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[ skill up-自己成長 ]

五行歌の世界(3)自分の信じる道があるなら
保険会社から詩歌と関わる仕事へ

吉野佳苗 authored by 吉野佳苗
五行歌の世界(3) 自分の信じる道があるなら 保険会社から詩歌と関わる仕事へ

 こんにちは。吉野佳苗です。最終回では、社会人になってからの活動を中心にお話しいたします。

 大学卒業間近に、詩歌を発信するためには朗読がいいのではないかと思い、ネットで調べて朗読検定の存在を知りました。そして朗読家の葉月のりこ先生が開いている教室に通い始めました。

 検定の内容は、日本文学の知識の筆記試験と、早口言葉や『地獄変』、『山椒大夫』といった作品の朗読などです。朗読はとても楽しく、詩や五行歌作りにも良い影響があるのではないかと、練習に力が入りました。

自費出版を目指し、保険会社に就職

保険会社での経験は、今の私を形成する上でなくてはならないものでした

 「自立したい。けれど詩歌だけでやっていく自信がない。一生懸命働いてお金を貯めて自費出版しよう」と考えていた私は、就職活動を経て、保険会社に入社しました。

 配属されたのは営業店でした。毎日覚えることが大量にあり、メモも追いつかないほど忙しく、電話対応も下手で数々のミスをし、本当にダメな社員でした。色々な人に怒られる毎日、仕事が終わらず残業。学生時代のアルバイトも辛かったですが、比べ物にならないほどで、もう辞めたほうがいいと何度も思いました。しかし、教えてくださる先輩方に恩返しするためにも、仕事で役に立てるようになりたいとも思っていました。すると周りの人のおかげで少しずつ仕事を覚えられるようになり、2年目、3年目には営業殊勲賞という賞をいただくことができました。

 その間、五行歌は書き続けていました。新聞に掲載していただくことが増え、もっともっと力をつけたいと思いました。下の歌は、仕事終わりに電車に揺られながら作ったものです。

  手からまっすぐ飛び立ち
  夜空の鐘を鳴らす
  打ち上げ花火は
  流れ星を
  空に還す儀式

『五行歌』の同人へ

『五行歌』では、作品評や書評を執筆する機会があります

 社会人1年目のときに、詩歌だけではなく他の分野にも目を向けてみようと思い、作詞を学べる学校に体験入学しました。また、フリーの作詞家の方にも会いに行き、お話を伺いました。2年目は、俳句を学んだり、絵本大賞に応募したり、「弟子にしてください」と詩人の方に手紙を書いたりしました。とにかく、どこかに糸口が見つからないかと必死だったのです。そして3年目。五行歌の会が主催する草壁焔太先生の講演会があると案内をうけ、聞きに行きました。そこで草壁先生と初めてお会いし、月刊誌『五行歌』に参加させていただくことになりました。五行歌を始めて9年目でした。

 草壁先生とお会いする中で、五行歌の出版社で仕事をすることを勧めてくださることがありました。家の事情により、残業が少ない部署に異動させてもらうか、転職するかと考えていた時期でした。友人や先輩に相談しアドバイスをいただく中で、「人生の軸は何か」という目線で考えてみようと思いました。これまで何を優先させてきたか。それはやはり詩歌でした。もっと五行歌に触れていたい、そう思いました。必死で考え抜いた結果、最終的に五行歌の出版社で働かせていただくことに決めました。

 今まで独学で文章を書いていたので、技術を身に付けたいと思い、2015年に宣伝会議のコピーライター養成講座で学びました。翌16年には、葉月先生主催の「かなでる×かたる」というイベント内の朗読劇、「銀河鉄道の夜」に参加させていただきました。マルソという少年役とナレーションの一部を担当しました。

 同年秋に、多摩モノレールで五行歌の公募がありました。選ばれると中吊り広告として車内に飾ってもらえるというものです。約4000首の応募があり、その中から160首選ばれたのですが、そこで入賞することができました。また同時期から、2人の詩人の方が講師の「日曜詩人学校」に参加しています。最後の授業として、自作の詩を朗読するイベントに出演します。

 今までの人生で、詩歌に助けられたことが何度もあります。私は五行歌を書くとき、同じように悩んでいる人が、歌を読んで共感し、自分は一人じゃないと思ってもらえればと願っています。また、日本の風景、文化的なものを写真のように切り取って、読んだらそのイメージが浮かぶような歌を書きたいと思っています。歌を通して、改めて「日本語って美しいな」、「日本って良いな」と読み手に感じてもらえたら幸せです。

 それから、草壁先生がよく「人柄がいい歌を書かせる」と仰います。吉野佳苗という人、もしくは生き方が良いと言ってもらえるような人に、五行歌を通してなれたらいいです。そして五行歌を一緒に書いていってくれる人が一人でも増えてほしいと思います。

自分の信じた道があるなら...

目の前のことをひとつずつ丁寧に取り組み、次につなげていきたいです

 個人的な目標は、自分の歌集を出すことです。小説と違い、詩歌集は売れないと言われます。しかし、失われてはいけないものだと思います。

 毎日必死で生きていますが、今後どうしていくべきか不安もあります。でも人生は一度きり。後悔が残らないようにしたいです。自分の信じた道があるのなら、がむしゃらに泥臭く頑張ってみるのもいいのではないかと思います。

 いたって普通の人生を送ってきた私の話でしたが、文学の道を志している方もそうでない方も、これを読んで少しでも前向きに何かしようと思っていただけたら嬉しいです。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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