日本経済新聞 関連サイト

OK
[ liberal arts-大学生の常識 ]

横綱ってどう決まるの?

横綱ってどう決まるの?

 3月12日から大相撲の春場所が始まります。日本出身の横綱の誕生が話題になりましたが、そもそも横綱はどうやって決まるのでしょうか。イチ子お姉さんとからすけが話しています。

イチ子お姉さん 今年の大相撲初場所は盛り上がったわね。優勝を決めた稀勢(きせ)の里関には私も、思わず「ガンバレー」と声援(えん)を送っちゃった。

からすけ 特に千秋楽(せんしゅうらく)の一番は日本中が興奮したよね。日本出身の横綱(よこづな)誕生は久しぶりだって聞いたけど、そもそも横綱ってどんな仕組みで決まるの?

力量と品格 尊敬できるか

 イチ子 小結(こむすび)とか関脇(せきわけ)とか大関(おおぜき)とか、大相撲には実力に応じて力士の番付があるのは知っているよね。横綱はその頂点に位置する最高位の称(しょう)号なの。文字通り大相撲のトップ力士というわけね。

 からすけ なるほど、一番上なんだ。

 イチ子 横綱はもともと白い麻(あさ)で編んだ綱のこと。それを腰(こし)に締(し)めることを許された力士を横綱と呼んだのが始まりなんだって。横綱と、大関や関脇とでは実力の差があるのはもちろんだけど、それ以外にどんな違(ちが)いがあるか、からすけ、知ってる?

 からすけ うーん。そういえば、横綱に決まるまでに少し時間がかかったような気がするなあ。

 イチ子 そうだったね。大関は負け越(こ)しが2場所続くと陥(かん)落するけど、横綱は一度、その地位につくと下に落ちることはないの。横綱でなくなるのは、実力が落ちたなと自分で判断して引退する時だけなのよ。それが大きな違いね。横綱は相撲の技を極め、他の力士の尊敬を集める特別な存在だから、ふさわしい力量と品格を備えていなければいけないってわけね。だから、時間をかけてじっくりと選ぶわ。

弁護士や大学教授で議論

 からすけ 誰(だれ)が横綱を決めてるの?

 イチ子 横綱審(しん)議委員会(キーワード)っていう組織があるの。よく横審(よこしん)って呼ぶけど、この委員会が、横綱にふさわしい力士かどうかを話し合うのよ。まず日本相撲協会(キーワード)の理事長が、優秀な成績を残した力士を横綱にしていいか議論してほしいと、横審にお願いするの。それを受けて、横審のメンバーが議論し、推薦するかどうかを理事長に報告するのね。

<キーワード>
横綱審議委員会 日本相撲協会の諮問機関。優秀な成績を残した力士が横綱にふさわしいかどうかを審議し、答申する。現在のメンバーは9人。
日本相撲協会 相撲競技の指導、普及などを目的とする公益法人。年6回、本場所を開催する。

 からすけ へえ。

 イチ子 大関や関脇などは相撲協会の理事会で決めるけど、横綱だけは外部の人の意見を聞くのよ。それだけ重みがあって、社会的な影響力を持つ地位なんだね。今は弁護士や大学教授ら大相撲に理解のある人や有識者である9人が横審のメンバーになっているのよ。

 からすけ 稀勢の里関は初場所で優勝したから横綱になったの?

 イチ子 それだけじゃないわ。横審は内規で「2場所連続で優勝した大関を横綱に推薦(せん)する」と決めているの。ただし、3分の2の委員の賛成があれば、それに準ずる好成績を挙げた力士でも横綱に推薦するとしているわ。

 からすけ 準ずる?

 イチ子 稀勢の里は昨年の九州場所に3敗して優勝を逃(のが)したので、連続優勝ではないでしょ。それでも、横綱に推薦されたのは、昨年は幕内力士で最も多い年間69勝を上げたことを「それに準ずる好成績」と評価したからよ。

 からすけ そういえば稀勢の里関は大関が長かったよね。

 イチ子 2004年の新入幕から7年で大関に昇(しょう)進したわ。でもここから足踏(ぶ)みしたの。取組日程の前半は白星が続いても、終盤(ばん)に失速することが多くて、精神的に弱い面があると、よく指摘(てき)されたわ。

 からすけ チャンスはいくつもあったよね。

 イチ子 それでもあきらめずに何度も綱取りに挑(ちょう)戦して、ようやく手にした横綱だから本人もすごくうれしかっただろうね。横綱昇進を伝えに来た相撲協会の使者に、「横綱の名に恥(は)じぬよう、精進致(いた)します」と簡潔に答えていたけど、相撲の道に突(つ)き進む決意がにじみ出ているようだったわ。

 からすけ 僕が知っている横綱は外国出身ばかりだな。

 イチ子 日本出身の横綱は1998年に昇進した若乃花以来だから、19年ぶりになるの。からすけが生まれる前だから、知らないのも無理はないわね。若乃花の次の横綱は米国出身の武蔵(むさし)丸。その後はずっとモンゴル出身で、朝青龍(しょうりゅう)、白鵬(ほう)、日(はる)馬富士、鶴竜(かくりゅう)と続いてきたわ。横綱がいつから始まったか正確な記録はないんだけど、相撲協会によると稀勢の里は72代目になるみたいよ。

 からすけ 次は3月12日に始まる春場所。楽しみだね。

 イチ子 横綱が4人になるのは久しぶりのことよ。春場所は稀勢の里が横綱になって初めて本場所の土俵に上るとあって、前売り券が売り出し初日で完売したんだって。日本中が盛り上がるだろうね。私もふんどしを締め直して、応援(えん)するぞ。

呼吸合わせる「バランスの奇跡」

豊島岡女子学園中学高等学校の神谷正昌先生の話 大相撲は欧(おう)米公演も盛況(きょう)でした。競技に対してだけでなく、演出要素に欧米人が興味を持ったからでもあります。髷(まげ)を結い裸(はだか)にまわしを着けた力士、行司の装束、土俵、水引き幕がついた屋根といった舞(ぶ)台装置などに、日本文化の魅(み)力を感じたといいます。
 多くのスポーツ競技は審(しん)判ら第三者の合図で始まり、遅(おく)れたら選手の責任です。しかし相撲の立ち合いは互(たが)いの呼吸を合わせることで始まり、合わなければ待ったをすることができます。行司の「はっけよい残った」の掛(か)け声は開始の合図でなく、勝負として成立したことを確認しているにすぎません。昭和初期に相撲を観戦したフランスの詩人は、これに驚(おどろ)いて「バランスの奇跡(きせき)」と評しました。外国人にはこれが難しく、アマチュア相撲の国際試合では、蝶(ちょう)ネクタイに白手袋(ぶくろ)の審判の合図で、選手が試合を始めるようです。

[NIKKEIプラス1 2017年2月18日付、日経電子版から転載]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>