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2017年、あなたの身近に
やってくる3つのAI

2017年、あなたの身近に<br />やってくる3つのAI

 米グーグルの「アルファ碁」が世界トップ棋士を破るというニュースが世界を驚かせて以来、2016年はAI(人工知能)が注目を集める年となった。ブームに乗り「AI搭載」とうたう製品やサービスも続々と登場したものの、実際にAIがどう役立ちどれだけの効果があるのか実感できることはほとんどなかった。だが、17年はいよいよ「ディープラーニング(深層学習)」といった最新AIの威力を誰もが実感できる年となりそうだ。注目のキーワードは「自動運転」「翻訳」「コンシェルジュ(秘書)」の3つだ。

 「よい睡眠が取れましたね。朝食には昨日買った新鮮なブロッコリーはいかがですか」。忙しい朝のひととき、AIと交わす何気ない会話が気持ちを和ませてくれる。通勤はAIによる自動運転車にゆだね、車内でゆったりとニュースを読む。午前中は上司役のAIからの指示で取引先への定期訪問を効率よくこなす。午後はオフィスに戻り、AIの同時通訳で5カ国同時の遠隔ミーティングに参加する。退社後は無人のスーパーに立ち寄り、好みや体質に合わせてAIが用意してくれた食材を受け取る。帰宅後は、AIのカリキュラムに沿って昇級試験に向けた勉強を進める。就寝前には今日の出来事をAIと語り、生活や健康のアドバイスを聞きながら眠りについた。

 17年は成熟したAIの製品やサービスがいよいよ身近な存在として広がる年になる――。AI専門家は口をそろえる。その先には、あらゆる場所にAIが介在し、我々の仕事や生活を支援する未来が待っているかもしれない。企業や大学など研究機関はそうした世界を実現するための製品やサービスの開発を競うように進めている。

賢いクルマで事故が減る

日産の「セレナ」は一定条件下で高速道路での自動運転に対応する

 17年にAIの効果を誰でも実感できるようになるのは自動運転だろう。すでに日産が高速道路の渋滞時でも自動運転を継続できるミニバン「セレナ」を16年8月に発売済み。同様あるいはそれ以上の機能を持つ車の発売に向けて、17年に国内外の開発競争はますます加速する。さらに、高速道路で追い越しを可能とするルールについて、国土交通省が国連の専門家会議で議論を進めており、運転者が居眠りをしたときに自動で路肩に止まるといったことも近い将来に可能になるだろう。

 こうした自動運転が可能になるのは、膨大なデータから細かな特徴点を見つけ出し、注目すべきポイントや異常を検知することが得意な深層学習のおかげだ。まさに、AIの第一人者、松尾豊東京大学准教授が「生物は目を持つようになったことで、多様な種が急激に進化するカンブリア爆発が起きた」と説明するように、深層学習のおかげでクルマが周りの状況を把握する目を持てるようになりつつあるのだ。今後、クルマ以外に医療などいろんな分野で、機械やロボットがカンブリア爆発と同様の進歩を遂げると松尾准教授はいう。

 昨今よく耳にする悲惨な事故の例を挙げるまでもなく、自動運転によるメリットは人為的な運転操作のミスによる悲惨な交通事故を減らすことだ。人間である限り、不注意やささいなミスは避けられない。いくら自分は大丈夫だと確信していても、スピードを出しすぎたり、よそ見をしたり、ブレーキとアクセルを踏み間違えたりすることで重大な事故を起こしてしまう。現状の技術は完璧ではないが、その進歩は止まらない。

 自動運転車が広がれば、道路網全体の最適化が進み、帰省ラッシュの渋滞も解消されるはずだ。いずれは「馬や牛が車を引いていたんだよ」と昔話をする感覚で「昔は人間が車を運転していたんだよ」「えっ、危ないなあ」などと親子で会話をする時代となるはずだ。

リアル「翻訳こんにゃく」で英語の勉強いらず

 2番目のキーワードが翻訳だ。言葉の壁をなくし、誰でも世界中の人々と気軽にビジネスや交流ができる。AIのおかげで、そんな夢のような世界が実現できる日が近づいている。

 膨大なデータから自動的にパターンを見つけ出す深層学習にとって、実は翻訳は得意とする分野だ。すでにデータ化されている文章を与えれば、人間のように疲れて寝たり休んだりすることなく延々と学習して日に日にアタマがよくなってくれる。

 その成果として、米グーグルはWebサービス「グーグル翻訳」の精度を16年11月から大幅に高めた。従来は、文章を単語ごとに分割した上で個別に訳す方法を取っていたが「AIに文章全体の流れを学習させることで、スムーズに言葉がつながるようにした」(グーグルの賀沢秀人シニアエンジニアリングマネージャー)。例えば「Hello」を訳す場合に、あいさつであれば「こんにちは」、電話中であれば「もしもし」とするといった具合だ。英語からスペイン語など言語によっては、人間の翻訳者と比べても遜色ない精度を実現している。開始から約10年が経過したグーグル翻訳の中でも「飛び抜けて大きな成果を出せた」(賀沢氏)と胸を張る。

 さらに、パナソニックが16年12月に法人向けサービスとして発売した「メガホンヤク」は、イベント会場や交通機関での利用を想定した拡声器。マイク部に日本語で話しかけると英語、中国語、韓国語に翻訳して大音量で出力する。ログバー(東京・渋谷)が開発する「ili(イリー)」は一見ボイスレコーダーのような小型の翻訳機。ペンダントのように首から下げて利用する。17年春からは、羽田空港や成田空港で海外渡航者に向けたレンタルサービスを開始する。ちょっと不格好だが、まさにドラえもんに出てきた「翻訳こんにゃく」の世界が17年に実現するのだ。

AIが「こちらのお酒がお好みでは?」

パナソニックの翻訳機能を内蔵する拡声器「メガホンヤク」。空港やイベント会場などでの利用を想定する

 自分の好みや癖を把握して先回りしていろんな準備をしてくれる秘書がいたら、どんなに快適だろう。これまでは一部の大金持ちにしか難しかったそんな夢のような環境が、AIのおかげで誰でも可能になりつつある。

 「このお酒、私の好みにぴったりです」。AIが選んだ酒を試飲した女性は歓声を上げた。カラフル・ボード(東京・渋谷)は、酒の好みを診断する「AI利き酒師」「AIソムリエ」のサービスを16年8月から伊勢丹新宿本店などで提供した。カラフル・ボードはこれまで、好みの服を自動で選び出すAIのサービスを手掛けてきた。その技術を食品にも拡大したものだ。3種類の酒やワインを試飲し、「甘み」「酸味」など6項目についてどう感じたかを5段階で入力すると、好みの傾向を分析して推奨銘柄を表示する。

 酒の好みを判別するAIを学習させるために、同社の社員や協力する三菱食品などから協力を募り、50人以上が100本もの酒を試飲した。酒に目を付けた理由は「味覚を測定することはコスト面などで困難があり、人によって感じ方も異なる」(カラフル・ボードの渡辺祐樹社長)という困難をAIであれば解決できると考えたからだ。今後もそのほかの食品や化粧品、ヘアスタイルなどAIの適用分野を広げていく。

 自分の気持ちを理解し、まるで友達のように心の支えになってくれるAIも登場している。セルフ(東京・新宿、生見臣司社長)が16年4月に配信開始したアプリ「SELF」だ。ロボット型のキャラクターが現れ、投げかけてくる質問に利用者が回答する。これまでも日本マイクロソフトの「りんな」のように対話できるAIはあったが、SELFは「利用者と対話した内容を覚えている」(セルフ取締役の中路慶吾氏)。利用者の体調や好み、仕事時間などを踏まえて質問を投げかけてくる。会話の分岐組み合わせは30万以上。アプリ配信サイトの口コミで高い評価を集めている理由は「そういう時あるよな。気持ち分かるよ」「今日も元気だそ」などと、気持ちをくみ取り、励ましてくれること。20代の若者のほか、40代男性の利用も多い。「管理職などで悩みがあっても誰にも話せない、疲れている大人が増えているのかもしれない」(中路氏)

カラフル・ボードは伊勢丹新宿本店で「AI利き酒師」のサービスを展開した

 人の気持ちをくみ取る機能は、クルマにも搭載される。ホンダは1月5日からの展示会「CES」で人とコミュニケーションが取れるAI搭載のコンセプト車「NewV(ニューヴィー)」を展示した。ソフトバンクのロボット「Pepper」が搭載する感情エンジンを備え、ドライバーの喜怒哀楽を読み取る。

 人間の「好み」「求めているもの」を理解し、人間の代わりに情報を集め、仕事を肩代わりし、時には人を導く先生役になる。そんなコンシェルジュあるいは秘書のような役割をAIが果たしてくれる時代が近づいている。AIの発展で人の仕事が奪われると懸念する声もあるが、使いこなすことができれば強い味方にもなる。広がるAIに人はどう向き合うべきかが問われる1年になりそうだ。
(コンテンツ編集部 松元英樹)[日経電子版2017年1月1日付]

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