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AIが奪う仕事に未来の芽

野口功一 authored by 野口功一PwCコンサルティング パートナー
AIが奪う仕事に未来の芽

 人工知能(AI)がビジネスの世界ではポピュラーになっている。人間の最大の特徴である「知能」を「人工」にしてしまうというすごいことが実現されているわけである。2045年にはAIが人間を超えるという説もあり、テクノロジーが進化すると人間の仕事が奪われるという話もよく耳にするようになった。

 AIが進化したら、人間のやることとして、一体何が残るのであろうか。シリコンバレーでもよく議論になっている。人間は必要なくなるという人もいれば、人間の代わりは100年以上先にならないとできないという人もいる。

 私はそうした議論とは若干違った側面からみている。テクノロジーが進化すればするほど、人間はテクノロジー以外の新たな能力を必要とし、進化させていく。それをまたテクノロジーが追いかけるということになるのではないか。

 ウェブ検索は、情報や知識を取得するためになくてはならない重要なテクノロジーである。だが、検索ワードを考えるのも入力するのも人間だ。自分が欲しい情報を最短で的確に取得するために検索ワードを考え、その設定によって情報の精度が上がる。つまり、検索ワードを考える能力が必要ということである。

 検索では、ただ単語を入れればよいというわけではない。複数の単語をどのように組み合わせればよいのか、検索ワードの候補が多すぎる場合はどのようにして絞り込むのか。思いのほかアタマを使うことになる。

 最適な解を出せるかどうかは、検索する人の知識や教養、人脈、得意分野などが影響する。ここに検索結果の精度における格差や違いが表れる。

 従来のテクノロジーの役割を大まかにいうと省力化であった。いわば人を支援していたのである。これからその役割が代替化や創造性などになってくると、それは支援ではなくいわば人間と一体化して価値を提供することになる。

 テクノロジーの役割が人間に近くなるほど、それを使いこなす人間の持つ経験や構想力、デザイン力、判断力、そしてヤル気や情熱といったものが重要になり、影響が大きくなる。

 もちろんAIに代替されてしまう仕事はあるだろう。だが、必ず人間にしかできない仕事は存在する。その品質を高めたり、人間だけができる新しい仕事を生み出したりすることも可能だ。そこが人の強みになるはずである。むしろAIに取って代わられるといわれている職業こそ、未来の職業を生み出すのかもしれない。

 今はAIがブームになってもてはやされているが、そのうちに様々な問題が起きてAIへの批判が始まるかもしれない。そのとき、AIにはできない仕事をこなせる、ピカピカに磨かれた人間の存在感は大きくなる。大事なのは、やはり人間なのである。

 先進的テクノロジーの聖地としての印象が強いシリコンバレーだが、実は瞑想(めいそう)やヨガのための場所がよくある。カリスマ経営者が禅やヨガに傾倒している話もよく聞くし、大企業となったベンチャー企業が自社の従業員の研修に瞑想を取り入れている例も多い。最新技術の真ん中にあり、SFのような世界になっているからこそ、より精神性を大事にしているのである。

 テクノロジーは人の幸せに貢献してきた。今のテクノロジーの進化も人類に貢献するであろう。だが、その恩恵を受けるには、自分たち人間がより一層の進化を遂げなればならない。
[日経産業新聞2016年12月13日付、日経電子版から転載]

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