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「働き方改革で生産性向上を」
小室社長に聞く

「働き方改革で生産性向上を」小室社長に聞く

 安倍晋三首相主導の「アベノミクス新3本の矢」として位置付けられる働き方改革の下、多くの企業は長時間労働の是正を迫られている。ただ業種や企業特有の事情もあり、有効な対応策は見えにくい。産業競争力会議の民間議員も務め、働き方改革のコンサルティングを手掛けるワーク・ライフバランス(東京・港)の小室淑恵社長に先進企業の取り組みを聞いた。

 ――働き方改革が企業経営の課題として広く認知されるようになりました。

 「日本は生産労働人口が減少に転じた1990年代に既に働き方を根本的に見直す時期だった。しかし『失われた20年』で人余りの状況が続いたために対策が後手に回った印象がある。高度成長期は労働時間が成果につながる製造業が中心の社会だった。その時代の成功体験を持つ世代が経営者となり、『長時間労働が成果を生む』という固定観念が根強く残っていた」

 「日本での社会的な転換点は2013年のアベノミクスの好景気が行き渡り始めた時期だろう。牛丼チェーン『すき家』で従業員を確保できずに閉店が広がったのが1つの象徴だ。小売店や外食店が人手不足に陥り、働き手を確保できなければ企業が成長できないという認識が広まった」

 ――欧米ではどうだったのでしょうか。

 「まず米国は常に移民が流入し続け、労働力人口が不足しない特殊な構造なので参考にできない。欧州では90年代に既に労働参画率を高めることと少子化対策の2つの社会問題を解決せずに将来の成長はないという合意があった。まず参画率を高めるためには女性が働ける環境を整備する。そして少子化対策には労働時間改革が必要だった」

 こむろ・よしえ 日本女子大卒、資生堂入社。育児休業者の職場復帰支援で社内起業。05年に資生堂を退社し、06年ワーク・ライフバランス設立。900社以上へのコンサルティング実績を持ち、「産業競争力会議」の民間議員も務める。2児の母。

 「将来的に生産労働人口が減るのは国家存亡にかかわる危機とし、政府は労働規制を敷いた。週35時間といった労働法で企業に働き方改革を迫ったのだ。英国のブレア政権では2000年に『チャレンジ基金プログラム』と題して、企業1社あたり約500万円の補助金を負担し、働き方改革を推進した。日本では労使問題として政治が距離をとりがちだが、国家の課題という認識を持つべきだ」

 ――政府主導の制度で末端まで働き方の意識改革は進むのでしょうか。

 「労働時間の上限をつくれば、時間あたりの生産性の高い人が評価される。日本では上司の指示に応えようと深夜まで働く部下は『よくやった』と褒められていた。しかし欧州では深夜まで残業すると法律的に翌朝出勤停止になるため別の仕事ができなくなる。結果的に時間内に仕事を終わらせる部下が評価される」

 「管理職の意識改革とともに評価基準の見直しが必要だ。さらに一般の従業員も急に仕事が振られるといった『残業が多いのは他人のせい』という意識がまん延している。コンサルティングの際には、毎朝30分単位で1日の業務内容を設計し優先順位を付けてもらう。退社時に検証することで優先順位の間違いや段取り不足を『見える化』する。仕事効率も筋トレと同じで鍛えれば向上していく」

 ――国内での先進的な企業の取り組みを教えてください。

 「人材派遣のリクルートスタッフィングは成功例だろう。成果主義のリクルートグループでは、部署ごとの月間売上高を競う文化がある。深夜残業もいとわず猛烈に働くイメージのある同社でも労働時間の制約を敷くことで、子育て中の女性など短時間で成果を上げる社員が評価されるようになった。チームで成果を競うので、メンバー間で育成行動が増え、いかに短時間で成果をあげるかを考え、ノウハウを共有し非効率な営業などを是正して生産性をあげた」

 「トップダウンの重要性を示すのは大塚製薬グループの物流会社、大塚倉庫の事例だろう。社長主導で執務フロアの最終退出者を公開して深夜残業の是正を促した。さらに取引先の働き方改革にも乗り出した。協力会社のトラック運転手向けに荷受けの順番を決める専用アプリを開発し、ドライバーの待ち時間を大幅に減少させた」

 「物流業界の慣習として、発注元の自社と運送委託先のドライバーという上下関係があった。ドライバー不足という物流業界が抱える課題をクリアしないと自社の成長性にも影響する。業界にはびこる非合理的な慣習を見直せば、働き方は変わっていく」

 ――問題意識は共有されていても、対策を打てない企業は多いようです。

 「まず重要なのは、慣習的に『労働時間短縮は不可能だ』という固定観念を崩すことだ。欧州では労働時間の上限という制約がイノベーションを生んだ。長時間労働が当たり前だった伊藤忠商事が朝方勤務に切り替えたのも、トップダウンでの決定が社員の意識を変えた。日本でもきっとできるはずだ」

 「間もなく団塊の世代が70歳を迎え、人口分布の最も厚い年齢層が要介護者となっていく。さらに年齢層が厚い団塊ジュニアの出産が難しくなる時期を迎える。社会的な関心が高まっている今こそ、政府と民間が総力をあげて改革に取り組むべき時期に来ている。働き方改革は未来の日本を形成する国家戦略に直結する。手遅れにならないように訴えかけていきたい」
(聞き手は企業報道部 細川幸太郎)[日経産業新聞1月12日付、日経電子版から転載]

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