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[ career-働き方 ]

4大商社、
こぞって国内市場回帰のわけ

4大商社、こぞって国内市場回帰のわけ

 大手商社がローカル(L)市場に商機を見いだしている。国境をまたいでモノを売り買いするグローバル(G)ビジネスよりも、深掘りしていないL経済圏で生産性をあげることが相対的に成長の近道だと気がついた。2017年、商社マンが近場で走り回る。

匠の技でブリの鮮度保つ 三井物産

 愛媛県宇和島市の中心部から車で20分ほど。波も穏やかな入り江の一角にブリの加工を手がける宇和島海道(愛媛県西予市)の工場がある。2016年末に始動し、正月用の出荷で年末年始はさっそくフル稼働した。

 「宇和島のブリを世界に広げましょう」。地元の漁業関係者らに熱く語るのは三井物産四国支店(高松市)の若手社員、小林英輔氏だ。宇和島まで特急電車を乗り継ぎ4時間かけて通ってくる。

 小林氏は15年7月の転勤前まで東京・大手町の本社で同社が権益を持つチリの銅鉱山の経営を管理していた。今はクーラーボックスを提げ全国のスーパーや回転すしチェーンにブリを売り込む。

 三井物産は15年、水産物加工のオンスイ(長岡市)、養殖のダイニチ(宇和島市)などと共同で宇和島海道を設立した。出資比率は5%で出資額は1500万円。年間数千億円を投資する三井物産にとっては極小だが、それでも有為の人材を割き「最重要プロジェクトの一つ」(古村一朗四国支店長)と位置づける。

 宇和島海道は「超冷燻(ちょうれいくん)」と呼ぶ独特の血抜きの技術を売りにする。薫煙を溶かした薫液を魚の心臓に注入し、全身の毛細血管に行き渡らせて血を抜く。「魚は死んでいるが細胞は死んでない」(オンスイの桜井健一社長)ため、死後硬直は一般的な血抜きより1.5倍遅い。この状態で切り身にして一気に冷凍する。

 前工程も工夫を凝らす。水揚げ時に魚が暴れると筋肉に乳酸が出て劣化の原因になる。加工する半日前に過飽和酸素水の水槽に入れ、休ませて乳酸を抜く。独特の方法で加工された身は、白さと血合いのピンクが花びらのようだ。血が酸化しないので長期冷凍しても見た目と味が長続きする。国内をはじめ米国やアジアへ、初年度は20万匹、3年後をメドに年50万匹分の出荷を計画する。

 三井物産は15年7月にビジネス推進部を設立し、この中に国内事業の専門部署を設けた。深谷卓司ビジネス推進部長は「知財がうまく活用されず現金化できてない中小の匠(たくみ)の技術を価値化する」と語る。不祥事が相次いだ00年代、経営の監視の目が届きにくい小規模な取引から撤退して、国内事業の基盤が細った反省もある。

 大手商社の本気に、L市場のプレーヤーも活気づく。宇和島海道の製品は通常品より約2割高い。約30軒の養殖業者から魚を集めて宇和島海道に納めるダイニチの玉留一社長は「特徴がない商品は市場価格で買い取られるだけ。三井物産と組めば海外開拓も望める」と期待を膨らます。

地元資本と連携 三菱商事、住友商事

 「鮮度や味が全然違う」。富山市のスーパー、アルビス高原町店。年末の里帰り中に寄った愛知県豊田市の主婦は4万円の氷見ぶりを買った。

 アルビスは富山、福井、石川に55店を展開する北陸最大手。地域密着が売りだが、大森実社長は「今後は中部、日本とローカルの解釈を広げる」と成長戦略を語る。今後、岐阜県や愛知県に店を出す計画で、三菱商事がそれを支える。用地確保や商品調達の多様化など商社の出番は多い。

 三菱商事は16年11月にアルビスと業務提携し、資本関係も深める。机上の支援だけでなく人材も派遣する。先兵役の増田一男氏は、アルビスでは経営企画室長の肩書。商社の経営資源とスーパーの強みを有機的に結びつけ、潜在的な成長力を引き出す役割を担う。

 例えば三菱商事は顧客の買い物情報を分析するシステムを提供。アルビスが19年をメドに完成をめざす食品の加工・配送センターには、三菱商事が出資するライフコーポレーションの運営ノウハウを注入する計画だ。

 三菱商事の垣内威彦社長は「マクドナルドもウォルマートも、そもそもは米国ローカルで成功した事業をグローバル化することで大きくなった」と指摘する。アルビスのような地方スーパーとの連携を進め、配当や取り込み利益と同時に子会社化するローソンとの相乗効果も狙っている。

 神田をアートの町に――。東京芸術大学が主体となり、東京・千代田区の街中で毎年秋に開くイベント「トランス・アーツ・トーキョー」。同地区に複数のビルを建設し、現在も建設用地を持つ住友商事は12年の第1回から支援する。井上弘毅常務執行役員は「東京五輪を控え増えるであろう訪日外国人客は人口増と同じインパクトがある。建物とコンテンツの双方を創る神田のようなタウンマネジメントを全国に広げる」と語る。

 住商は16年10月、国内営業推進・開発部を設けた。在籍する40人は全部門から兼任者を出し「オール住商の体制」(井上氏)で見逃していた国内のビジネスの種を拾う。

 特に「大手デベロッパーと同じ力がある」(担当する幹部)と自負する不動産開発事業で、自治体と連携したまちづくりを念頭に置く。同じ財閥系の名前を持つ住友不動産もライバルで、住み分けは意識していない。得意分野との相乗効果を引き出し、国内を掘る。

国内厚く利益首位 伊藤忠商事

 国内ローカル市場は資源価格低迷下では重要度が相対的に高まる。伊藤忠商事は2016年3月期の純利益が商社首位だったが、野村証券の成田康浩アナリストは「(国内で)手堅く稼ぐ優良資産が厚い点が強さの源泉」と指摘する。

 成田氏の興味深い分析がある。伊藤忠の資産を「内需関連」「外需関連」「資源・エネルギー」に分けると2016年9月期時点で食料や住生活、繊維など内需関連は48%を占め突出して多い。

 住商の井上常務執行役員も「16年3月期の決算を眺めると基礎収益の6割を国内で稼いだ」と話す。住商は過去2年、米のシェールガス開発など「不慣れな資源分野に手を出して失敗した」(幹部)との反省がある。市況次第でぶれる資源の対極が国内事業といえる。

 一方で「国内は長期的には人口減。短期的にも個人消費の回復は見込みにくい」(三菱商事の垣内社長)。「日本に資源を持ってくる仕事こそ商社の本分」(三井物産幹部)との声も根強い。

 はっきりしているのは、GかLかの二者択一が解ではないこと。Lの開拓がまだまだ表層的で、深掘りする余地が比較的大きいということだ。GとLのバランスをどうみるか。経営資源の配分の巧拙が問われている。
(企業報道部 藤野逸郎、渡部伸)[日経産業新聞1月10付、日経電子版から転載]

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