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仮想現実、身近になるの?

仮想現実、身近になるの?

 機器を使って別の世界を体験できる感覚が味わえるVR(仮想現実)。最近ゴーグルをかけてゲームをする姿がよくメディアで報道されますが、この技術で他にもできることがあるそうです。イチ子お姉さんとからすけの会話を聞いてみましょう。

イチ子お姉さん 今いる場所を離れ、別の世界にいる感覚になるVR(仮想現実)という技術が注目されているわ。特殊(しゅ)なゴーグルで体験できるの。

からすけ 「どこでもドア」みたいだね。夢のような技術だけど、そんなにカンタンに実現するのかな。仮想現実って、どんな世界?

住宅内覧や手術訓練にも活用

 イチ子 VRはVirtual Reality(バーチャルリアリティー)の略。コンピューターグラフィックス(CG)という架(か)空の映像や、遠く離(はな)れた実在の場所の映像がゴーグルに映って、そこにいるかのように感じられる仕組みなの。ゴーグルはヘッドマウントディスプレー(HMD、キーワード)というわ。

<キーワード>
 HMD VRの専用端末。装着した人の頭の向きを内蔵センサーで測定して、位置に応じて映像を表示する。
 VR酔い 仮想環境と現実のズレで感覚器官がマヒするためという説も。利用で年齢制限のあるHMDがある。

 からすけ どんな映像を体験できるの?

 イチ子 CG、実在の場所のいずれも360度見渡(わた)せる映像よ。上下、左右を見たり振(ふ)り返ったりすると、それに応じて様々な映像が見られるのね。映像はパソコンやスマートフォン(スマホ)にダウンロードしておいて、有線や無線でHMDに送るの。音声はヘッドホンで聞くわ。

 からすけ なるほど。

 イチ子 例えば音楽コンサートで説明すると、前後左右を見れば観客がいて、目の前の舞台では歌手が歌っている。臨場感たっぷりで自分が会場にいるような感覚になるのよ。

 からすけ それは盛り上がるね。

 イチ子 そう。テレビはコンサートを平面に再現するだけ。一方、HMDでは見るだけでなく、コンサートに参加している感覚を味わえるわ。この感覚を仮想現実と呼ぶの。だからHMDを着けている人は盛り上がっているけど、着けていない人はその人を不思議な感じで見ているはずよ。

ゲームの低価格化も進む

 からすけ ボクもVRを体験したいな。

 イチ子 ゲーム機のプレイステーション(PS)4用に昨年10月、VRゲームシステムが発売されたわ。手元でコントローラーを操作して怪獣(かいじゅう)と戦ったり、女性アイドルと遊んだりできるの。今までもゲーム用のHMDはあったけど、性能がいいものは10万円以上。PS用は4万円台と値段が下がったので大人気よ。PSのVRが広く知られるようになったので、日本で2016年は「VR元年」といわれているわ。

 からすけ 欲しいけどお年玉使っちゃったよ。

 イチ子 ふふ。VRの有料ゲームセンターが登場し始めたから、行ってみたら。それから、あなたが夢中になった「ポケモンGO」。あのスマホゲームはVRと同じような技術なの。目の前の風景にCG画像を重ね合わせるもので、AR(拡張現実)というのよ。

 からすけ 最新技術だったのか。

 イチ子 米ゴールドマン・サックスの調査によると、VRとARを合わせた商品やサービスの市場規模は25年に950億ドル(約11兆円)になるらしいわ。パソコンやスマホに続く大きな市場ができると分析(せき)しているのね。VRは、ビジネスでも応用しようという動きが急速に広がっているの。

 からすけ どんな使い方がされているのかな。

 イチ子 建築の現場では、設計図をもとに作ったCGの住宅をお客さんに体験してもらっているわ。例えば一戸建ての建築を頼んだ客がゴーグルを着けると、CGで完成した家が登場。両手でコントローラーを操作して中に入り、お茶の間でかがむと座った目線から部屋を見渡せるの。部屋が狭(せま)く感じたら広くするよう設計図を変えられるわ。現地に行かなくても間取りを確認できるわ。

 からすけ それは便利。

 イチ子 医療(りょう)の世界は医学生に手術を体験させているのよ。手術室の上に設置した360度撮影(さつえい)できるカメラの映像をゴーグルで見ながら、医者がどんな角度でメスを入れているのか、その際、助手はどうサポートしているのかを見ることができるの。手術の訓練として役に立つようね。

 からすけ 「ドクターX」が増えるといいな。

 イチ子 そうね。ただVRを体験していると乗り物酔(よ)いのように気分が悪くなる「VR酔い」(キーワード)を引き起こす人もいる。原因はまだ分からないの。今年はもっと生活に身近になるといわれているだけに、バランスの良い付き合い方が求められそうよ。

VRも人生に役立つ?

豊島岡女子学園中学高等学校の神谷正昌先生の話 映画「マトリックス」は、現実と思っていた世界がコンピューターが作り出した仮想の世界だったという設定です。科学技術が発達する以前にも現実が揺(ゆ)るがされる話はありましたが、「夢」が多用されています。古代中国の「荘子」にある「胡蝶(こちょう)の夢」という話は、昼寝をして蝶になり飛び回る夢から覚めた後、自分が夢を見たのでなく、蝶がまさに人間になる夢を見ているのかもしれず、区別がつかないというもの。これは万物(ばんぶつ)斉同(せいどう)という、天地自然は一体化していて区別はないとの教えです。
 古代中国の「邯鄲(かんたん)の夢」や江戸時代の「金々先生栄花(えいがの)夢」は人生のはかなさを短時間で経験する話。芥川龍之介の「杜子春(とししゅん)」も、仙人になる修行は一瞬(しゅん)のことで、どれも夢などで人生の教訓(くん)を得るものです。VRも人生の役に立つものであることが望まれます。

[NIKKEIプラス1 2017年1月14日付、日経電子版から転載]

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