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[ career-働き方 ]

曽和利光の就活相談室「なぜウチを志望したの」
面接官が聞く真の理由

authored by 曽和利光
曽和利光の就活相談室 「なぜウチを志望したの」 <br />面接官が聞く真の理由

 就活生の皆さん、こんにちは。人材研究所(東京・港)の曽和利光です。日経電子版の「就活相談室」の模擬面接に、引き続き何件もの参加応募をいただいています。今回はその中から、新たに3人の就活生に集まってもらいました。前回の「学生時代に力を入れたこと」すなわち「ガクチカ」の次によく聞かれる、「なぜその業界を志望するのですか?」という、いわゆる「志望動機」について3人に投げかけてみます。さて、どんな答えが返ってくるでしょうか。

今回の参加者
▽神尾慶子さん(学習院大学経済学部3年)
▽川口隼人さん(東海大学観光学部3年)
▽木下いづみさん(立教大学経済学部3年)

「仕事を選ぶ基準」を尋ねる意味とは

――あなたが志望する業界と、その理由を教えてください。

神尾さん はい。私は建設資材業界、その中でも特にトイレタリー業界を目指しています。昨年、TOTOさんが「2020年までに、排便時の臭いから腸内環境を測定し、データ化する」という発表をしていたのを聞いて、そうした取り組みで生活の質を向上させたいと思って志望しました。

「学生時代に力を入れたこと」と同じぐらいよく聞かれる質問が「なぜ志望したの?」だ(模擬面接をする曽和さん)

――川口さんはどうですか?

川口さん 私は旅行会社など、観光関連の業界を志望しています。幼い頃から、祖父に旅行に連れていってもらう機会が多く、これまで44の都道府県を訪れ、旅の魅力を味わってきました。この経験をもとに、今度は働く立場として、そうした魅力を伝えていきたいと考えています。

曽和 なるほど。同じように受け答えをしているようでも、評価のはっきり分かれる2人の回答です。どこがどう違うのか、詳しく見てみましょう。まず踏まえておいてほしいポイントは、この「なぜ選んだのですか?」という質問の本当の意味が何か、です。一見して、「どれほどしっかり業界研究をした上で選んでいるのか」ということを問うているようですが、実はまったく違います。

 そもそも、学生の立場でどこまで深く業界のことを研究できるでしょう。もちろん、頑張って研究すれば、会社選びの役に立ちます。それでも、面接官としては、学生の業界研究なんて似たり寄ったり、大して深いものではない、と考えます。むしろ何を尋ねたいかというと、「この仕事に興味を持ったのは、これまでの人生でどんな経験をしてきたからなのですか」つまりは「あなたはどんな人物ですか」ということなのです。前回の「ガクチカ」もそうですが、面接におけるすべての問いは、この質問の変形です。

 その点でいうと、川口さんの答えは悪くありません。自分の人生経験を、うまく志望動機に結びつけていますね。一方、神尾さんは理屈を駆使して説明してくれました。でも、TOTOの話をされても、へえー、すごい取り組みだなあ、と思うだけで、神尾さん自身の人物像はまったく伝わってきません。自分がどんな出来事に直面したときに、どんなことを感じ、どのように考える人間なのか、志望動機に織り交ぜて語れるようにしておいてください。

「what」だけでなく「why」を答えよう

――木下さんはどんな業界を目指していますか?

木下さん えーと、まずひとつには化粧品や医薬品のメーカーを考えています。

――志望理由を教えてください。

木下さん 百貨店の薬局でアルバイトをしているのですが、お客さんがきれいになるために化粧品を買うということをすてきだなと感じ、仕事でも化粧品に関わりたいと思うようになりました。大学に進学して自分で化粧をするようになり、自分の顔が変わるという楽しさを知ったことが、化粧品への興味の根本にあります。

曽和 志望動機について答えるときに、踏まえておくべき考え方をここで整理しておきましょう。私はよく、興味を持ったのは何に対してなのかという「what」と、なぜなのかの「why」という2つの考え方に分けて説明しています。この「what」しか語らない就活生は、残念なことに少なくありません。面接官が、「なぜ、そのwhatを好きになったのか」を教えてほしいと考えているにもかかわらず、です。

なぜ就職したいと思ったのか。理屈ではなく、経験で語ろう

 木下さんの場合、化粧をすればきれいになれるというのは、いわば当たり前のwhatです。化粧で顔が変わるのが好きです、といっても、女子学生がみんな化粧品会社を志望するわけではありませんよね。木下さんが「なぜ」そのwhatに着目し、「就職したい」という思いにまで至ったのか、理屈ではなく経験に基づいて教えてほしかったところです。

長く続けた経験から「why」が湧き出す

――続けていきましょう。神尾さんがトイレタリーに興味を持つようになったのはなぜですか?

神尾さん 「技術開発と経済発展」というテーマの大学の講義で、外部講師の方にお話しいただく機会があったのですが、そこで「これからの医療産業では、トイレに座っただけでその日の健康状態がわかるようになる」と聞いて、非常に興味をそそられたのがきっかけです。

曽和 ここで神尾さんが説明してくれたのは、トイレに興味を持ったきっかけにすぎません。木下さんと同様に、まさか講義を受講した学生全員がトイレタリー業界を志望するようになったわけではないですよね。それならば、そのきっかけから志望までの間に、神尾さんならではの理由があるはずです。whatだけでなくwhyも。そのwhyは理屈ではなく経験から語る。さらにその経験の中でも、その業界に着目したきっかけではなく、志望に至った「真の原因」を見極めて、答えに盛り込むように心がけてください。

 この真の原因は、自分が長い間続けてきた習慣や接してきた物事の中に潜んでいることが多いものです。人間の行動や思考のパターンは、長期の取り組みからしか生まれないというのが、面接官の感覚です。例えば「祖母の介護食をつくる手伝いをこの4年間続けています。若い頃のように何でもおいしく食べたいと嘆く祖母の姿から、食が人間の生活の質に与える影響を痛感しました。多くの人の食生活を豊かにする役に立ちたいと思い、食品業界を志望しています」などと答えれば、「なるほどね」と納得できます。逆に、きっかけという一瞬の出来事をもって志望動機を語られても、眉につばを付けたくなってしまいます。

 もしかすると、真の原因は親御さんの職業に関係しているかもしれません。皆さんが物心ついてから、いちばん長い間、いちばん近くで見てきている職業人は親御さんでしょう。ただ、親の職業という、就活生本人にはどうしようもないことに基づく差別につながる恐れがあるので、面接官は知りたくても尋ねてはいけないことになっています。真の原因がそこにあるなら、皆さんから「親の働く姿を見ていて、こういうところからこんな影響を受けた」と積極的に説明しましょう。

「どこまで思い入れがあるか」も試される

――木下さんは化粧が楽しいということですけど、ずいぶん詳しくなったんでしょうね。どれぐらい詳しいか、説明してもらえますか?

木下さん 口コミや売れ筋情報の載っているウェブサイトをみて、薬局のお客さんに聞かれたことに答えられるようにしています。口紅といったら今はこれがトレンドだよね、とか、この化粧下地が人気、とか、自分が気になったときに調べています。

――なるほど。川口さんは旅に魅力を感じるということでしたが、どんなところが魅力ですか?

川口さん えっと、ひとことでいうと非日常性にあると思います。普段の生活とは違った体験であったり、出会いであったりが、旅の魅力であると思います。

――実際に何度も旅を重ねることで、ご自身が何か影響を受けたようなことはあるんでしょうか?

川口さん そうですね......物事を比較する視点が得られたと思います。旅行先でも、Aという観光地とBの観光地では魅力がまったく異なります。そうした視点が普段の生活にも生きてくるようになったと思います。

曽和 志望動機を尋ねる目的はもう一つあります。「好きこそものの上手なれ」というように、その人が本当に好きなことにまつわる仕事なら、今は実力不足でも必死に努力して、将来活躍しそうですよね。そこで、入社後につらい仕事をどこまで頑張れるかを推し量るために、化粧なり旅行なりといった動機に「どこまでしっかりとした思い入れがあるか」を試すのです。

 面接官がこの思い入れを確かめる物差しは3つあります。1つ目は、その化粧なり旅行なりについてどこまで詳しく語れるか。2つ目は、どこまで実際に行動しているか。旅行だったら年に1回や2回ではなく、家に居着く暇もなく全国津々浦々を巡っている、といった具合です。そして3つ目は、それを好きになった「真の原因」にどこまで説得力があるか、です。

 面接官としては、何か行動する上で必要なエネルギーをできるだけ多く持っている人に入社してほしいものです。そこで、好きなことに費やしているエネルギーの量から、その人の持っているエネルギーの総量を知ろうとするわけです。好きなことには、普通は全力で取り組むものだからです。そこで、「え、それだけ?」となると内心がっかりします。

 木下さんにも川口さんにも、化粧や旅行のどこにどんな思い入れがあるのか、もっと具体的に詳しく説明してほしかったですね。今回答えてくれた程度では、「なんだ、それほど好きじゃないんだな」と思われてしまいます。うまく語れなければ、具体的な志望へのこだわりから一歩引いて、どんな仕事をしたいのか再検討してみることをお勧めします。例えば木下さんなら、本当は「変身を手伝う仕事」に魅力を感じるのかもしれません。キャリアカウンセラーであったり、インテリアコーディネーターであったり、今までは考えもしなかった進路が見つかるかもしれませんよ。

 さて、今回のテーマからも、就活生の踏まえておくべき教訓を得られました。志望動機については、(1)「どんな人物か」を伝える(2)経験の中の「真の原因」を「why」に盛り込む(3)思い入れを具体的に詳しく説明する――この3つのポイントを忘れないようにしましょう。
[日経電子版2017年2月8日付]

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