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経営者ブログ 星野リゾート代表福島観光、
風評被害に主体的に取り組むために

星野佳路 authored by 星野佳路星野リゾート代表
経営者ブログ 星野リゾート代表 福島観光、風評被害に主体的に取り組むために
星野リゾートのアルツ磐梯スキー場(福島県磐梯町)

 星野リゾートはスキー場のアルツ磐梯(福島県磐梯町)を運営しています。

 アルツ磐梯は2011年3月の東日本大震災とその後の福島第1原子力発電所の事故によって観光客が激減しました。それでも私は当初「風評被害は時間とともに弱まり、去っていくだろう」と考え12年以降、淡々と経営してきました。しかし、観光客はいつになっても戻りません。

「こちらは被害者」では前に進まない

 アルツ磐梯だけでなく、福島の観光は同じ状況です。例えば、インバウンド(訪日外国人客)は各地で増えていますが、福島は違います。東北全体の観光の復活からも取り残されています。

 海外には事故のあった原発が廃炉になる40年ほど先まで風評被害が続く見方もあるようです。福島の観光施設が成長する姿が見えないため、投資家も来てくれません。私は次第に「これは時間とともに簡単に去るものではない」と考えるようになりました。

 ではどうすべきか。風評被害という言葉には「こちらは被害者」という意識があり、それではうまくいかないと思います。むしろ、風評被害を自分にとって主体的な問題、自分自身にとっての問題だと位置づける必要があります。そのうえで風評被害があることも含めて、「では課題をどう解決するか」に取り組むべきです。

 アルツ磐梯はいったん経営破綻した施設であり、そこから星野リゾートが再生した経緯があります。現在の状況は私にとっては2回目の再生となります。いわば、再再生です。これまで難しい再生案件に何度も取り組んできたし、アルツ磐梯の再再生には本気で取り組みます。

 こうした考えから、星野リゾートは今シーズン、アルツ磐梯のスキー場としてのあり方をクリエーティブかつ大胆に変えています。

 アルツ磐梯のスキーヤーやスノーボーダーは震災後、東京など遠方からの顧客が減少。地元や近県の比率が上がっています。宿泊しない人が多く、「日帰りスキー場」といっていいと思います。

 日帰り客は何を基準にしてスキー場を選ぶのでしょうか。アルツ磐梯の運営をスタートして十数年。わかった基準の一つは雪です。スキー場である以上当たり前ですが、日帰り客は雪がどれくらいあるのかを気にしています。雪質を気にする人もいます。もう一つの基準はスキーやスノーボードを楽しむ当日の天気です。スキーヤーやスノーボーダーは吹雪のスキー場よりも天気のよいスキー場を選ぶのです。そして雪や天気が競合する施設と同じのときには、スキー場へのアクセスが基準になります。

 こうした基準のうち、雪や天気はスキー場としてはどうすることもできません。このため、選んでもらうためにできることは限られます。にもかかわらずアルツ磐梯では日帰りスキーヤーが差異化のポイントとしないことに対してさまざまな努力をしてきました。私は再再生に主体的に、本気で取り組むために、今シーズンからアルツ磐梯の取り組みを絞り込むことにしました。

 例えば、ゲレンデのレストランは従来、さまざまなメニューを提供していました。しかし、注文があるのはカレーライスとラーメンがほとんど。しかも、ほかのメニューは日帰りスキー場として選んでもらう理由になっていませんでした。

 そこで今シーズンはメニューをカレーライスとラーメンの2種類だけに変更しました。ただし、カレーやラーメンは男女で評価ポイントが違います。このため、それぞれに満足してもらうために男子向け、女子向けをつくりました。つまり、ゲレンデの全レストランのメニューは「男子カレー」「女子カレー」「男子ラーメン」「女子ラーメン」の4つ。メニューをシンプルにする分、質や満足度を高める形に切り替えました。その結果、運営効率が上がったほか、オペレーションの複雑さがなくなった分、アルバイトスタッフのサービスも向上しています。

黒字化し、次の投資につなげる

 オペレーションも日ごとに変える形に切り替えました。実はスキー場の場合、曜日や月日ごとのデータに3日前からは天気予報のデータも加えることによって、集客数をかなり正確に予想できるのです。にもかかわらず、テナントが需要予測と無関係に店を開けるなどしていたため、さまざまなロスが出ていました。

 今シーズンはテナントをすべて廃止したうえで、例えば、嵐で集客が少ない平日はオペレーションを縮小。晴天の週末ならばオペレーションを拡大する体制を徹底しています。ここでもポイントは日帰りスキー場として選んでもらえるかどうか。このため、スキーに不可欠なリフトは天気にかかわらず稼働させる一方、オープンするレストラン数などは柔軟に変更。スキー場選びに関係のないことをシンプルにしています。

 選んでもらううえで重要なアクセスでは、インターネット上のサービスを充実させています。ホームページにはさまざまな新しい機能を追加。前売り券もホームページ経由で購入できるようになりました。アクセスは雪や天気と違い、運営サイドでさまざまな取り組みができる以上、顧客の利便性を高めながら、運営効率も上げています。

 さらに言えば、これまでは事前に公開した開業日にこだわるあまり、気温が寒くなる前であっても降雪機を稼働させ、開業日に間に合わせようとしていました。しかし、無理をしても選んでもらう理由につながらないため、今シーズンはこれを止めました。一方、日帰りスキー場として選んでもらうため、ゲレンデのスノーボーダー向けのパークはさまざまな技術を持つ人に楽しめるように工夫を加えました。

 アルツ磐梯は震災後、赤字が続いていました。しかし、今シーズンは主体的に本気で取り組むことによって黒字化を見込んでいます。さらに、この黒字は次の投資につながります。投資家がついてくれないからといって投資をあきらめるのでなく、必要な資金は自力で調達。風評被害を克服するために取り組みます。

 実は今シーズンやっていることは、これまでずっと考えてきたことでもあります。私は専門分野が宿泊施設の運営。スキー場については開業以来のスタッフの意見を尊重してきた面があります。スキー場のスタッフには「スキー場とはこういうものだ」「開業以来こうやっている」という固定観念、習慣があり、そこには「だから正しい」という説明がついていました。

 スタッフの説明は、事実として存在しているのだと思います。一方で私は「なんとなくおかしいな」と思う面がずっとありました。このため議論を十数年続けてきましたが、今シーズンは再再生を図る以上、「1シーズンでいいからおかしいと思うことを、私の言う通りやってほしい」と取り組んでいます。風評被害を自分たちで乗り越えるために、これからも全力であたります。
[日経電子版2017年2月23日付]

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