子どもたちへのDVを防げ! フィンランドの「ネウボラ」とは?
僕ら流・社会の変え方(25)
最近、子どもたちへの虐待のニュースが連日、目に耳に飛び込んで来ます。2月末にも、札幌市で34歳の父親が生後6カ月の次男を虐待するという事件が起きました。厚生労働省によると、平成27年度中に全国208か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は103,260件で、これまでで最多の件数となったとのことです。
増え続ける虐待に、国も対応を迫られています。目安とされてきた「人口50万人に1カ所」では増加する虐待の相談に対応できず、昨年には児童福祉法を改正し、もともと都道府県と政令市に最低1カ所の設置が義務付けられていた児童相談所が、特別区(東京23区)でも任意で設置できるようになりました。
先日、僕は『18歳からの選択』(フィルムアート社)を一緒に書いたNPO法人僕らの一歩が日本を変える。代表の後藤寛勝くんとともに、子どもの貧困が少なく、子育てしやすい国として有名なフィンランドを視察してきました。保育園・プリスクールや「レイッキプイスト」と呼ばれるフィンランド版の子ども食堂を訪れ、施設で働く人たちとディスカッションしたり、現地で暮らすお母さんにお話を聞いたりしたりして、多くを学びました。
ここでは、そんなフィンランドで児童虐待を防ぐのに機能している「ネウボラ」という仕組みに特に注目しつつ、今後、日本の自治体ではどんな取り組みができるか、また僕たちにできることは何かを考えてみたいと思います。
フィンランドの進める「子ども第一主義」
フィンランドは1948年に、年金などの制度を整える前にいち早く児童手当を導入するなど「子ども第一主義」を貫いてきました。特に、(1)親の経済格差を子どもに引き継がないこと、また、(2)親の育児のみに頼らず社会全体で子どもを見守ることを大切にしてきました。保育園は、仕事をしていれば原則誰でも入れますし、プリスクールから大学までの授業料は無料。医療費も公立の病院なら17歳までは無料です。
「レイッキプイスト」と呼ばれる子どもの遊び場は有名です。首都・ヘルシンキには65カ所あり、「子どもたちにとって最も安全な場所」として市営で運営されています。施設の中も外もきちんと管理されており、子どもたちはその中で年齢に関わらずのびのびと遊ぶことができます。ここで何をして過ごしてもよいのですが、基本的には外遊びが推奨され、専門学校を卒業したお兄さん・お姉さんによって毎日、何かしらのアクティビティが企画されています。
戦後につくられたこの施設は、当時からシェルター的な意味合いがありました。食べ物を満足にとれない子どもたちに市が軽食を与え、子どもたちは思いっきり体を動かして、健康な体をつくります。今では、6月から8月までの長い夏休みの間、0歳から16歳までの子どもたちは毎日、ここに来れば無料で昼食を食べることができるといいます。日本では、長期の休み中、家で十分な食事を取ることができず、休み明けに痩せて登校する貧困家庭の子どもたちが問題になりますが、ヘルシンキでは、こうしたことが起きないよう、予防的な措置がとられているのです。
ネウボラで虐待の予防
さらに近年、他国からも注目されているのが「ネウボラ」と呼ばれる、子育てに関するアドバイスの場です。ここでは、妊娠期から就学前までの子どもの成長・発達の支援や家族全体の心身の健康サポートを目的として、毎回30分から1時間かけて親子に検診や相談が行われます。表向きは育児のサポートがメインですが、実はここにも「予防」的な観点が多分に含まれています。
近年、フィンランドでは出産後の環境の変化で、産後うつ、アルコール中毒、DVなどの問題を起こす夫婦の増加が問題になっているといいます。問題を早期に発見するために、行政の機関が子どもや親の状態を定期的にチェックし、少しでも異変があった場合には指導、また児童相談所などへ送る体制が整えられているのです。さらに、4歳児検診では発達の遅れなどをチェックし、明らかに異常がある場合には、専門機関にかかるように勧められます。他国でも子育てをしていたというお母さんに話を聞くと、「発達障害児へのケアが手厚くてとても助かった」ということです。
世田谷区でも、フィンランドの取り組みを参考として、妊娠期から子育て家庭を支える切れ目ないサポート体制の充実に向けて、「世田谷版ネウボラ」を開始しました。平成28年から各総合支所で、保健師に加え、母子保健コーディネーター、子ども家庭支援センター子育て応援相談員とともに「ネウボラ・チーム」を発足し、妊娠期の面接相談を行っています。医療や地域と連携し、就学前までの子育て家庭を切れ目なく支える独自のネットワーク体制の構築をめざすということです。
日本の自治体では、子どものために貧困や虐待を防ぐための様々な施策が行われており、一定の評価はできますが、予防的な措置についてはもう少し包括的に行うべきだと感じています。今後は、本場フィンランドで、また世田谷で行われている「ネウボラ」の仕組みも参考に、ワンストップの窓口を確立し、子どもたちや子育て家庭を切れ目なく支えることができる体制を整えるべきだと思います。
社会との関わり方を教えるフィンランドの教育システム
ところで、子どもをめぐる環境を整備し、安全・安心な子育て環境を整えているフィンランドですが、見学させていただいた保育園にせよ、レイッキプイストにせよ、共通していたのは、「子どもたちが社会で自立して生きぬくための方法を教える」とする考え方がはっきりしていることでした。保育園・プリスクールのプログラムは全国共通したものですが、園ごとに細かい教育方針は異なっています。何より、子どもや親にどうなりたいのか・どう育てたいのかを聞き、それに従った教育が行われることがポイントです。例えば、お絵かきが得意でその力を伸ばしたいなら、それを中心に据え、絵画の手法などを教えていきます。外遊びが好きならいろいろな遊び方を教えます。学ぶ言語だって選べます。
ここでは「playing(遊ぶこと)」「moving(動くこと)」「investigating(調べること)」「making art(アートをつくること)」の4つのプログラムに従って様々なことを教わりますが、「大切なのはすべてを学ぶことではなく、そうした作業を通じて他人とどう協力するか、また一人ではなく他人の力を借りてどうやって何かを成し遂げるかを学ぶことだ」(園長先生談)といいます。
レイッキプイストなどでも同様でした。教えるのは社会の中で生きるためのコミュニケーションのやり方。友だちのつくり方、いじめやからかいに対処する力、挨拶の仕方などを学ぶことを通じて、子どもたちは自立し、もし何かあったらすぐに社会に助けを求められるような状態をつくっているのです。
増え続けるDVに僕たちはどう立ち向かえるか
増え続けるDVに対して、これまで有効な対策をとれなかった日本。しかし、虐待は僕たちにとっては身近で、とても深刻なものです。逆に言えば、僕たちの方が、解決のためのアイデアを考えやすい立場にいるとも言えます。将来、教師になる、文科省に入って教育制度を変える、子育ての新しい仕組みを考える、ITで子育て中のお父さん・お母さんのサポートをする、虐待防止のNPOをつくるなど、取れる方法はたくさんありそうです。フィンランドの仕組みなども参考にしつつ、みなさんとともに今後も議論し、アクションしていければと思います。
「子どもにやさしいフィンランドは常に「チルドレンファースト」」(『AERA』2016年7月4日号、朝日新聞出版)
NPO法人グリーンバード代表/NPO法人マチノコト代表/港区議会議員(無所属)/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程に在籍中。早稲田大学大学院修了、広告会社の博報堂を経て現職。まちの課題を若者や「社会のために役立ちたい」人の力で解消する仕組みづくりがテーマ。第6回、第10回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。著書に『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)、『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(フィルムアート社)。
HP:http://www.ecotoshi.jp
Twitter: @ecotoshi
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