地方銀行~相次ぐ再編、次はどこ?
学生のための業界ガイド2017(9)
次に経営統合するのはどこ?――。再編が相次いでいるのが地方銀行です。再編候補の銀行名もさまざまに取り沙汰されています。日経カレッジカフェが学生の皆さんの参考になるように連載する業界研究。前回はメガバンクを紹介しましたが、今回は地方銀行を取り上げましょう。
地方銀行は2種類ある?
地方銀行は、地元の都道府県を主な営業基盤としています。大手地銀の多くは全国地方銀行協会の会員で、第一地方銀行と呼ばれることもあります。横浜銀行(神奈川県)、千葉銀行(千葉県)、静岡銀行(静岡県)をはじめ、常陽銀行(茨城県)、京都銀行(京都府)、福岡銀行(福岡県)などの大手はそろって第一地銀です。
これとは別に第二地方銀行協会という組織があり、その会員は第二地方銀行になります。第二地銀の多くは、かつての相互銀行を母体としています。第二地銀は規模が比較的小さい例が多いのですが、なかには北洋銀行(北海道)のように、かつて都市銀行だった旧北海道拓殖銀行の事業を譲り受けたうえ、旧札幌銀行とも合併し、大手の第一地銀と遜色ない規模になった銀行もあります。
マイナス金利・人口減という逆風
第二地銀を含めた上場地銀83行・グループの2016年3月期の連結純利益(一部単体)の合計は、その前の期より8%増の1兆1900億円となりました。2008年のリーマンショック以降では最高でした。とはいえ、今後の経営環境は楽観できません。日銀のマイナス金利政策で貸出金と預金との利ざやが縮小しているうえ、地方では人口減少も進んでいるためです。
勝ち残りを目指す経営統合へ
近年は都道府県を越えた再編が相次ぎ、業界地図が激変しています。以前は再編といえば、不良債権を抱えた銀行を救済する色彩が強かったのですが、最近では健全行同士が広域化で勝ち残りを目指して踏み切る例が目立ちます。
2016年4月に、地銀最大手の横浜銀行(神奈川県)と東日本銀行(東京都)が経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループが発足。最大の地銀グループとなりました。
さらに常陽銀行(茨城県)と足利ホールディングス(栃木県、足利銀行)が16年10月に経営統合して、めぶきフィナンシャルグループが誕生。全国でも有数の大手グループとなりました。これらの動きに対して、千葉銀行(千葉県)は16年3月に武蔵野銀行(埼玉県)との業務・資本提携を発表。経営統合ではないだけに、提携効果をどう生むかが課題となります。
関東以外に目をやると、とりわけ九州は再編の風が強く吹いている地域でしょう。肥後銀行(熊本県)と鹿児島銀行(鹿児島県)が2015年10月に経営統合して、九州フィナンシャルグループを設立しました。16年10月には、西日本シティ銀行(福岡県)や長崎銀行(長崎県)で構成する西日本フィナンシャルホールディングスが誕生しました。
福岡銀行(福岡県)、熊本銀行(熊本県)、親和銀行(長崎県)などで構成するふくおかフィナンシャルグループが新たな動きをみせています。十八銀行(長崎県)と経営統合し、業界で全国トップグループに名乗りをあげようというのです。これについては、ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行は17年1月になって、同年4月を予定していた経営統合を、10月1日に延期すると発表しました。十八銀行と親和銀行の18年4月の合併も先送りします。長崎県内で約7割のシェアを持つことになるので、競争がなくなることを懸念する公正取引委員会の審査が長引いているためです。
相次ぐ統合話により、業界内には「再編の流れに乗り遅れてはまずい」との危機感が強まっています。全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は17年1月に開いた記者会見で、地銀再編について「経営の方針、戦略の一つで起きることは当たり前だ」と指摘し、「再編は増えていく」と述べています。
銀行間でさまざまな連携も
メガバンクはすでに、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループという3グループに集約されました。これに比べて、地銀ではまだまだ再編の余地がありそうです。過去には、北陸銀行(富山県)と北海道銀行(北海道)が母体となった、ほくほくフィナンシャルグループのように、地理的に相当離れた地域同士での経営統合の例もあります。今後もさまざまな組み合わせが考えられるでしょう。
この原稿を書いている最中に、ニュースが飛び込んできました。三井住友フィナンシャルグループ系列の関西アーバン銀行(大阪府)、みなと銀行(兵庫県)と、りそなホールディングス系列の近畿大阪銀行(大阪府)の3行が経営統合することで調整しているというのです。メガバンクを巻き込み、系列を超えた再編に発展しそうな情勢です。限られた椅子を巡る競争がさらに激しくなるのは必至でしょう。
待遇は高め
再編だけでなく、ビッグデータを使ったマーケティングや災害時の相互支援など、銀行間でさまざまな連携も目に付きます。金融とIT(情報技術)を組み合わせたフィンテックへの取り組みもますます盛んになりそうです。銀行による事業会社への出資が緩和され、IT企業への資本参加が増える可能性も高いでしょう。
ここで、行員の待遇をみてみましょう。各行の2016年3月期の有価証券報告書から数値を拾ってみました。例えば、横浜銀行の平均年収は761万円(平均年齢37.8歳)。同様に、千葉銀行は736万円(同38.9歳)、静岡銀行は766万円(同39.3歳)となっています。規模や収益力の違いによって、各行の金額水準は変わりますが、地元の産業界と比べると水準は高めといえそうです。有価証券報告書は、各行のホームページからみることができます。気になる銀行の待遇をチェックしてみましょう。
来たれ「コミュニケーションとれる人」
地元の地銀への就職を考える学生さんは多いでしょう。地銀といっても、地銀によっては、広域から学生を集め、内定者のほぼ半分が他地域出身者という例もあるようです。いったい、地銀はどんな人材を求めているのでしょうか?複数の地銀の採用担当者に聞いたところ、「円滑なコミュニケーションをとれる人」「笑顔で誰とでもつきあえる人」「人に嫌われないタイプ」などの答えが異口同音に返ってきました。
これは、地元の企業や個人との取引を担当することが中心となるためでしょう。まずは、地域の人たちとうまく付き合えることが大前提というわけです。もちろん、再編が増え広域化が進んでいるわけですから、変化に対応する能力も必要となるはずです。国内外の経済情勢には広く関心を持っておきましょう。
(村山浩一)
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