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お悩み解決!就活探偵団2018長時間労働=ブラックか
就活ミスマッチの防ぎ方

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 長時間労働=ブラックか<br />就活ミスマッチの防ぎ方

 企業の採用活動「解禁」を3月に控え、就活生は業界研究、企業研究のまっただ中。一番気になる疑問は「この会社、実はブラック企業じゃないの?」だろう。大手広告代理店、電通の過労自殺事件を端緒に、月の残業時間を60時間に抑えようという議論も始まっている。長時間労働=ブラック、たしかにわかりやすい構図だが、それだけ注意しておけばいいのだろうか。

入社間もなく「顔面マヒ」

 「徹夜は当たり前。文字通り倒れることが何度もあった」。こう話すのは電通と肩を並べる大手広告代理店グループに4年勤務し、昨年4月に退職したある女性、Aさん(26)。テレビ局から広告枠を獲得し、顧客である健康食品メーカーなどに買ってもらう、花形部門だ。

 だが実情は見かけとは違った。もっとも重要な業務は広告獲得のためのコンペ。1つの顧客に対して、ライバル数社が広告の作成権を獲得するために企画を競う。顧客の要望を聞くための接待が毎夜続き、帰宅するとその要望を資料にまとめる。準備とストレスで不眠が続いた。

イラスト=篠原真紀

 3週間徹夜続きで臨んだコンペ。大型の受注案件だったが、あっさりと敗北。あとで聞いたところ、すでに受注する会社は決まっていたが、「一応コンペを開くことが大事」なのだという。「ふっと張りつめていたものが切れました」

 20代男性のBさんも、学生から人気の高い上場企業のネット広告ベンチャーを4年でやめた。「この会社がブラック企業といわれていることは知っていました」とBさん。検索窓に「会社名 働き方 ブラック」と入れると、ブラック企業ランキングの上位に社名が表れた。

 それでも、若手なのに1億円以上の予算が任される。当初は「ばりばり働きたいという気持ち」が勝っていたが、長くは続かなかった。入社してまず任されたのは、顧客開拓の電話営業。企業の代表番号を調べるところから始めて、ひたすら電話にかじりつく。残業時間は月80~100時間ぐらいだが、帰宅後も仕事していたので、正直わからない。

 1年目の6月のある日、顔に引きつりを感じるので鏡を見ておどろいた。表情がない。過労や過度のストレスから発症することの多い「顔面マヒ」だった。「この会社で働いていたときは、友達と飲みに行った記憶がないですね」と笑う。

残業時間=士気向上の事実

 こうして見ると、華やかな広告代理店はやはり、ブラックのショーケースなのか。就活支援サービスを手がけるアイプラグ(大阪市)が今年1月、来年春の入社を目指す就活生918人に実施した調査では、59.9%が「長時間労働やサービス残業があるか」、56.5%が「ブラック企業かどうか」が気になると答えた。「仕事は賃金を得るための手段と考えたい」「自分のプライベートや生活を犠牲にして働くことは避けたい」「オンオフのメリハリをつけて働きたい」――などといった声が集まっている。

 電通の事件や、働き方改革の議論を受けて、企業側にも労働時間や残業の上限を学生に公開する動きは広まっている。しかし、単純に労働時間が基準内だからといって、ブラック回避は可能なのだろうか。

残業時間が100時間を超すと、やる気が上がる?

 ここにもう一つ興味深い調査がある。就職・転職向け口コミサイトを運営するヴォーカーズ(東京・渋谷)による「社員の士気、平均値調査」だ。同サイトには、企業に所属する社員、元社員の口コミ約300万件が寄せられており、残業時間と社員の士気の相関関係が分かるようになっている。その結果わかったのは、残業100時間までは、士気の上昇が緩やかだが、100時間を超えると、急上昇するという信じがたい事実だ。

 残業100時間以上で士気が高い「ヒートアップ企業」の上位には、不動産会社のオープンハウスやコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニー、A.T.カーニー、ドリームインキュベータ、カヤックなどの人気企業が並ぶ。

 大学の学園祭の準備のように、目的の一致したチームとの仕事であれば、寝食を忘れても平気だったはず。この数字は、自分の目的意識と合致した仕事なら、労働時間で測れない達成感を得られることを示している。

 入社前の学生が「ブラック」だと気にするポイントと、実際に働く上でのストレス要因にはズレがあるのかもしれない。転職サイトを運営するエン・ジャパンの新卒採用企画部の林善幸部長は、「学生は情報が少ない中、前年の就職人気ランキングに頼りがち。それが、就職のミスマッチにつながる」と指摘する。

「グローバル」ふたを開けたら

 「詐欺だ」。ある大手企業に新卒で入社して2年目の男性社員Cさんは、柔和な顔立ちに似合わぬ辛辣なセリフを吐き出した。この会社は就職人気ランキング上位の常連で、給与水準も決して低くはない。しかしCさんは、「次の異動で希望がかなわなければ会社を辞めてやる」という。

「『グローバル』という言葉につられた」とCさんは悔しそうだった

 英語を駆使して海外を飛び回る姿をイメージしていたCさんの仕事は、子ども向けの英語商品の企画・立案。子どもに夢を与える大切な仕事ではあるが、Cさんがこの会社を志望した理由とはまったくかけ離れていた。「人気企業の看板に目がくらんだ。国際的に活躍できる人材になりたかったのに、会社選びを間違えた」と唇をかみしめる。

 選択ミスの発端は、面接での人事担当者のひとことだった。「うちはグローバルに活躍する人材を求めている」。アジアでも事業を展開しているこの会社のグローバルの名の付く部署なら、さぞ海外で仕事をする機会も多かろう。そんな希望が単なる思い込みにすぎなかったとわかるのに、時間はかからなかった。

 「東京勤務だと思っていたのに......」。大手生命保険会社2年目の女性、Dさんの仕事は生命保険の法人営業だ。会社の車にのり、担当企業を回る。忙しい時期には深夜まで働くこともあるが、休日は休めるし、平日でも友人と食事に行く時間もある。なにが不満なのか。

 Dさんが採用されたのは、エリア総合職だ。全国転勤のある通常の総合職と異なり、異動は限られたエリア内ですむ。出身は埼玉だが、大学は都内だったため、「東京で金融系の仕事がしたい」と思い志望した。面接時にも東京勤務を希望し、人事部からも「東京で働いてもらう」とにおわされていた。

 だが、実際の勤務地は、埼玉だった。人事からは、「自宅から通えるように配慮した」と言い訳のように言われた。「東京への異動は少なくとも2~3年先です。いっそ転職しようかな」と不満げだ。

 「企業やネットから受け取る情報をうのみにせず、自分から積極的に情報をとりにいかないと」。法政大学キャリアセンターの内田貴之課長は、こう指摘する。「1日に何件営業に行くのか。月の売り上げはいくらがノルマか。そんな具体的な質問を重ねることが大切だ」

「なぜ採れないか」を面接で説明

 説明会、面接、インターンシップ――。実際、企業との接点を持とうとすれば、機会はいくらでもある。

 今年、大手ガス会社への就職を決めた立教大学4年生のEさんの作戦は「1対1」。昨年3月の企業説明会では、講演会やセミナーには目もくれず、参加各社が設置したブースに狙いを定め、第1志望だった製紙大手の担当者を質問攻めにした。ところが返ってきた答えは「どうだろうね」「人事部に聞いてほしいな」などといった曖昧な返事ばかり。「知りたいことにはちっとも答えてくれず、不誠実だった」。自分に合わない企業を察知するチャンスをうまく生かした。

 場数を踏んでいけば、企業側がその機会をくれるラッキーなケースもある。

 青山学院大4年生のFさんは、大手日用品メーカーの選考をトントン拍子で上がり、最終面接で人事部長から30分、とうとうと諭されたという。「あなたはうちにあわないと思う」。厳しいが丁寧な口調だった。Fさんは、大学に入学するまで東京から出たことがなかったが、この会社は地方転勤、しかもかなり田舎の営業所への転勤がある。「正直、内定したら憧れも強いし、親も安心するから入社しちゃったと思うけど、自分のキャリアを考えると確かにやっていけなかった」。選考はうまく進んだようでも、人事はちゃんと見ていたのだ。

 Fさんは、その後内定を獲得したウエディング会社も辞退した。「憧れだけで受けたら、トントン拍子に進んで内定がでてしまったが、就活と並行していたアルバイトをやっているうちに接客業に向いていないことに気づいたんです。本音は、黙々と仕事することが好き」。

「あえて電通」のなぜ

楽天が「就活準備」と銘打って主催したフォーラムの様子(東京都渋谷区)。

 今月2日、東京・渋谷で開かれたある就活生向けイベント会場は、多くの出展企業と、詰めかけた学生の熱気であふれかえっていた。ひときわ多くの人だかりができていたのは、何と電通のブースだ。

 「きつくても耐えられるほどの面白い仕事があるのかどうか知りたかった。事件が公になったことで、労働環境は改善されているはずだし」(明治大学3年生)

 「事件の後で職場環境は良くなっていると思うが、報道で萎縮して、存分に働けなくなっていないかどうか、直接聞いてみたい」(立教大学3年生)

 彼らの目は、「電通=ブラック企業」というステレオタイプには惑わされていないようだ。採用活動が本格化する3月よりも前から、積極的に企業の情報をつかみ、本当の姿を見極めようとしている。そんな姿勢こそが、就活を賢く乗り切る学生の最大の武器とも呼べるかもしれない。

 トントン拍子の就活に疑問をもったFさんは今、本命の人材仲介大手に焦点を絞っている。「正直、クリーンな会社より、大変でも面白いと思える会社がいいな」と屈託なく話す。
(飯島圭太郎、松本千恵、松元英樹、岩崎航、夏目祐介)[日経電子版2017年2月9日付]

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