自己PRがまとまらない人へ 判断の「軸」を整理しよう
やる気スイッチを入れよう(24)
多くの企業が、新卒採用に向けて会社説明会をスタートさせました。就職活動が本格的に始まったと言えます。
今回は、就活に必要な「自己分析」について考えてみましょう。自分の「軸」を見つけると、就活だけでなく、他の活動においても、自分らしい判断ができるようになります。
どんな職場か、自分は誰か、そして相性はどうか
就職活動でやるべきことは、大きく3つの分野に分かれます。
第1は、就職先である企業や団体を理解すること、いわゆる企業研究です。第2に、自己分析です。自分はいったい何がしたいのか、強みは何かなどを理解し、人に説明できるようにすることです。第3に、就職先と自分との相性を検討することです。
この3つは、互いに影響し合っています。会社について調べるうちに、自分のことがわかってきたり、自分のことがわかってくると、会社との相性が見えてきたりきます。ただ、3つを分けて考え、きちんとやっておくことが大事です。
判断の「軸」
ここでは、自己分析について考えてみましょう。自分について知っておくことは、就職活動に限らず、有意義な人生を送るために役に立ちます。
特に重要なのは、自分が物事をどのような基準で評価したり選んだりしているのか、という判断の「軸」を知ることです。「軸」は、価値観とも言い換えられます。大切にしていることや目指していることです。
就職活動では、自分の将来を決定づけるような大きな判断が求められます。判断「軸」が必要です。また、企業の採用担当者にとっても、採用する学生の「軸」は知っておきたい重要事項の1つです。
しかし、「軸」を言語化することは、簡単ではありません。自分が日々、当たり前のこととして、その「軸」に従っているため、存在に気づかないのです。
感情が揺り動かされたできごと
「軸」に気づくのは、「軸」を揺るがすようなことが起きた時です。これまでに、感情が強く揺り動かされたときのことを思い出してみてください。強く感動したり、喜びを感じたり、逆に腹が立ったり、悲しかったりという場面です。それは、あなたが大切にしていることに、強く関係している可能性があります。
大学3年生のKさん(女性)は、大学の先輩の、とあるコメントに、非常に腹が立ったと言います。その先輩は、男尊女卑を肯定するという主旨の発言をしたのだそうです。もしかすると、何かが「軸」に触れたのかもしれません。Kさんの「軸」は何なのでしょうか。単純に考えると、「男尊女卑」に対する「男女平等」が思い浮かびます。
Kさんに、なぜ腹が立ったのかを聞いてみました。すると、次の答えが返ってきました。
「男尊女卑は、もはや変過ぎて、スルーできるレベルでした。それに腹が立ったわけではないと思います」
では、何にムカッとしたのでしょう。
「ある一つの考え方を、疑うことなく信じ切って、それによって傷つく人がいることに気が付かない様子に、腹が立ちました」
Kさんのこの言葉には、「軸」と思われる示唆が、少なくとも2つ含まれています。まず、疑うことなく信じてしまう視野の狭さへの反発があります。次に、「傷つく人がいる」という言葉から、弱い立場にいる人への配慮がうかがわれます。
自分に問いかけてみる
この2つをKさんに伝えたところ、Kさんは少し考えた後、次のように語りました。
「弱い立場の人への関心は、思い当たることがあります。大学での貧困層に関する授業に、すごく興味をひかれました。彼らが厳しい環境で、たくましく賢く生きるエネルギーがすごいと思ったんです」
「視野の狭さに対して反発する、というのも、確かにあると思います。私は、複数の言語を学んでいるのですが、その学習の中で、国によって文化や価値観が違うことを実感しています。正しさも、国によって違うんです」
Kさんは、キーワードを紙に書いて整理し、自分の「軸」を言語化していきました。
二つの「軸」
「軸」の1つは、「普通の暮らしを大切にしたい」というものでした。Kさんは、人間がたくましさや賢さを持っていること、それを活用して、日々の暮らしを充実させることに価値を感じているのです。「自分の倹約ぐせも、この軸ら来ているんだとわかりました」と、Kさんは笑い、いくつかの具体的なエピソードも話してくれました。
これを仕事に当てはめると、例えば、生活消費財のメーカーでの営業や商品開発、あるいは、暮らしを支えるエネルギー資源の仕事などにやりがいを持って当たれそうです。
もう1つの「軸」が、「いろいろな価値観や文化を皆が認め合って、新しい文化を創っていくこと」でした。国や年代によって価値観がや文化が異なることを、多くの人が理解し、いいところを認め合って交流をすれば、新しい文化が生まれるはず、とKさんは言います。高校の時に体験した短期留学で、そのことを身を持って体験したという話もしてくれました。
この「軸」を、仕事に当てはめるとしたら、例えば、複数の国に拠点を持つ企業で、新しい事業を作り出す、という仕事に意欲を感じるかもしれません。あるいは、この「軸」をもっと広くとらえると、「人と人を交流させる仕事」全般にやりがいを感じるのかもしれません。
キーワードで整理する
Kさんは、腹が立ったという、一見ネガティブなできごとから、「軸」を言語化しました。怒り、悲しみ、不安などのネガティブな感情の裏には、「大切にしていること」が隠されています。こういう感情を持った時に、「なぜ腹が立ったんだろう」「なぜ悲しかったんだろう」と、考えてみましょう。
キーワードを紙に書き出すと、考えやすいです。Kさんのケースでは、「弱い立場の人」、「たくましく賢く」、「国や年代によって正しさは違う」などのキーワードが書き出されました。
そして、ネガティブな感情を、ポジティブな方向に変えましょう。例えば、「自分が正しいと思い込むのは、よくない」というネガティブな感情を持ったとしたら、「では、どういう状態が、よいのだろう」と自分に問いかけてみます。すると、「いろいろな価値観や文化があることを、皆が認め合う」というイメージが浮かんできます。これが、ネガティブな感情の後ろにある大切にしたいことです。
もちろん、感動したこと、喜びを感じたことを分析して、「軸」を言語化することもできます。その際も、なぜ感動したのか、なぜ喜びを感じたのかを、自分に問いかけ、キーワードで言語化し、整理してみるといいと思います。
自分の「軸」を明確にしておくと、就職活動で、どのような企業に応募すべきか、どのような仕事をしたいのかという判断が的確にできるようになります。また、エントリーシートを書くときや、面接のときにも、ぶれない「軸」を基にして、話をすることができます。
ふだんの生活でも、「軸」があれば、まわりの意見に流されなくなります。やるべきことがはっきりし、就活にも学習にもやる気スイッチも入ります。
自分らしいやる気を持って、就職活動に取り組み、納得できる大学生生活を送りましょう。
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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