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[ career-働き方 ]

クロネコの「習性」、
過剰サービスを見直す好機

クロネコの「習性」、過剰サービスを見直す好機

 日なたぼっこが好きと思えば、狭くて暗い部屋も好き。

 集会を開き、モミモミマッサージをする。

 外出先から変なモノをくわえて帰ってきてお土産のように飼い主にあげるようなしぐさをすることもある。

 猫を飼っている人なら変わった習性を目にすることはあるはずだ。

生活者目線で最強の宅配事業者に

 クロネコヤマトの宅急便で有名なヤマト運輸も、少し変わった習性がある。そして、その習性こそがヤマト運輸を最強の宅配便事業者へと押し上げたといってもいい。それは、お金を払ってモノを送る荷主よりも、お金を払わない受け取り手(送り先)の事情をより考えるという習性だ。生活者目線といったほうがいいかもしれない。

 時間帯別の配達指定、再配達の要望も直接ドライバーに電話をかけることもできる。どちらもお金を払っていない受け取り側のサービスだ。このお金を払わない側に寄り添った経営について持ち株会社(ヤマトホールディングス)の社長だった木川真さん(現会長)に聞くと、こんな答えが返ってきた。「お金を基点に事業を組み立てると独りよがりな取り組みになりがちになるのですよ」

ヤマト運輸の荷受量抑制には消費者もおおむね理解を示している

 宅急便にはこんなしかけもある。「ご不在連絡票」には猫の耳のような切れ込みが入っている。目の不自由な人でも「ヤマトがやってきた」ことがわかるための気遣いだ。

 宅急便の生みの親、小倉昌男さんが執筆した「私の履歴書」にはこう書かれている。「サービスが先 利益は後」。生活者目線の取り組みの積み重ねが宅配便シェアで5割近く握るまでになったのだ。

 そんなヤマト運輸がネット通販などで急増する荷受量の抑制に向けて労使間で話し合っていることが先月、明らかになった。利用者にとっては利便性を損ないかねない事態だが、ネット上ではヤマトが直面している問題について理解を示す内容の言葉が飛び交った。「大変だもの」「しょうがないよ」「宅配ロッカーやコンビニで受け取ればいいし」「再配達は心苦しかった」「便利すぎたよね」「我々も少しは反省しないとね」「お疲れさま」などが目立ち、反対意見は多くはなかった。

 日ごろ、大きなニュースの後にネットでの反応を見るのを習慣にしている筆者はもっと先鋭的な反対意見が多いと思っていたので意外な反応だった。おそらく、これまでのヤマトのきめ細かなサービスのありがたみを感じながらも、「(無料で)そこまでしなくても」と思っていたのではないだろうか。

「明日来る」アスクルにも同情

アスクルの倉庫火災に伴う配送遅延も同情する声が多い

 利用者がヤマトの窮状に理解を示したことは同社にとってサービスの見直しの好機だろう。「利便さとは何か」を今回のニュースは我々に考えさせるきっかけになる。そろそろ利用者側が「猫への恩返し」をしてもいい時期にきているのかもしれない。

 時を同じくしてネット通販大手、アスクルの倉庫火災のニュースがあった。アスクルの社名の由来は「翌日配送、明日来る」から命名された。同社にとって大変な被害となり、利用者にも相当な迷惑がかかったが、やはりヤマトと同様にネットでは同情の声が多かった。多少の不便への耐性は日本の生活者に芽生えつつある。我々の便利さになれてしまった習性が変わらなければいけない時期に来ているのだろう。
(編集委員 田中陽)[日経電子版2017年3月2日付]

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