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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ニュースの見方(35)勉強も勤務時間になる?
社会で必要な自分磨きとは

戸崎肇 authored by 戸崎肇大妻女子大学教授・経済学者
ニュースの見方(35) 勉強も勤務時間になる?<br />社会で必要な自分磨きとは
撮影協力:大東文化大学

 電通社員の過労自殺事件以来、長時間労働の問題が頻繁に取り上げられるようになりました。ここへきて、働き方をめぐって注目すべき動きがあったのでご紹介しましょう。2月4日付の日本経済新聞によると、厚生労働省が緊急の長時間労働対策として、社員が会社の「暗黙の指示」で自己啓発を行った時間を労働時間として扱うよう求める指針を作成したのです。

語学学習も業務になる?

 この指針に法的強制力はありませんが、厚生労働省は、労働基準監督署による監督・指導などを通じて、企業に指針を順守するように徹底する方針です(該当の日経記事を読みたい方はこちらから日経電子版へ)。

 この指針が実効性をもつならば、業務に必要な資格を取得するための勉強や、語学学習などに費やした時間が労働時間と見なされ、総労働時間に算入されます。「業務に必要な」とありますが、語学や簿記などのように、誰が見ても業務に直接役立つ資格の勉強以外でも、どのような勉強であれ、業務に何等かの形でプラスになるはずです。

自分を磨こう

語学や資格取得の勉強も勤務時間に含まれるようになる可能性が

 特にグローバルに活躍したいと考えている皆さんは、語学を勉強するだけでは全く不十分です。こちらは労働時間に含めるのが難しいでしょうが、仕事の相手となる国の歴史、文化について理解していなければコミュニケーションも進みません。筆者も若い時に中国の四川省で仕事をする機会がありましたが、その際、「三国志」を読まずして現地の人々とコミュニケーションすることが困難であることを痛感しました。

 逆の場合もそうですね。海外の方に日本のことを聞かれて答えられない場合は非常に多く見られますが、そうなると相手の信用を勝ち取ることも難しくなります。日本の選挙制度、日本のメディアの特徴、神社と寺の違いなど、皆さんは外国の方々にきちんと説明できるでしょうか。

グローバル人材に求められる歴史観

 国際社会では、特に自国の歴史や文化を深く理解し、誇りをもってそれを説明できる能力が高く評価されます。日本でもライフネット生命保険会長の出口治明氏をはじめとして、優れた経営者の方々は、歴史に学ぶことの重要性を様々な形で表明されています。優れた経営者の考え方を学ぶ上でも、歴史の知識は重要ですし、もし直接そうした方々と話す機会が持てた時に、歴史認識をもとに有意義な会話が交わせるかどうかはその人の評価にもつながり、その後の社会人人生を大きく左右することになるでしょう。

自分なりの歴史観をもつことも必要だ

 こうしてみると、自己啓発は、資格取得のために専門学校に通ったり語学学校に通ったりすることもいいことですが、じっくりと、自宅で古典をはじめとする本を読むこともとても重要になってきます。

 読書は、概してお金もそれほどかかりませんし、自己啓発のためとして経費として申請すれば税金もその分控除されます。嵩張って困るというのなら、今は電子書籍もあります。電子書籍は、特に海外赴任者にとって、最新のものを容易にかつすばやく入手できるので好評です。

自分なりの目的をもって

 積極的に自分の会社が属する業界外の人々と積極的に触れ合い、意見を交換することももちろん重要です。その点では異業種交流パーティーなどが盛んに行われていますが、単に交際範囲を広げるだけというのでは、単にイベント屋さんに踊らされているだけか、あるいはそもそも自己啓発の意識が低いと言わざるを得ないものが多いのではないかと思っています。しっかりと何等かの具体的な目的をもった交流の場を選ぶべきであり、その中で新たな価値観の創造、発想の転換が期待できるものであるべきです。

 だからといって、あまりにもそうした意識が強すぎると、単なる会社業務の延長になってしまうことも確かです。このあたりのバランス感覚が難しいのですが、これだけは各自が試行錯誤して、経験を通じて学んでいくしかないのでしょう。だからこそ、「無駄」を恐れず、色んなことにチャレンジすることです。それが結果的に「無駄」に終わったとしても、それは笑い話としてセールストークにも使えるでしょうし、必ず皆さんの人間としての幅を広げます。

 会社の外の世界で色んなことを学べば、本業の見直しを行う際に大いに役立つはずです。会社の中にいただけでは見えてこない斬新な改革案が提起され、それが業務の効率化につながり、そこで初めて実質的な長時間労働の解決のための効果的な取り組みが実践されていくことになるはずです。このように異業種が協働することによって新しい発想が生み出されることを「シナジー効果」と呼びます。

 今回の厚生労働省の指針が是非企業で広く受け入れられるとともに、それを皆さんが最大に活かし、プロモートにつなげていってほしいと願っています。

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