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[ liberal arts-大学生の常識 ]

世界は良い方向に向かってる
過度な不安は無用

出口治明 authored by 出口治明ライフネット生命保険会長兼CEO
世界は良い方向に向かってる過度な不安は無用
撮影協力:大東文化大学

 2016年は、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)や米大統領選でのトランプ氏の当選など、グローバリゼーションに不安や不満を感じる人たちの反発によって世界が大きく揺れた。世界は不安定になっていると危惧する人も多い。しかし、実際には明るいニュースが多いことを見逃してはならない。

 グローバル企業のトップがよく口にする「2030アジェンダ」もその1つだ。これは15年9月に国連サミットで採択された16年から30年までの「持続可能な開発目標」だ。貧困を撲滅し、持続可能な世界を実現するために17のゴールと169のターゲットが掲げられている。

 2030アジェンダの前に、国連は15年を達成期限とした「ミレニアム開発目標」を採択していた。ミレニアム開発目標を経て2030アジェンダに至るまでの間、世界はどのように変化したのかを振り返ってみよう。

 1日1.25ドル未満で生活する極度の貧困層は、1990年には19億人強いたが、2015年には8億人強に半減した。貧困が社会を不安定にする根本原因であることを考慮すると、この四半世紀で最貧困層を半減させたことは偉大な成果だ。

 しかも、この間に世界の人口は53億人から73億人に増えているので、貧困層の比率は36%から11%に減少した。

 出生してから5歳になるまでに死亡する子どもの割合も、1990年には1000人あたり90人だった。これが2015年には43人まで減った。15~24歳の若者の識字率は、1990年の83%から2015年に91%に改善した。

 安全な飲料水を得られない人は1990年には12億人いたが、2015年には半分の6億人に減った。栄養不良人口は1990~92年には10億人強だった。これも2014~16年には8億人弱に減少する見込みである。

 女性にリーダーシップの機会を平等に与えることも世界をよくするには重要な要素だ。1995年には11%強だった各国の下院議員に占める女性の比率は、2015年には22%強に上昇した。

 だが、日本は11%強にとどまっている。日本が追いつくには女性の議員比率を一定数以上にすることを義務付けるクオータ制の採用など、思い切った施策が必要だろう。

 電力を利用できない人は1990年には20億人を数えた。これも2015年には11億人とほぼ半減した。世界の人口に占める割合は38%から15%に低下している。

 2030アジェンダはこうした動きを加速させる内容になっている。

 最貧困層をゼロにする目標を盛り込んでいるほか、5歳未満で死亡する子どもの比率を、ワクチン接種の普及や改良などで1000人あたり25人以下にすることを目指している。若者の識字率では、スマートフォンを活用した教育などで30年には100%にする構想を描いている。

 安全な飲料水を得られない人もろ過ボトルの活用などでゼロにする。下院議員に占める男女の比率も半々にする。小水力発電や太陽光発電を貧困地域に普及させ、電力を利用できない人をなくす。実現すれば、世界は今よりはるかによくなる。

 もちろん、よいことばかりではない。テロによる犠牲者数は05年の1万4482人から14年に3万2727人になり、ほぼ倍増してしまった。難民の数も04年には2170万人だったが、14年には6040万人に膨らんだ。難民の約半分が18歳未満であることを知ると心が痛む。エイズに関連する死者も1990年には32万人だったが、2014年には120万人に急増した。

 だが、全体で見れば、国連を中心とした地道な取り組みが奏功して、世界は着実によい方向に進んでいる。こうした大きな流れを我々は見誤るべきではない。

出口治明(でぐち・はるあき) 1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年に日本生命保険入社。08年ライフネット生命保険開業。13年6月より現職。

[日経産業新聞2016年12月29日付、日経電子版から転載]

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