受けたのがパソコンだろう。2016年のパソコンの国内出荷台数は07年比で23%減、金額は同43%減となった。電子メールのやりとりやウェブサイトの閲覧などスマホで十分な場面が広がり、パソコンが生活の必需品ではなくなったためだ。

 調査会社MM総研(東京・港)の中村成希執行役員は「個人にとってのパソコンの魅力が相対的に低下したことやパソコン自体の進化が停滞したことから、平均単価は07年から3万円強も下がった」と分析する。

 市場の変化は業界の構造変化も促す。07年に日立製作所が個人向けパソコン事業から撤退し、ノートパソコンを手がけていたシャープは10年に撤退。NECは11年にパソコン事業を中国レノボ・グループ傘下に移し、「VAIO」ブランドで一世を風靡したソニーは事業を大幅に縮小して14年に独立させた。富士通も事業をレノボ傘下に移す方向で調整中だ。

 スピーカーやアンプなど音響機器産業もスマホの影響を大きく受けた。電子情報技術産業協会(JEITA)によると音響機器の国内出荷額は07年の2162億2300万円から15年には780億5000万円にまで減少した。

 カメラやビデオカメラもスマホに搭載されるカメラの性能向上により、大打撃を受けた。ビデオカメラの年間出荷台数は12年に186万台とピークに達するが、そこから急激に市場が縮小。15年には94万台と12年の半分にまで落ち込んだ。

 スマホにより活性化した業界の代表例が電子部品だろう。スマホの高機能化にともない、人の動きを高精度に検出するセンサーや小さくても大容量の電池など多くの部品が飛躍を遂げた。その成果を生かして自動車やロボットなどの新たな用途の開拓を進めている。

 ただしJEITAによると日本の電子部品メーカーの世界生産額は07年の9兆6365億円から16年は8兆3913億円に減少する見込み。海外メーカーの攻勢に加えて円高・ドル安が進んだ影響を強く受けた。

 ソフトウエア業界もスマホによって大きく変わった。スマホがビジネス領域でも普及したことにより、場所を選ばない情報共有や意思決定が頻繁に行われるようになった。その結果、ビジネスソフトウエアの分野では「場所を選ばずにアクセスできるクラウド上での利用形態が急速に増加した」と調査会社IDCジャパン(東京・千代田)の真鍋敬ソフトウェア&セキュリティグループマネージャーは分析する。

 音楽ソフトはどうか。日本レコード協会によると、音楽ソフトの生産額は07年の3911億1300万円から、15年には2544億4900万円に減少した。

 スマホが影響を与えたのは音楽自体への関心の低下だ。従来型携帯電話の時代は「着うた」などの音楽配信サービスが人気歌手を育てる役目を果たしていた。だがゲームや動画サイト、チャットなどが楽しめるスマホでは音楽鑑賞に割く時間が減っている。レコチョクは「着うた」と「着うたフル」のサービス提供を12月15日で終了した。

 スマホによって新たなサービスも生まれている。定額制音楽配信サービスではサイバーエージェントとエイベックス・デジタルが共同で手掛ける「AWA」のほか、米グーグルや米アップル、LINEもサービスを提供する。16年秋にはスウェーデンのスポティファイも日本に上陸した。

 スマホ普及を追い風に右肩上がりで伸びているのがインターネット広告市場。電通の「日本の広告費」によると15年は1兆1594億円と07年比で2倍近くに増えた。

 スマホはネット広告のあり方を大きく変えた。パソコン時代はバナー広告が主流だったが、今では動画広告やSNS(交流サイト)の記事と記事の間に表示する「インフィード広告」が主役になりつつある。

 サイバーエージェントの藤田晋社長は「商材や顧客のトレンドは変わるが、ネット広告市場はしばらく右肩上がりが続く」と分析する。16年9月に明らかになった電通のネット広告における不適切取引など急拡大ゆえのひずみも生まれている。

(薬文江)

家計負担、6年で22%増

 総務省の家計調査データを見ると、スマートフォン(スマホ)の普及がカメラやパソコンなどのデジタル製品、音楽やゲームソフトの市場を飲み込んできた事実が色濃く反映されている。スマホ普及期を迎えた2010年と比較すると、16年の携帯通信料と携帯端末を合わせた支出が22%増加した。カメラやゲームは5~6割減少。音楽ソフトも3割超減った。

 家計調査(2人以上世帯の平均値)をもとに10年以降の月額平均支出を比較した。16年は1~10月の平均値をとった。500を超える支出項目のうちパソコンやカメラ、ビデオカメラ、ゲーム機の4つのデジタル製品と、ゲームソフト、音楽・映像ソフト、雑誌、書籍の4つのコンテンツ製品への支出項目を選んだ。

 スマホの端末代金を含む月額携帯通信料(2人以上世帯)は増加を続け、6年間で1832円(22%)上昇。16年は1世帯あたり1万86円と初めて1万円を超えた。高価格帯のスマホ端末が好調で、有料アプリの普及によって「携帯支出」は増加傾向が続く。

 スマホ普及の影響を受ける8項目のうち、最も減少率が大きかったのがビデオカメラ(65%減)。次いでゲーム機(60%減)、ゲームソフト(51%減)、カメラ(49%減)、音楽・映像ソフト(35%)だった。
(細川幸太郎)[日経電子版2017年1月14日付]

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