日本経済新聞 関連サイト

OK
career-働き方

謙譲語で「できる新人」
短期習得 4つのポイント
「自分の行為に使う」鉄則

謙譲語で「できる新人」短期習得 4つのポイント「自分の行為に使う」鉄則

 新入社員が就職後にまず悩むのが「敬語」。学生時代とは違い、職場や取引先、顧客など相手との関係に応じた適切な言葉遣いが求められる。会社デビューまであと1カ月、敬語をうまく使えるように準備しておきたい。鍵を握るのは「謙譲語」だ。

 「謙譲語に留意するのが一番コストパフォーマンスのいい敬語の学び方」と話すのは、社会言語学が専門で近著に「新・敬語論」(NHK出版新書)がある井上史雄・東京外国語大学名誉教授。

 謙譲語は相手を高めるために自分を低く置くという、ひとひねり加えた表現法のため、尊敬語や丁寧語に比べ使いにくい上に間違いやすい。しかも誤用には敏感な人が多い。それだけに、謙譲語をマスターしておけば周囲から「できる人」と高評価を得られる、というわけだ。

 今回は入社直前対策として短期間で身に付けられるようポイントを4つに絞る。「基本形」「言い換え」「~させていただく」「さ入れ言葉」だ。

 ●「お(ご)~する」尊敬語との混同注意 謙譲語の作り方は基本的に2つある。まずは動詞の前後に「お(ご)~する」を付け、機械的に謙譲語にする形だ。「お持ちします」「ご報告いたします」のように自分側の行為に対して使うのが鉄則。

 会社の受付で、担当者が「係にお聞きしてください」などと言ってしまうと、相手側を低めることになり、失礼極まりないので要注意。会社の教育体制や質も問われかねない。
このケースでは相手側の行為を高めればいい。謙譲語ではなく、「係にお聞きになってください」「係にお聞きください」などと尊敬語の「お(ご)~になる」の形にするのが正解だ。両者を混同しないよう、それぞれの基本形を押さえておこう。

 ●言い換え語は暗記を 「言う」「行く」など機械的に謙譲語が作れない場合もある。もう一つの作り方が「言い換え」だ。「言う→申し上げる」「行く→伺う」など基本的な動作を表す言葉に多い。数は限られているので暗記は難しくない。

 例えば「見る」の謙譲語の言い換えは「拝見する」で、これを相手側に使った「拝見してください」のような言い方は明らかな誤り。「拝んで見る」という字面を思い描けば、相手側の行為に使うのはおかしいと気づけるはず。尊敬語に直せば「ご覧になる」だ。対象になっているのが自分側の行為か相手側の行為か、頭の中でいったん整理してから言葉を選ぶようにすれば間違いは確実に減る。

 ●「~させていただく」は乱用しない 謙譲語の用法が発展した「~させていただく」が広く使われるようになった。謙虚さを表し、付けておけば失礼にならないという意識が働くためか、着実に普及している。

 ただ、相手側の許可を得て「恩恵を受ける」という気持ちを込めた表現であるため、「休業させていただきます」のような言い方に抵抗を覚える人も少なくない。ましてや「努力させていただきました」では過剰で押し付けがましくなる。便利な言い方ではあるが、使い方には注意し、乱用は避けたい。

 また、正しい使い方であっても、会話やメール文の中で「~させていただく」を連発するのも避けたいところ。くどい印象があり相手を不快にさせることがあるからだ。

 ●「さ入れ言葉」も避けて 気をつけたいのが「さ入れ言葉」。五段活用動詞には「~させていただく」ではなく「~せていただく」が付くため、「書かさせていただきます」「帰らさせていただきます」では「さ」が余計になり、それぞれ「書かせていただきます」「帰らせていただきます」が正しい。文化庁の「国語に関する世論調査」でも「さ入れ言葉が気になる」という人が増えているので、ビジネスの場面では使わないほうがいい。

最初から完璧目指さずに

 敬語に苦手意識を持ったまま社会に出る若者は少なくない。学校教育で理論を学んだだけでは身に付かないというのが現状だろうが、社会人になった途端、それでは済まなくなる。

 職場や取引先とのやりとり、接客場面で必要となるのが敬語だ。「敬語を間違えると会社の評価が落ちることもある。間違えた結果は連帯責任」(井上史雄・東京外国語大学名誉教授)というように、会話やメールで発した言葉は個人を超えて会社の責任となる。敬語の失敗でうまくいくはずの交渉が駄目になるようなことは避けたい。

 とはいえ、最初から敬語が得意な人はいない。若いうちは使いこなせないのが当たり前で、成長するにつれて少しずつ身に付くという調査データもある。白百合女子大学の山本真吾教授によると、尊敬語と謙譲語の混同は平安時代の文献にも見られる現象だという。敬語は日本人を長年悩ませてきた問題でもある。初めから完璧を目指さず、肩の力を抜いて、周囲の見よう見まねで覚えていくのもいい。
(小林肇)[日本経済新聞朝刊2017年2月28日付、「キャリアアップ」面から転載]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>