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[ liberal arts-大学生の常識 ]

スマホの春「月2980円」の攻防
新入生を青田買い

スマホの春「月2980円」の攻防新入生を青田買い

 1年でスマートフォン(スマホ)が最も売れる春商戦がいよいよ始まった。今年は、大手携帯電話会社(キャリア)各社とも例年以上に学生をターゲットにしたキャンペーンで「顧客の青田買い」を目指している。だが、落とし穴もあり安さだけにつられるのは危険だ。また、各社が発表した施策からは、スマホが料金と端末の両面で大きな転換点にさしかかっていることも透けて見える。

ワイモバイルの一人勝ちを許さない

 総務省の厳しい締め付けにより、もはや高額キャッシュバックや実質ゼロ円での販促はできず、長らく続いてきたMNP(番号持ち運び制度)による顧客獲得合戦には終止符が打たれた。そんな中で今年の春商戦における大手キャリアの動きを見て目立つのは「格安スマホ」に対抗するためのキャンペーンだ。

 KDDIの田中孝司社長が「格安スマホを意識した」と本音を漏らすように、大手キャリアとしても成長する格安スマホは無視できない存在となってきたようだ。春商戦は、中学や高校に進学する学生がスマホデビューするタイミングとなる。これまで使い続けてきた電話番号やキャリアにどうしても縛られてしまう親世代と違い、新たにデビューする中学生や高校生の契約については、親からすれば「とにかく通信料金が安いこと」が最優先となる。その結果、既存の大手キャリアよりも格安スマホが選択肢に上がってくるわけだ。

春商戦に向けた月額2980円の学生向け新プランを発表するKDDIの田中孝司社長

 そのための、一つの目安となる料金が「月額2980円」のラインだ。昨年の春商戦では、ソフトバンクのサブブランドであるワイモバイルが、端末は型落ちとなるiPhone5sながら月額2980円(税別、以下同)という値付けを打ち出して、学生の需要を一気にかっさらい一人勝ちした実績がある。

 そこで、KDDIは今年の春商戦に向け「auの学割天国」と銘打ち、月間3ギガバイト(GB)までのデータ容量の場合に月額2980円というプランを投入。これに追随する形で、ソフトバンクも「学割モンスター」という名前でKDDIと同じ3GBまでなら月額2980円というプランを設定してきた。KDDIとソフトバンクの両社としては、月額2980円に加え最新モデルとなるiPhone7との組み合わせで学生をおびき寄せるつもりだろう。

セット販売に注意

ソフトバンクもKDDIとほぼ横並びの「学割モンスター」を発表した

 ただし、今回の「月額2980円」という料金には落とし穴がある。実際に適用されるためには、対象となる新規契約の家族がいることと、さらに家庭で使う固定回線の契約も必要となる。もちろん、月額2980円という今までより安い料金で単純に使われてしまうだけでは、大手キャリアとして減収要因になりかねない。そこで、増収要因となる別の条件を組み合わせることで減収を何とかカバーする戦略なのだろうが、月額2980円という数字につられてショップに行ってみたユーザーの中には、うっかりすると親の新しいスマホと家の固定回線についても一緒に契約させられる可能性があるだけに注意が必要だろう。

 残るNTTドコモも、春商戦向けに学生向けのプランを投入する。ただし、こちらは毎月の基本料金を1年間にわたって最大1500円割り引くというシンプルなものだ。NTTドコモの場合、一貫して「家族でまとめて入ってお得」という料金体系を推し進めてきたため、KDDIやソフトバンクとは異なるスタンスにどうしてもならざるを得ないようだ。

ワイモバイルはCMに桐谷美玲氏を起用し月額1980円の安さを売りにする

 一方、去年の勝ち組であるワイモバイルも1年目に毎月1000円を割り引く以前からのキャンペーンに加えて、学生にはさらに1年間について毎月1000円を割り引く「ヤング割」を投入し、さらに安い月額1980円を実現する。

 ソフトバンクのワイモバイル事業推進本部長である寺尾洋幸氏は「うちの学割は固定回線や家族の加入、そんな難しいことは一切ない」と、KDDIやソフトバンクの学割よりも、ユーザーに優しいという点をアピール。大手キャリアが「家族や固定回線」とのセットで学生を巻き込もうとするなか、ワイモバイルは「単身でも安い」というメリットを最大限に生かす考えだ。

使った分だけ段階式定額制が登場

 今年の春商戦における各社の施策を一通り並べて見ると、スマホ業界が向かう今後の方向性が見えてきそうだ。

 まず、料金プランとして注目なのは、KDDIとソフトバンクが定額制でありながら、「利用量に応じて、データ定額量が自動的に変動する」プランを投入してきた点だ。

 たとえばKDDIのU18データ定額20の場合、3GBまでなら月額3390円だが、その後は3G~4GBが月額4200円、4G~5GBが月額4900円、5G~20GBが月額5500円と階段状の料金プランになっているのだ。例えば3GBを使い切りそうになると事前に通知メールが届き、そこを超えた段階で次の料金に上がる設計になっている。

 これまでは2G/3G/5G/20G/30GBという区切りの中から、あらかじめ自分で使いそうなプランを選んで契約しておく必要があった。だが、翌月にどれだけ使うかを事前に正確に見積もるのは難しく、しかも月ごとにプランを変えるのは現実的ではない。そのため、ついつい多めのプランを選んでしまい使い切れない分については基本的に無駄になることが多かった(翌月まで繰り越せる場合もある)。といって、少なめのプランを選んで契約したデータ容量を使い切ってしまうと速度制限がかかって一気に使いづらくなり、仕方なく割高な追加データ分をチャージすることもあった。

発表会ではピコ太郎氏(右)と桐谷美玲氏(左)が壇上で一緒にY字型に手を上げて「ヤング割」をアピールした

 だが、U18データ定額20ならば、メールが来た時点で残りの日数を考えて節約しつつ3GBや4GBに何とか抑えるという使い方もできるし、あきらめて月額5500円を払う覚悟で20GBを目いっぱい使うという選択が可能だ。「失敗した」と後悔する危険性が少なくなるという意味で、歓迎するユーザーは多いだろう。

 筆者が注目したいのは、この「事前にメールで知らせる」というサービスが2017年8月以降の提供予定となっている点だ。学割向けとなっている割には対応時期が8月というのは遅すぎる。ひょっとすると、新型iPhoneが毎年発売される9月のタイミングで、学生だけに限定せず、すべてのユーザー向けに、この新しい段階式の定額料金体系が解放される可能性もありそうだ。

端末競争、ついに終息へ

 今後を占う意味で、もう一つ注目なのは新端末のラインアップだ。これまで、さんざん各社で繰り広げてきた端末での競争が、いよいよ終息に向かい始めたことが感じられるからだ。

ワイモバイルは好評だった「アンドロイドワン」搭載スマホを新たに2機種投入する

 KDDIはiPhoneとの競合を避け主婦向けや子供向けの製品をそろえてきた。一方、ワイモバイルはキャリアやメーカーの余計なアプリを一切入れない、米グーグルが提供した素のAndroid(アンドロイド)といえる「アンドロイドワン」を搭載する端末をシャープと京セラの2社から出す。

 この背景には、昨年に提供したシャープ製のアンドロイドワン端末が予想以上に好評だったことがある。「ユーザーからの満足度も82%とかなり高い。他社からの乗り換えユーザーからも好評」(寺尾氏)ということで、今回のラインアップ拡充となったようだ。

 オリジナルのアプリを入れられないと端末としての特徴を出すのが難しくなるため、メーカーにとって歓迎しないスタンスをこれまでずっと取ってきた。だが、オリジナルのアプリを入れて個性を出したとしても「1~2年後にアンドロイドがアップデートされた際に、アプリも含めてアップデートするための費用は誰が負担をするのかという問題になり、キャリアとメーカーの押し付け合いになる」(キャリア関係者)のが現実だ。

 進化がいきつくところまで達しつつあるスマホでは、いくら頑張っても飛び抜けた特徴を打ち出しづらくなっている。それならば、将来的に手間とコストがかかる危険を回避し、オリジナルのアプリは極力入れないシンプルなスマホを割り切って投入した方がいい、と考え始めたわけだ。メーカーの個性を出さない「素のアンドロイド」端末であれば、実際に売るショップとしても「シャープだろうが京セラだろうが、操作性は一緒なので、説明しやすく手離れがよくて売りやすい」ことになる。

 OSの開発元であるグーグルとしても、いろんなメーカーから個性を出したスマホが大量に提供されたことで「同じアンドロイドでもメーカーが違うと操作性が違って使いにくい」というユーザーの声を問題視してきた。グーグルとしては、各メーカーにできるだけ操作性で個性を出さない方向性を望んでいる節もあり、アンドロイドワンというブランドが日本で普及するのを後押ししたいのだろう。

ワイモバイルの発表会には米グーグルでアンドロイドを担当するジェイミー・ローゼンバーグ副社長(右)も参加しアンドロイドワンをアピールした

 スマホ市場の拡大期には大量ラインアップを投入してきたキャリアとしても、成長がますます鈍化する可能性が高いことを考えれば、端末ラインアップはできるだけ絞った方が効率がよい。メーカーとしては苦しい立場に追いやられるが、キャリアやグーグル、販売店にとってアンドロイドワンはとても扱いやすい製品といえる。

 将来的には、ブランド力がなく、ユーザーターゲットを絞れず個性も乏しいメーカーのスマホは、すべてアンドロイドワンに集約されてしまう可能性もありそうだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで趣味どきっ!「はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

[日経電子版2017年1月19日付]

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