日本経済新聞 関連サイト

OK
[ liberal arts-大学生の常識 ]

雑誌の次はスポーツ見放題、
ドコモ「2番手」作戦

雑誌の次はスポーツ見放題、ドコモ「2番手」作戦

 NTTドコモは、月額980円(税別)でJリーグ全試合や海外サッカー、広島東洋カープ、横浜DeNAベイスターズ、F1など国内外のスポーツ中継を楽しめる「DAZN(ダ・ゾーン)フォー・ドコモ」を開始した。人気の雑誌読み放題サービス「dマガジン」に続き、大量のコンテンツと安い料金で昨年3月から同様のサービスを開始しているライバルのソフトバンクを一気に圧倒する戦略だ。

ドコモユーザーは4割超の値引き

 ダ・ゾーン・フォー・ドコモはJリーグ全試合や海外サッカー、広島東洋カープや横浜DeNAベイスターズといった日本のプロ野球、大リーグやプロフットボールNFLといった米プロスポーツ、F1などのモータースポーツ、テニス、ラグビー、バレーボール、卓球、バドミントン、自転車、さらには釣りやビリヤードなど実に幅広いラインアップをそろえ、国内外130種類以上、年6000試合以上が見放題となるスポーツ中継サービスだ。スマートフォンやタブレットだけでなく、パソコンやセットトップボックスを接続したテレビなどで幅広く視聴できる。NTTドコモでは「早急に100万契約を目指したい」(吉沢和弘社長)としている。

 ダ・ゾーンは英動画配信大手のパフォームグループが運営するスポーツ中継配信サービスだ。日本では、長年スカパー!が独占していたJリーグの中継権を10年間2100億円という高額な契約金で奪い取ったことで知られる。Jリーグ開幕前にサービスを始めることで、NTTドコモとダ・ゾーンは契約者の獲得に弾みをつけたい格好だ。

 ダ・ゾーンは、すでに日本国内において独自に昨年からサービスを開始していた。しかし、日本のメジャースポーツのサイクルでは中途半端な8月という時期から始めた影響か、顧客獲得に苦戦していた可能性が相当高い。世界中の様々なプロスポーツがネットで見られるのは魅力だが、月額1750円という値付けに対しては評価が分かれていたのも事実だ。

新サービスを発表するNTTドコモの吉沢和弘社長(右)とパフォーム日本法人のジェームズ・ラシュトンCEO(左)

 パフォーム日本法人のジェームズ・ラシュトン最高経営責任者(CEO)は「もともとの内容からすると1750円は魅力的なはずだ。世界的には9.99ドルから15ドル程度が一般的だが、ダ・ゾーンが展開するスイス、ドイツ、オーストリアは9.99ユーロだ」と語る。

 日本での月額1750円という値付けが「高すぎた」とダ・ゾーンが反省したのか、それともNTTドコモが「それでは高すぎる」と主張したのか、経緯は不明だがNTTドコモのメニューとして提供するに当たって「ドコモユーザーなら月額980円」という大盤振る舞いな料金設定で仕掛けてきた。

 配信されるコンテンツの内容などは、ドコモのサービスも既存のものもまったく一緒だ。それにもかかわらず、一般のユーザーは1750円と従来通りの料金なのに対し、ドコモユーザーなら980円と40%以上も安い770円の差をつけてきている。

ドコモ「持ち出しではない」

 気になるのが、この差額をはたして誰が負担しているのかという点だ。NTTドコモの吉沢和弘社長は「ダ・ゾーン・フォー・ドコモは我々が提供するサービス。980円の収入をNTTドコモとダ・ゾーンでシェアする。差額に対して何かするというわけではない」と、赤字覚悟でドコモが負担をかぶっているわけではないと語る。この言葉が正しければ、ダ・ゾーン側は1契約あたり980円以下でNTTドコモに納入し、NTTドコモはそれに対して利益を乗せていることになる。

ダ・ゾーン・フォー・ドコモを発表するNTTドコモの吉沢和弘社長

 ネット向けに単独でスポーツ中継を配信しているだけではユーザーを獲得するのは難しいと、ダ・ゾーンが判断した可能性もある。NTTドコモが販売元になれば、全国2400店舗以上のドコモショップで猛烈に営業してもらえるはずだ。もちろんテレビCMなどの広告で大量の露出が期待できる。NTTドコモはJリーグ大宮アルディージャのスポンサーでもあるので、スタジアムでの顧客獲得活動も可能だ。

 もともとダ・ゾーンは、Jリーグに加えてNTTグループと協業契約を締結しており、さらに「ダ・ゾーンから1年ほど前に一緒に何かできないかと打診を受けた」(NTTドコモ担当者)という。ダ・ゾーンとしては、サービスを開始してわずか半年で値下げをするわけにもいかず、表向き1750円という料金設定を残しつつ、NTTドコモの営業力を頼って980円という値付けを甘んじて受け入れたのだろう。

 ただし、ダ・ゾーンからNTTドコモ側に980円以上の値付けで契約されている可能性もゼロではない。その際はNTTドコモとしては、光回線のセット販売や、大容量のパケットパックを契約させることで元を取るという判断のはずだ。

ソフトバンクも即対抗

 ダ・ゾーン・フォー・ドコモが月額980円という"攻めた"料金を打ち出したことに対し、ライバルのソフトバンクも即座に動いた。同社のスポーツ配信サービスである「スポナビライブ」について、ソフトバンクとワイモバイルのユーザー向けは月額1500円から980円、他社ユーザー向けは月額3000円から1480円と大幅に料金を引き下げる改定を発表したのだ。

 スポナビライブは読売ジャイアンツと広島東洋カープを除くプロ野球10球団や大相撲、海外サッカー、ヨットのアメリカズカップ、国内バスケットボールのBリーグなどを配信する。こちらも昨年3月に始まったばかりのサービスだ。ダ・ゾーンというライバルが登場したことで、料金競争を繰り広げるのはユーザーとしては大歓迎だろう。

iPhone版の「ダ・ゾーン・フォー・ドコモ」アプリ

 しかし、こうしたスポーツ中継の動画配信サービスで最も重要なのは「自分が見たいものがそろっているか」だ。

 ダ・ゾーンは、今年からJリーグ全試合を配信するというのが強みだろう。一方、スポナビライブはプロ野球10球団の中継があるというのが魅力だ。ダ・ゾーンとしては、日本ではまだまだ根強い人気のあるプロ野球の中継を増やしたいはずだ。ラシュトンCEOも「今後も投資を続け、配信するスポーツの種類を増やしていきたい。そのなかには野球もあれば、五輪でしか見られないスポーツも含まれる」と語る。

 しかし、プロ野球のネット配信権に関しては「パ・リーグは一括で管理されているが、セ・リーグに関しては球団によって異なる」(関係者)。ソフトバンクがネット配信権を独占的に確保している球団もあれば、そうでないところもあるとされる。ダ・ゾーンとしては、様々なプラットフォームに配信権を提供している球団から配信権を取得しつつ、ソフトバンクが持つ独占配信権を切り崩して、1球団でも多くの配信権を獲得していかなければならない。

 とはいえ、Jリーグと10年間の放映権を2100億円で契約したように、ダ・ゾーンには豊富な資金力をもつ強みがある。プロスポーツを運営する球団は、もうかるところに放映権を売りたいと考えるのは当然なわけで、ダ・ゾーンが日本に参入したことで、プロ野球の配信権も高騰していく可能性がある。

「雑誌読み放題」の再来狙う

 かつて、アップルがiPadを発表した2010年に、ソフトバンクが雑誌読み放題サービス「ビューン」を投入して話題となったことがある。だが、NTTドコモが同様の雑誌読み放題サービス「dマガジン」で追随すると、読める雑誌の多さで後発ながら一気にユーザーを獲得し、今では346万契約(2016年12月末現在)の人気サービスとなった。dマガジンの登場により、ビューンの存在感はあっという間に薄れてしまったのだ。

 dマガジンに雑誌を配信する出版社関係者は「dマガジンは読者にページがめくられればめくられるだけ、出版社の収入が増える仕組み。最初は紙の雑誌の売り上げ減少を嫌って、dマガジンへの掲載を少なめにしていた雑誌もあったが、ページが多いほど、収入が増えるとあって、いまでは袋とじや別冊付録までdマガジンに掲載するようになった」と話す。

 ダ・ゾーンとNTTドコモは980円という挑戦的な値付けとドコモショップという営業力で、ユーザーを一気に増やし、収益を得つつ、配信権を提供する側ももうけさせることで、さらにコンテンツを増加させていくつもりだろう。そこにソフトバンクがどう抵抗していくか。

 スポーツの世界だけでなく、今シーズンは「NTTドコモ対ソフトバンク」というスポーツ配信プラットフォームの直接対決についても、その行方が楽しみといえそうだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで趣味どきっ!「はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

[日経電子版2017年2月10日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>