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[ career-働き方 ]

歌う看護師(3)歌手と看護師の両立を決断した理由

瀬川あやか authored by 瀬川あやか看護師、シンガーソングライター
歌う看護師(3) 歌手と看護師の両立を決断した理由

 はい。「歌う看護師」瀬川あやかです。連載も第3回となり、私の活動や人となりが少しずつでも見えてきた頃合いでしょうか。最近は自身初のアルバムリリースに向けて各地を飛び回る日々を送らせていただいております。一方では2月に看護師国家試験がありましたね。気がついたのは当日でしたが、「国家試験」と聞いて学生だったころのことを思い出さずにはいられませんでした。

 さて、前回の記事の最後に「自分が看護師をする上でも、シンガーソングライターをする上でも、双方が双方に必要な存在である」というお話をさせていただきました。今回はそう思うきっかけとなった看護学生時代に戻って、経緯や出来事を詳しくお話していけたらいいなと思っております。

 あくまでもこれは「歌」も「看護」も両方やりたかった私なりの考えですので、どうかそのように捉え、今回も最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

「先輩に勧められて」ミスコンに参加

ミスコン出場で事務所に所属

 話はいったん大学1年生にまでさかのぼります。無事、東京での大学生生活がスタートしたわけですが、その年に先輩に勧められて大学のミスキャンパスコンテスト(以下ミスコン)に出場することになりました。「先輩に勧められて」という言葉は何だかいやらしい感じがしますよね。わかります(笑)。しかし、きっかけは本当にそうでした。ミスコンを運営していた先輩に声をかけていただき、「今しか見られない世界、今しかできないことをやろう!」という言葉に背中を押されたのです。後に、このことがきっかけとなって今の事務所に所属することとなります。ミスコンの結果もそうですが、これがなくては事務所の社長に出会うこともなかったと思うので、出場して本当によかったと心からそう思っています。

 大学2年生からは今のベンヌに所属しながら、看護学生としての専門的な勉強が本格化していきました。そのときの私はまだ半信半疑。事務所に所属していたものの「芸能界って一体どんな世界なんだ? どんな人・役割・きまりがあって、どんなことをするんだ?」と謎ばかり。そもそも歌手と看護師という、相反する夢をどのように追いかけていけばいいのだろうと迷う事が多くありました。次第に「無理かもしれない」と思うように。看護学生は事前学習、レポート提出がたくさんあり、それに実習が加わるとなかなか他の事に時間を割くことができなくなっていったからです。「歌手と看護師、いつかはどちらか選ばなければいけない」。そう思いながらも決めきれず、煮えきらない気持ちのまま時間はすぎていきました。

「明日の辛さの感じ方が少しでも変わればいい」と思いながら看護をし、歌う瀬川さん

きっかけはソーラン節

 そんなある日、私の「歌手と看護師の両立は難しい」という考えが180度変化するような出来事がありました。それは3年生のときに行った総合臨地実習。看護学生時代、最大にして最長の実習中に、それは起こりました。ある病棟で受け持たせていただいた患者さん(以下Aさん)は高齢による体力低下が進んでいて自立した活動があまりできず、認知症も進み、家族の名前も思い出せない状態でした。食欲もなく、動きたくないというAさんに何かできることはないかと毎日考えていました。何気なく聞いた「好きな音楽はなんですか?」という私の問いに「ソーラン節」と答えたAさん。その日は車椅子にAさんを乗せる際、ソーラン節を歌ってみることにしました。すると、いつもはほぼ全介助で動きたくないというAさんの手に力が入り、「ソーラン、ソーラン」という掛け声に合わせて自分で起き上がることができたのです。とても驚きました。「Aさん起き上がれましたね!」と一緒に喜びました。

 「音楽は人にパワーを与える」と改めて思えた瞬間でした。Aさんはおそらく「ソーラン節」を聴いて、当時の元気だったころの自分を思い出したのではないかと思います。そしてその記憶や思い出を引き出し、Aさんに何らかのパワーを与えたのが音楽だったのです。

 この出来事がきっかけで、私は「音楽も人のためにできるかもしれない」と考えるようになり、今まで真逆のところにいた歌手と看護師に共通性を見出していきました。「誰かを想って何かをする」という点において一貫していると思った私は、「歌手と看護師、いつかはどちらか選ばなければいけない」から「歌手と看護師、2つやるにはどうすればよいか」と考えるようになっていったのです。

 「明日の辛さの感じ方が少しでも変わればいい」と、歌っている時も看護している時も思っています。痛みや苦しみをゼロにしてあげることはできないけれど、それらの感じ方を軽くしてあげることはできると信じているからです。大切なのは心に寄り添うこと。発信するだけではなく、きちんと相手の目を見ながら気持ちを理解し受け止めること。このことは双方に言えることであり、それぞれでの関わりが心のやり取りの幅を広げ、それぞれに還元されているのだと思っています。いつか、私も誰かの「ソーラン節」になれるような曲を書き、それを病院や施設などに届けに行くことが今の目標の一つです。

1st Album『SegaWanderful』(発売日:2017年3月15日、2000円(税込み))