日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

マジシャン大学生(19)4Fでのパフォーマンスを経て
~コンテストに対するけじめ

森屋志政 authored by 森屋志政早稲田大学大学院
マジシャン大学生(19) 4Fでのパフォーマンスを経て~コンテストに対するけじめ

 完全招待制の舞台F.F.F.Fへの出演を経験し、私の中では一定の満足感がありました。これまでマジックを辞めたくなることもあったけれども、それでもやっぱりマジックが好きで、舞台という場に立つことが好きで、続けてきました。その結果、5年という歳月こそかかったものの、憧れの舞台に立ち、そこで自分が最も大切にしている演技を披露し、スタンディングオベーションを得ることができ、なんとなく自分の中でこれがゴールなんじゃないかという気持ちがしていました。

手品以外への領域への興味

 「ここまで手品を真面目に続けてきたのなら、なぜプロマジシャンにならないのか」と、よく質問をされることがあります。ただ、私は中学生からずっとマジックを続けてきて、一度も商業プロマジシャンにはなろうと決意したことはありませんでした。理由はいたってシンプルで、「自分が突き詰めたい手品(=自分が表現したい世界観)をとことん追求したいから」でした。

 商業プロともなると、手品が上手いだけでは成功しません。手品はあくまでも商売道具であり、プロとして成功している方を見ていて感じるのは、いかに自分のキャラクターを理解し、自分のファンを築き上げるかという点について、とことんこだわり抜いていることでした。

 手品師をはじめ、芸を行う人間というのは、観客なしには価値を発揮することはできません。いくら自分のやりたいことだからといって、観客が望むものを提供できない限り、その人の演目を見たいという支持者はついて来ることがありません。

 手品で食べていこうとするならば、自分のキャラクターとそこに紐づいた演技スタイルを作った上で、まずは演技をする場を獲得する必要があります。それがレストランなのか、バーなのか、ホテルなのかはそれぞれ異なりますが、自分を売り込み、仕事を獲得し、獲得した仕事の中で必死に演技をしながら地道にファンを増やす、そうした着実な努力無しにはおそらく成功しないと思っていました。

アジアンガラショーのメンバー(一部)と共に。凄腕の精鋭揃いでした

 もちろん、そうした着実な努力をすること自体に対して、私自身はなんら抵抗はないものの、問題は「売り込む」という点でした。自分を売り込むのに際して、例えば観客ウケがしやすい王道の手品を面白おかしく演じることで観客との距離を縮めていこうという戦略をとる演者もいれば、若さやフレッシュさ・カッコ良さを売りにする演者もいます。こうした売り込み、というのがどうしても私にとっては苦手というか、本来やりたいこととの乖離を感じる点でした。

 売れるためならどんな演目でもやる、観客に好かれるためならいろんなことをやる、そんなスタンスが自分に合うのか。正直言って苦しいな、と思いました。自分は手品歴が今年で15年と長く、それ以外の分野(ステージマジック等)も経験し、一定演じることはできるものの、基本的にカードマジックにエッジを効かせてきたため、カードマジック以外はウリにするほどではありませんでした。むしろ、いろんな演目を経験してはきたものの、自分にとってしっくり来るものがカードマジックしか無かったという言い方の方が正しいかもしれません。

 だからこそ、トランプ一組でどこまで不思議で、素敵な世界が表現できるのだろうという点のみにフォーカスしてきました。そうしたこともあって、プロとして演目の幅も、キャラクターの幅もあるようなマルチにこなせる演者を目指すことよりも、演目の幅は狭いしキャラクターも固定されているけれどこの人にしか表現できない演目を持つ演者を目指そうという選択は自分にとって何も不思議なことではありませんでした。

 こうした事情もあって、お店に出演したりすることなく、マジックの舞台・大会のみに絞って活動してきました。そして一定の成果と手応えを得たことから、そろそろ次のことを始めてみようかなという気持ちが沸き起こっていました。

 もともとマジシャン活動の傍ら、企業のインターンシップに参加して、全くの畑違いの人と共に議論を進めるということを楽しいと思えた私は、就職活動を通してなるべく多くの人と出会い、話し、最終的に手品と同じくらい熱中できる進路を見つけようと考えました。そうした就職活動の結果、最終的にコンサルタントという業種に進路を決めたのでした。

自分の中でコンテストへのけじめをつけようと最後の挑戦へ

 ちょうど就職活動も終盤戦に入った頃のことでした。4Fから来年も出演しないか?という招待メールが私の元へ届きました。まさか2年連続で出演できることになるなんて!ちょうど進路も決まり、落ち着いた頃だったので久しぶりに手品へ戻り、演技の練習をしました。

2度目の4Fでのパフォーマンス。昨年よりも落ち着いて演じることができました

 この時、ちょうど同じタイミングで台湾の友人からあるマジックの国際コンベンションへ誘われていたのを思い出しました。それがTMA(Taiwan Magic Association)という大会でした。簡単に触れておきますと、毎年台湾で開催されるこの国際コンベンションは極めてレベルが高いコンベンションであると知られています。昨今の世界大会ではアジア人の受賞者が急増しているのですが、その多くはこのTMAを登竜門としてクリアしているマジシャンでした。

 思い返してみれば、私はFISM ASIAという大会で結果的に敗れ、アジア大会で敗北を経験しました。しかし、縁に恵まれ4Fという憧れの舞台への招待を受け、スタンディングオベーションを獲得。十分すぎるほど恵まれた経験をしているものの、心のどこかで、まだコンテストへの想いを捨てきれていない部分がありました。

 なんとかもう一度、コンテストに挑戦して勝ちたい。しかし、残された学生生活はあと1年。もう一度世界大会へ挑戦するには時間が足りないし、どうしたものか。そこで舞い降りてきたのがTMAという世界有数の国際コンベンションへの参加でした。

 自分のコンテストへの想いにけじめをつけるタイミングは、就職活動を終えた今しかない!そう思い立ち、4月の4Fの後、5月に開催されるTMAへのエントリーを決意しました。映像審査という形での予選は無事クリアし、本戦への出場権を獲得した私はこれが本当に自分にとって最後のコンテストだ、という覚悟の下で練習に励みました。

この年はショーのトリを務めさせていただけました

いざ最後の大会へ!

 5月の台湾は想像していた以上に暑く、蒸した気候でした。日本でいうと、ちょうど8月の真夏の頃を彷彿とさせる気候で、日本から持ってきた紙製のトランプが湿気でコンディションが崩れてしまうほどでした。コンテストの参加者はアジア諸国を中心として遠方からはスペインのマジシャンも参加していました。

 そして、会場や飲み会の場で交流する機会があり、そこでお互いに手品を披露し合いました。こうした、お互いの技を披露するという機会がマジックの世界ではよく見られる光景で、その手練れを見ながら心の中で力量を測っていたりします。

 この時のメンバーといったら商業プロとして海外で活躍するマジシャンから、まだ高校生(!)だと話す凄腕マジシャンまで、ツワモノ揃いでした。このメンバーの中で、1位にならなくちゃいけない。そう考えると、いてもたってもいられず、早めにホテルの自室へ戻ってひたすら演技の練習を繰り返しました。本当に本番の直前まで、手順の構成に悩んだほどです。

 突飛な技を封印して、あくまでも失敗するリスクを最小限にした安定感のある演技で手堅く戦うべきか。それとも、この時のために温存していた技を取り入れて、難易度は跳ね上がるもののエッジが効いた構成で戦うか。音楽に合わせた演技スタイルの私にとって、本番でミスが起きて淀んでしまうのは大幅な減点対象となる危険性がありました。

 おそらくこのメンバーでは、上位層は接戦になる。1点でも順位がひっくり返る可能性がある。そんな中でハイリスクハイリターンを取るか、ローリスクローリターンを取るか。同じ部屋に泊まっていた私の友人にも相談をしましたが、最後に決断をするのは自分。悩み抜いた末、私は自分の技を信じて前者の手順で本番を迎えることを決意しました。

コンベンションのポスターデザイン。中央のマジシャンの顔が描かれていないのは、この舞台に立つのは参加者のあなたである、という意味がこめられています