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「ハーバード新入生より優秀」
開成の人材育成法

「ハーバード新入生より優秀」開成の人材育成法

 東京大学合格者ナンバーワンの進学校、開成中学・高校(東京・西日暮里)。2016年まで東大合格者は35年連続でトップを走り、各界で活躍するOBは2万3000人に上る。開成の強さの秘密とは何か。2021年に創立150年を迎える名門校はこれからもトップを走り続けられるのか。

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開成校長はハーバードの元ベスト先生

 「18歳時点で米ハーバード大学の新入生と比べると、うちの生徒の方が、学問的にもリーダーとしても優秀でしょうね」。開成中学・高校の柳沢幸雄校長(69)はニヤッと笑ってこう話す。柳沢校長はもともとハーバード大学の公衆衛生大学院で教授などを歴任した化学者でもある。開成高校から東大に進学、化学工学を専攻した後、ハーバード大大学院にフルタイムで10年間を過ごし、度々ベストティーチャーにも選ばれている。世界的な教育者は、開成生をどのように育てているのか。

 開成は学校生活についての満足度調査を毎年6月に実施しており、16年は中1の段階で「楽しい」(89.2%)「まあまあ楽しい」(9.3%)で計98.5%となったが、もう一つ重視しているデータがある。無遅刻・無欠席の「精勤度」だ。中学1学年の定員は300人だが、6年間精勤した生徒は61人。その生徒の保護者にはPTAから「家族への精勤賞」としてネックレスがプレゼントされる。6年間、母親などの家族が弁当を作って支えてくれたという生徒が多いためだ。受験生の高校3年の1年間精勤した生徒は122人だ。自由奔放を是とする進学校のなかには、「受験生は学校の授業はサボって、塾で勉強」という学校もあるが、開成はそれを是としない。

 「やはり精勤賞をとった生徒の方が進学実績はいい」(柳沢校長)という。そのために追求し続けているのが「楽しい学校、面白い授業だ」。ポイントはやはり教師選び。採用は公募だ。

教師は古典落語の名手のように

開成の校舎には「ペンと剣」の校章が掲げられている。

 開成には専任を含め130人余りの教師がいるが、その採用は書類選考、筆記試験、模擬授業、教師らによる面接、校長による最終面接という5段階を経て慎重に選ぶ。公募をすると、1人の教師枠に多い時には70人ぐらいの応募があるという。

 学問的な裏付けと、生徒に対する伝達力を基準に最適の人材を選ぶのだが、柳沢校長が考える良い教師とは「古典落語の名手のような先生だ」という。落語は前段のマクラと本編、そしてオチで構成される。「例えば、数学教師は因数分解を何回も教えているでしょう。しかし、同じ伝え方ではダメだ。その日の客の顔を見て、まず引きつけるマクラを考えないと、そしてドッと笑わせる」と話す。

 「確かに授業は面白かったし、毎日楽しかった。うちの会社も開成を見習わないといけない」。結婚情報サービス大手、IBJ社長の石坂茂氏(45)はこう振り返る。開成から東大を経て日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、その後起業したが、リーダーシップの要諦を開成時代に学んだ。

保健体育の先生も重視

 柳沢校長は「ただ、一度専任教師を採用したら、評価はしない。その先生に授業のやり方、教材選びなどお任せします」という。専任教師となれば、安定した地位を長年保証される。定年は68歳だ。開成の教師は様々な学位を持つ優秀な教師が多いが、なかには小説家もいる。6年間一貫教育のため、国英数の積み重ねが必要な科目のキーパーソンとなる教師は原則6年間持ち上がる。開成がユニークなのは心身の発達を支える保健体育教師も原則6年間、持ちあがる点だ。

柳沢校長は「一度専任教師を採用したら、評価はしない」と話す。

 確かに校内にはジャージー姿の先生が目立つ。開成はクラブ活動を重視しており、「5月の運動会こそが教育装置」(柳沢校長)というのが校風だ。5月の運動会は高3の生徒全員が主導し、終了後に受験体制に突入する。スポーツで蓄えたエネルギーを受験に転換する生徒は少なくない。

 開成から東大理科三類に進学し、脳外科医を経て、医療ベンチャーのメドレー代表取締役となった豊田剛一郎氏(31)は「サッカーの中高で主将をやっていて勉強どころじゃなかったけど、引退して高3になって成績がグッと伸びました。体力と集中力がありましたから」という。

グラウンドはつぶさない

 開成は2021年の創立150周年に向けて高校校舎の全面改築を予定している。「普通の学校ならグラウンドに新校舎を建てるでしょうが、うちは運動会が大切。だからグラウンドはつぶさない。1年でも中止にしたくないので、時間もかかりますが、現校舎を3期に分けて建て替えていきます」(柳沢校長)。開成の「運動会」重視の姿勢は半端がない。

 2020年には大学入試改革が控える。グローバル化のなか、英語のスピーキング試験や面接などが重視される方向だ。しかし、柳沢校長は「開成の教育理念は変わらないでしょう。質実剛健、ペンは剣よりも強し、そして自主自律。グローバル化と言っても、ハーバードなど海外大学を狙う教育体制をつくることはしない。サポートはするが、決めるのは生徒。それぞれが意思決定すればいい。東大にしても我々がすすめているわけではありません」という。

開成はやはり男の学校

「東大にしても我々がすすめているわけではない」という。(東大駒場キャンパス)

 進学校にも男女共学校も徐々に増えているが、「男女共学もないでしょうね。男子と女子では中高の年代では成長速度が違いますから。一般に女子の方が成長が早いので、共学だと男子のリーダーシップをうまく養えなくなる。持ち株会社の様に傘下に女子校を持つやり方だとあるかもしれないと思いますが」と話す。

 ただ「平家物語ではないが、盛者必衰という。時代のニーズに応える教育サービスを提供しなければ、開成もダメになるでしょうね」。笑顔が絶えなかった柳沢校長だが、盛者必衰という言葉には力がこもる。受験本番を迎えた開成だが、当面、東大合格トップの地位は譲りそうもない。
(代慶達也)[日経電子版2017年1月14日付]

前回掲載「東大合格トップの開成、『楽しい』9割は本当?」では、超進学校らしからぬ「体育会系」のナゾに迫りました。

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