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知日派の国際人を育成するプログラム「KIP」とは

authored by 内藤大貴東京大学2年
知日派の国際人を育成するプログラム「KIP」とは

英語の議論に怖気づいた自分

 初めまして、東京大学2年生の内藤大貴と申します。日本の様々な地域で留学生と地元の学生が交流する活動を行っています。そのきっかけは一昨年の夏に、とある学生会議に参加した時まで遡ります。その学生会議は海外の学生と1週間ほど議論するというもので、大学に入ってすぐの私は本格的な英語での議論に怖気づいていました。

 消化不良感を感じているところに、同室の先輩から面白いプログラムがあると紹介されました。同じ大学の先輩だったのですが、他の参加者も認めるほどの存在感を示しており、ディスカッション中も果敢に切り込んでいました。詳しく話を聞くと、先輩が所属している団体のプログラムで、アメリカに行って学生とディスカッションしたり、企業を訪問したりするとのことでした。その先輩の会議中の振る舞いが格好良く、また大学生になって行動圏も広がり、さらに海外ドラマなどでアメリカの文化に興味のあった私は参加するしかないと直感しました。

 そうした先輩からの偶然の誘いで入会したのがKIPでした。KIPは正式名称を「KIP知日派国際人育成プログラム」といい、「日本知らずの『国際派』から、『知日派』の国際人に」という理念のもと、大学生・院生を中心に活動する会員制の一般社団法人です。フォーラムと呼ばれる様々な分野のエキスパートの講演を通して知識を深め、共に社会問題を討論し、解決策を考え発表する活動の他、海外に渡航し、現地大学の学生との討論会や企業訪問を行う海外研修などがあります。

アメリカ研修最初の訪問大学、ライス大学での討論の様子

 その海外研修の一つに先輩に紹介していただいたアメリカ研修がありました。昨年度は「インターンシップからみる大学の意義」をプロジェクトのテーマとし、渡航前に5カ月ほどかけて企業や省庁、大学へのインタビューや2000人を超える学生へのアンケートを行い、現地でのディスカッションや企業訪問に備えました。

 アメリカ研修当日は、ハーバード大学やスタンフォード大学、イエール大学など米国8大学を訪問し、日本の現状についての発表の後、大学の意義やあるべき大学生活のあり方について議論しました。また、現地の日本企業、日系企業、米国企業にインタビューへ伺い、日米の文化や企業風土の違いなどをインタビューしました。そしてそうした研修の結果はKIPの1年の締めくくりであるシンポジウムにて発表し、報告書を経済同友会に提出しました。

運営に携わろうと思った瞬間

 アメリカ研修に参加して考えたことの1つに、日本についてよく知っておかなければならないということがありました。日本の伝統文化しかりサブカルチャーしかり。それだけでなく自分の地元や他の地域についても。現地で日本の何かについて聞かれた時、自分の興味がそれほどないことであったとしても、できるだけそこでの回答が一般的な回答として成立するようにしたいと思ったものです。適当なことは言いたくないし、しっかり勉強しようと思ったと同時に、好きになって深入りするかどうかは別として可能な限り様々な日本の文化について自分の意見を持っておこうと思いました。

 また、TPPの話をした時にアメリカの学生が「何それ?」と言って全く知らないという場面もあり、同じトピックであっても国や地域によって重要度が違うという当たり前の事実を知り、基本的に入ってくる情報は日本というバイアスのかかった日本にとって重要な情報ばかりなのだと思ったのでした。

 研修中は生まれも育ちも日本のいわゆる「純ジャパ」である私は、どちらかというと言語的なハードルやコミュニケーションの取り方などで苦労を感じてばかりだったのですが、そうした気持ちを忘れられるくらいにコンテンツが充実していました。討論でもインタビューでもパーティでも、ひたすら全力で参加することに意識を向けていました。そこで非日常的な満足感を得た私は今度は何をしようかと考えました。

 このように感じた私が次に着目したのは地域研修でした。ちょうどKIPでは5月開催の伊勢志摩サミットを受け、三重県庁と共催で大学生版サミットを行うことになったところ。ぜひ関わりたいと思い立候補し、プロジェクトリーダーとなりました。地域研修はKIPの理念「知日派の国際人に」にある「知日派」としての側面を育てるため、全国各地を訪れて文化や伝統を学び、また地元の学生や地場産業従事者との討論会を通じて、地方の現状と課題を考える視点を培うことをねらいとした活動です。

 三重県での地域研修は三重県伊勢市・南伊勢町を舞台に開催されましたが、他の地域研修との違いは留学生が多く参加したということです。これはまさに地域について様々なバックグラウンドの学生たちが議論する中で「内なる国際化」が図られる機会でした。自国内で他国の異文化を持った人たちと交わり、お互いの価値観を分かち合い、まずは国内でもできる国際化を海外研修で学ぶ国際化同様に学んでいこうとするものです。KIPでは2012年頃からこの動きを宮崎県訪問を皮切りに進めています。

UNICOMでの貿易の自由化を促進すべきかについての討論の様子

UNICOMに向けて

 この三重研修は名称を「2016大学生国際会議in三重(University Students Conference in Mie)」、通称UNICOMといいます。通常KIPの活動とは異なり、KIPの学生や留学生が参加しただけでなく、三重県や東海・関西圏の学生も参加しました。それもあって、どの立場の人も楽しめるような討論のテーマを設定したいとメンバーで頭を悩ませました。

 またサミット開催の地で日本や世界の学生が視察し、議論し、発信するというのが目的であったため、背後には討論テーマも三重県らしさを出しつつ、グローバルな課題を扱いたいという思いがありました。そして試行錯誤を経て、「ふるさと納税は地域のためになるか」「貿易の自由化は促進されるべきか」を主な討論テーマに設定しました。

 ふるさと納税については、実施している地域一般に対して関わってくるものです。うまくいっている自治体、そうでない自治体、そして本来の趣旨通りに運用がなされているのだろうかとの問題意識などから設定しました。また、貿易自由化のテーマは今度は留学生を主にターゲットに考えたもので、留学生の出身地域で多かったASEAN地域の学生も関心のある話題であろうと考え、そのテーマにしました。そして、KIPの地域研修を行う際にはいつもそうですが、開催までには参加者でテーマについての事前学習を分担し、まとめを共有することでテーマに関する知識の拡充を図り、事前研修を開催して討論の練習を行いました。

UNICOM本番

 UNICOM当日は伊勢神宮の視察や地場産業体験をはじめとして、三重県の各地で生まれ育った学生や地場産業の従事者の方と関わりました。ある学生は「小さい漁業のまちで育ったから地元の人との付き合いが長い。そうした人との付き合いを大事にしたいからまちを離れたくない」と言い、ある学生は「これまで住んでいた伊勢に愛着を感じるし誇りに思うから、伊勢の魅力を発信していきたい」と話していました。幼い頃に引っ越しが多く、継続したコミュニティを知らない僕は心を打たれました。

アメリカ研修最後の訪問大学、スタンフォード大学にて

 また、グループに分かれて行った地場産業体験では、私は南伊勢町の五ヶ所浦のアサリ研究会の方にお話を伺いました。五ヶ所浦はかつて潮干狩りが有名で、地域内外からの多くの人で賑わい、アサリは貴重な地域資源でした。しかし、来場者数や採捕量の制限などをしなかったため、アサリが消えてしまいました。

 平成25年から南伊勢町、養殖研究所、三重県の50~70歳の方を中心に五ヶ所浦湾アサリ研究会を発足され、アサリ復活、そして活気あるまちづくりに貢献したいという思いで活動をされているそうです。その後の作業体験では作業の妨げになるカキ殻の除去や干潟の観察、そしてアサリの取り出し作業を実際に体験しました。学生たちは足を水に浸かりながらの作業に苦戦する中、地元の方々の手際の良さに感嘆していました。

 このような体験をする中、その土地の生の空気を"感じる"機会が多くありました。開会式で三重県の鈴木知事からUNICOMで学生に期待することの1つとして「現場を大事にする」というメッセージがあり、このことの意義を実感する体験となりました。こうした日本の地方特有の風景に留学生たちも心を奪われたようです。地場産業体験のあとに行われた討論の場でも、参加者自身の思いが込められた議論がなされていたように思います。自分たちの目で見た南伊勢町の産業についての現状は、貿易の自由化の是非についての討論の過程に少なからず反映されていました。

 そして同時に地域の話題についてその地域の住民だけでなく、県内の他地域、あるいは日本の他地域さらには海外からの参加者がいたというのはとても貴重なことでした。期間中随所で「私の出身の秋田県では・・・」、「シンガポールでは・・・のような例がある」など各々の経験が語られ、知識として文献から得られるものとは違った学びが存在していました。

UNICOMを終えて感じたこと

 UNICOMでの活動を通して、学生が地域と触れ合う機会を創設していくことの重要性に気がつきました。当然、今回のUNICOMで三重県のすべてについて何かが分かったという気は全くありません。訪れた伊勢市、南伊勢町のごく一部を知った気になっているだけかもしれません。ただ、私はそのごく一部の中に身を置いたということに意味があったと思います。なぜなら、実際に行かなければ南伊勢町でアサリがどんな役割を持っていてどんな思いで育てられるかを知る術はなかったからです。現地での学びを最大化するために前述した事前研修などで知識を押さえることは大切ですが、それと同じだけ現場での経験も重みを持っていると思います。

 日本に来ている留学生もなかなか所属大学から離れた地方に旅行する機会はないと聞きました。今回の参加者の多くも日本にずっと住んでいても、初めて三重県を訪問する人たちばかりでした。同時に三重県の人たちにとっても、一度に大人数の他県から来た学生や留学生と話す機会は多くないようです。実際に開催してみると普段会わない者同士、思わぬところで意気投合が起こったり、至る所で再会が誓われていたりとUNICOMが本来会うべきはずのなかった人たちが巡り合ったのだと実感したのです。最近も各所で同窓会が行われているのを耳にするにつけ、そうした人たちを巡り合わせる場づくりに関われたことを嬉しく思いました。

 私は今回の体験を通して、日本のある地域で世界規模の話題に知恵を絞り思索し、議論するということの可能性を強く感じています。国内や国を超えて人の移動が増えてきている昨今、国際化は何も海外に行くだけでなく日本にいても実現できるものだと確信しました。そして、こうした活動は自らの故郷の相対化をも可能にし、改めて故郷を振り返る機会を与えてくれると痛感しています。

南伊勢町の方と大漁旗を制作している様子

今後の活動

 2016年のUNICOM後の活動として、KIPでこのような大学生国際会議を毎年のイベントにしていくということで決定しました。第2弾は150余年前、若者が集まり未来を語り行動に移した、山口県にて2017年5月のゴールデンウイークにJUNICON(Japan University International Students Conference)として開催する予定です。

 当時の活気を、この現代社会で、国内外の同年代の若者によって再現したいと思っています。地域の実態に近づき生の声を通して地域を知ること、そして地域の活性化につなげること、今回もそれを目的に実施します。日本にいてもなかなか日本について考える機会は多くありません。日本の歴史・文化について考えるとともに、その延長線上に世界を見ていく機会として、意義深い会議にすることを目指し準備を進めています。早速UNICOM参加者からもまた参加したいとの声を聞いてすでに胸が高まっています。ご興味のある方はKIPホームページをご覧ください。

KIP知日派国際人育成プログラム