日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

津和野から伝えたい言葉(2)学校に馴染めなかった
自分だから分かる「教育の問題点」

室賀元伸 authored by 室賀元伸
津和野から伝えたい言葉(2) 学校に馴染めなかった<br />自分だから分かる「教育の問題点」

 なぜ自分が「教育」に関わるようになったのか。その根底には、自分自身が日本の教育システムのなかで、器用に振る舞えてこなかった経験があります。

 大好きな兄の背中を追いかけ入学した全寮制の中高一貫校では、陸上部の部長を務めたり、学習環境にも恵まれたりしていました。本当に充実した生活を送っていたのですが、中3の夏、「もっと外の『知らない世界』を見てみたい」という欲求が生まれ、高校受験を決意。その学校を退学し、残りの中学生活は地元の公立中学で過ごしました。今振り返ると、あの決断は「飛び出して、飛び込んで、挑戦する勇気」を醸成できた、とても大きいものでした。「学校を辞めて高校受験をしたい」という唐突なお願いに、「やってみろ」と応援してくれた親の存在もありがたかったですね。

学校外の世界が救いに

課外活動で出会った仲間たちは、勝手に同志だと思っています

 高校時代の私は、紛れもなく「問題児」でした(笑)。卒業から3年経ち、「教える立場」になった今、ようやく自覚しました(笑)。遅刻の常習犯で、部活も幽霊部員。実力テストではクラスビリのくせに、先生にも反抗してばかりだったので、校内の友達は片手に数えられる程度でした。クラスメイトや先生方、本当にご迷惑をおかけしました。

 しかし、そんな「問題児」の救いとなったのが、「学校外の世界」でした。もともと文章を書くことが好きで、公募のエッセイコンテストに挑戦したり、日本経済新聞社が主催する「日経エデュケーションチャレンジ」のような、社会の第一線で活躍されている方々の講演会に参加したり。こういった課外活動を通じ、宮城や愛媛、山口など全国に友人ができました。高校時代に出会った友人たちは、かけがえのない財産です。そして、学校外での学びや人間関係を育むなかで、「教育機関って、学校だけじゃない」「教育は、社会全体で創りあげるもの」だと考えるようになりました。

エッセイコンテストでの入賞経験から、「想いを発信する」ことの重要性を体感しました

 こうした想いから、大学では社会教育(学校外教育)を学ぶ学部に進学し、同時に、高校生へのキャリア支援をしている認定NPO法人カタリバに参画しました。自分が担当した企画は、埼玉県教育委員会が指定した県立高校13校の生徒に対し、キャリア意識の向上を目指すプロジェクト。私は学生サポーターとして1校を担当し、キャリア学習の授業を1年弱実施しました。

 授業の狙いは、「自分を好きになろう」と銘打った、自己理解の促進です。授業では、「なんで勉強しなければいけないの?」「なんで部活に行かないといけないの?」「そもそも勉強とか部活ってなんのためにあるの?」と、生徒たちに質問を投げ、グループになって議論を続けました。生徒たちは、「勉強って、あくまでも目標を達成する為の手段に過ぎない」「いま目指している進路も変わる可能性はある」と意見を出してくれました。

総合商社がタイで展開する電力事業研修ツアーに参加した時の写真。東京や神奈川だけでなく、青森や富山、京都、長崎など、全国からメンバーが集いました

 そして、全13高校が集う研修で、彼らの積極性は際立っていました。彼らからは、他校の生徒たちとの交流のなかで、「本音を言える友達に会えた」「他校の生徒とLINEを交換できて嬉しい!」との声が聞かれました。校内の人間関係に悩む生徒は、「学校外の空間は、何かを強制されないから楽しめるし、心を豊かにする場所だと思います」と話してくれました。

1年間、カタリバで担当した生徒たちと

 カタリバにいた1年間、生徒たちの成長を傍で見守るなかで確信したことがあります。それは、現代日本が抱える教育問題の本質は、「居場所の不足」だということです。昔から、教育は「学校・家庭・地域」が三位一体となって営まれてきました。

 しかし、少子高齢化や地域コミュニティの解体、インターネットの登場など社会の変化により、そのバランスは崩れてしまいました。そして、いじめや不登校、教師の多忙など、様々な問題が絡み合っています。私も学校に行けない時期があったり、冒頭に書いたように、学校で器用に振る舞えずに苦しんだ経験がありました。

 もし、日本の教育が学校に依存せず、別の機関でも行えるようになれば、学校の負担も減り、生徒もより多くの「居場所」に出会えるのではないでしょうか。そして、もっと教育の形が多様化された社会を、「居場所」の多い社会を創りたいと思うようになりました。

「地方」との出会い

 そんな大学1年の冬、カタリバが主催する、地方住み込み型長期インターンシップの説明会に参加しました。カタリバは岩手県や宮城県で、震災の影響で放課後の居場所を奪われてしまった中高生を対象としたコラボスクール(放課後学校)を運営しています。以前、私も見学に行ったことがあるのですが、その説明会でカタリバが島根県雲南市にも活動を新展開することを知りました。

 「『過疎』という言葉は島根県西部の発祥であるように、島根県は『教育課題の最先端地域』です。過疎化や学校統廃合の進むなかで、都市の中高生と島根県の中高生の間に、決定的な格差が生まれています。それは、人生で必要なことを教えてくれる『センパイとの出逢い』の格差です。勉強、部活、進路、恋愛、家族、友達。人生で必要なことを教えてくれる『キャリアモデルとなれる先輩』が地方から消えています。これが、教育格差の本質です」(雲南プロジェクト担当者のお話)

 このとき、今まで都市という「狭い世界」で生活してきた自分に気付きました。そして、「地方の教育」への興味が湧きました。そこで、地方の教育問題と、その解決を目指す事例について調べるなかで、「津和野」を知りました。津和野高校魅力化プロジェクトや「公営塾」の存在、森鷗外を育てた津和野の藩校養老館の歴史。調べれば調べるほど、魅力を感じました。気付いた時には「この『知らない世界』に飛び込んでみたい」という抑えられない欲求がこみ上げてきました。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>