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シューカツ都市伝説を斬る!社会人に必要な「KY」のススメ

authored by 曽和利光
シューカツ都市伝説を斬る! 社会人に必要な「KY」のススメ

 リクルート、ライフネット生命などの人事責任者として20年以上、累計で2万人を超える就活生を面接してきた「プロ人事」、曽和利光さん。学生と若手社会人の双方をよく知る立場から、学生からは見えにくいカイシャの実情を解説します。今回は「社会人に必要な『KY』のススメ」です。

「十を知る」より「確実に把握」

 コミュニケーション能力。就活をくぐり抜けてきた皆さんなら何度となく耳にしてきた言葉ですね。「学生は社交性のことだと誤解しがち」「企業が求めるのは、相手の意図を把握し、自分の意図を伝える能力だ」。そんな指摘を受けたことのある人も少なくないでしょう。その指摘は正しいのですが、ここで一つ、皆さんが見落としがちな視点を付け加えておきたいと思います。日常的にこの能力が高い人は、ビジネスにおいては能力が低いとされる場合があるのです。

 皆さんにとって、周囲の人々との日常のコミュニケーションを考えてみてください。「KY(空気を読めない)」なんて言葉にもにじんでいますが、いちいち言葉に出さずとも相手の意図を察して振る舞うのが大切だという価値観は、かなり強固なはずです。一を聞いて十を知る、あうんの呼吸、以心伝心などといった言葉も、基本的にプラスの意味で使われますよね。

曽和利光(そわ・としみつ) 1971年生まれ。 京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある(撮影協力=東海大学高輪校舎)

 しかし、ビジネスの現場に春から飛び込んでいく皆さんには、この価値観をいったん脇に置いてほしいのです。なぜかというと、ビジネスでは一を聞いて十を知ることよりも、聞いた「一」を確実に把握することのほうを優先すべきケースが少なくないからです。事実をしつこく確認し、曖昧さを排除して、誤解やミスを防ぐ。「文章力」を取り上げた際に言及した「正確性の大切さ」は、対話のコミュニケーションの場合も同様だといえます。

 意外に思うかもしれませんが、例えば私のよく知る人事の世界でも、日常のコミュニケーション能力が高い人材は、採用の面接官に向かない場合が多いのです。学生が曖昧な答え方をしたときに、「ああ、あれね。なるほどね」と理解し、納得してしまうからです。人物像を見極めるためには、「それはどういうことですか? 説明してください」と突っ込むべきなのに、です。日常のコミュニケーション能力が低い、つまりはある種の「KY」であることが重要だという好例だと思います。

しつこい確認はいじめにあらず

 入社後の皆さんは、恐らく毎日のように、上司や先輩から「これは何だ」「あれはどうなっている」と、しつこく尋ねられ、確認されることでしょう。日常のコミュニケーションの感覚からすると、まるで悪事を働いて問い詰められているかのように思えてしまう。「疑われているんですか」「いじめでしょうか」という新入社員の悩みにも接したことがあります。しかし、それは単にビジネスのコミュニケーションの作法がそうだからというだけです。皆さんの連絡や報告が曖昧で、この作法で求められる正確性の基準に達していないからこそ、しつこく確認されるわけです。

 職場の一員になるからには、その正確性重視の作法を受け入れるしかありません。5W1Hという言葉もあります。連絡や報告をするときには、「誰の発言か」「いつまでに提出するのか」などといった、盛り込むべき具体的事実を常に意識して、伝え忘れることのないように心がけましょう。報告漏れや伝達ミスが、得意先の信用を失ったり、会社に多大な損害を与えたりすることにつながるリスクを考えれば、ささいな一言でもおろそかにはできないはずです。

 もっとも、このコミュニケーションの作法は、学生と社会人で異なるというより、プライベートとビジネスで違うといったほうが適切かもしれません。プライベートの人間関係にビジネスの作法を持ち込み、何でもかんでも尋ねると、間違いなく煙たがられます。裏返せば、プライベートでは敬遠されるほどのしつこさが、ビジネスのコミュニケーションでは重要だということになります。

リスケ、できはや...「職場用語」にもご注意

 皆さんがしつこいコミュニケーションを意識すべきな理由としては、「職場用語」の存在も無視できません。例えば予定を延期する意味の「リスケ」。この連載でも面会予定を決める意味で「アポ取り」などと使ったことがありますね。皆さんは入社後、そんな「職場のコミュニケーションに限って、なぜか日常的に使われる言葉」に、ことあるごとに出くわすはずです。意味を推測するのもさほど難しくないかもしれませんが、そこで勘違いしてしまったらどうなるか。

 例えば私が以前勤めたリクルートでは、「できはや」「なるはや」という言葉を使い分けていました。できはやは「できるだけ早く」で、とにかく最優先、遅くともその日のうちに、という意味合い。なるはやは「なるべく早く」なので、1日2日の間には、ぐらいの意味合いです。そこで先輩に「できはやでよろしく」と頼まれ、「いつまでですか?」と確認せずに、後になって「できはやだって言っただろ!」と怒られる。そんな「悲劇」は枚挙にいとまがありません。

 職場で暗黙の了解になっている流儀が落とし穴になる場合もあります。年末の仕事納めの納会には業績報告もつきもの。そのために会場の飲食店は個室席が当然という職場で、予約を任された新人が大広間の席を確保してしまったなんて話を聞きました。頼んだ先輩に配慮が足りなかった部分もあるにせよ、新人が「個室がいいですか?」とひとこと確認していればトラブルは防げたのです。

 いわゆる業界用語を含むそうした用語、あるいは流儀は、職場の先輩たちの間では空気のように当たり前に共有されているものです。新人にとっては「習うより慣れろ」の面もありますが、慣れる前にミスを連発されても困ります。きちんと把握できたか自信を持てないときは、今までの自分の常識に照らして何となく合点して済ませることなく、しつこく確認するようにしましょう。「職場用語」の予習には、私も自分の会社の新人に読ませている「オトナ語の謎。」という本がお薦めです。
[日経電子版2016年12月21日付]

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