新入社員はどこを見られているのか
人事部長のひとりごと(8)
学生の皆さん、こんにちは。帝人人事部長の藤本治己です。今回は新入社員研修の話をしましょう。日本では、多くの学生が新卒で入社します。そのため、ほとんどの企業で新入社員研修を実施していると思われます。その内容はそれぞれの会社で違っているでしょうが、おおよそ、1週間から数カ月間の研修メニューを持っていて、その目的は、以下の2つの面があります。
1)学生から社会人へのソフト ランディング
2)仕事の基礎を学ぶ
新人研修は何のため?
「Japan as No.1」と言われていた30年以上前と比較すると、日本企業に余裕がなくなってきているため、新人にさえ、即戦力を求める傾向が強くなっているかもしれません。そうは言っても、人材育成を重視している企業には、きちんとした新入社員研修カリキュラムが準備されているものです。自社単独で新入社員研修を実施できない中堅会社では、企業が数社合同で研修をするケースもあるようです。
それでは、上記1)と2)をもう少し説明したいと思います。
1)については、たとえば、「経営方針やビジョン等を知る」「社会人への生活態度・マナーを身に付ける」「仕事に向かう意識変革」などでしょう。
2)については、「製造や営業の現場を知る」「営業・研究開発等配属先業務の基本」「ITリテラシー」「語学」「市場や商品知識」「QC」などでしょうか。
人事としては、現場に配属された新人に活躍してほしいために、「知っておいてほしい」「身に付けておいてほしい」と考えることを、あれもこれも(?)と詰め込んで講座を設計します。しかしながら、身も蓋もないことを言うようですが、個人的に新入社員研修で今も鮮明に思い出せるのは、研修担当者に講義中に寝ていて、無茶苦茶叱られたことと、同期入社のメンバーとの(夜の)交流と工場実習くらいです。(笑)
では、あまり身に付きそうもない新入社員研修を、なぜ企業はやるのか? それは、同期入社のメンバーと自らを比較することで、足らざる点を自覚してもらうこと、そして一人前の社会人のイメージを持ってもらうことで、自ら成長するために努力する意識を持ってもらうことなのだろうと思います。それに、新人が基本的なビジネスマナーで失敗したときに、そんなことは新入社員研修でやっているだろう、と言いたいとか(これは冗談です)。
採用面接で「何か質問がありますか?」と聞いたときに、「入社前にやっておいた方がいいことはありますか?」と言われることがあります。その時の回答は「学生時代にしかできないことをやってください」「学生時代を後悔しないことが大事です。入社の準備は特にありません」です。
閑話休題、25年くらい前、新入社員研修の担当者だったときに、社内の先輩社員から「失敗談」や「営業座右銘」「新人営業マンへの期待」などのアンケートを取って、新人営業マン向け研修テキストを作成しました。
このテキストにある出版社が注目してくれて、帝人株式会社教育部編「鈴木一郎君の叱られっぱなし絵日記」という本を出版しました。鈴木一郎という新入社員が、営業部門に配属後、さまざまな失敗を重ねて成長していくというストーリーです。
新入社員のどこを見るか?
その中のコラムで1つご紹介したいのが、先輩営業マンは「新入社員のどこを見るか」です。アンケートで50%以上の得票だったのが「積極性・意欲」「礼儀(言葉遣い含む)」「素直さ・協調性」「元気さ」「物事の考え方」でした。一方「新入社員のどこがひどいか」は、「気配りができない」「けじめがない」「文書が書けない」「言葉遣いがなってない」でした。先輩社員が思う新入社員ができていないという行動は、今も昔も、あまり変わらないのではと思います。
実は、「新入社員のどこを見るか」というのは、採用活動で先輩社員リクルーターが学生を見る視点と同じです。人事が社員にリクルーターをお願いするときに、学生を見る視点として、「一緒に仕事したいと思えるような学生を残してください」「自分より優秀と思える学生を引っ張ってきてください」というような言い方をしていますが、その評価ポイントと言い換えてもいいと思います。
また、「新入社員のどこがひどいか」は、先輩社員が新入社員の時に、先輩に指導されたことそのものです。企業で仕事をしながら身に付けていくものなので、逆に学生のうちから全部できるような人がいたらすごいですね。
最後に、就活本番が目の前になってきましたが、自己分析のやりすぎ、気にしすぎはやめましょう。やりたいと思っている仕事や業種であっても、実際にやったことがないのに、本当のところはわかるはずはありません。友達に自分の評価を聞いても、自分が隠している特性を友達は知らないので、参考にしかなりません。自らの足で、実際に働いている人と会って話を聞いて、自らの感性を磨いていくことが一番の近道なのだと思います。
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