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[ skill up-自己成長 ]

マジシャン大学生(23)苦しい時こそ、自らを奮い立たせる
~信念となるような軸を自分の中に持つ

森屋志政 authored by 森屋志政
マジシャン大学生(23) 苦しい時こそ、自らを奮い立たせる~信念となるような軸を自分の中に持つ

 国内大会優勝、アジア大会日本代表、NYの会員制の舞台でのパフォーマンス、マジックのアジアチャンピオン。結果として掴み取ったものだけを並べると、ぱっと見は輝かしい実績を積んだマジシャンと映るかもしれません。

 ただ、人の目に触れるような綺麗な面ばかりでは済まされなかったのが私のマジシャン人生でした。大学入学からの6年間、どちらかというと思い通りに行かずに悩み続けた時間の方が圧倒的に多かったというのが事実です。今回は苦しい時にどのように自分を奮い立たせていたか、という視点から執筆を試みたいと思います。

挫折からの立ち上がり方こそ重要であるということ

 若い時に早めに挫折を経験しておいた方が良いという言葉を聞いたことがある方は多いと思います。私もこの意見には賛成なのですが、1つ間違えてほしくないのは挫折を経験することが重要なのではないということです。挫折を経験した際に、どのようにして自分が立ち直ってきたのかを知ること。これこそ挫折を経験する醍醐味だと考えます。

 挫折を経験するということは、「自分の出せる全てを総動員して」なんらかの勝負所で「真っ向から勝負して負ける」ということだと私は解釈しています。この解釈に沿っていくと、挫折を経験するとは、すなわち今の自分の能力値では超えられない壁が目の前に出現するということだと言い換えることができます。目の前に立ちふさがる壁をどう乗り越えるか。これこそ今の自分から1段階上へと飛躍するチャンスということができます。

どれだけ励まされようとも、最後は自らの足で立ち上がらなくてはならない

 よく、失敗や挫折を経験すると、友人をはじめとする周りの人々が優しい言葉をかけてくれることがあります。優しい言葉をかけられ続けていくと、やがて沈んでいたテンションが徐々に回復していき、なんとなく元気になり、また頑張れそうだ、そう感じることがあると思います。

 しかし、ここで考えて欲しいのは、あくまで彼らはフォローしてくれているだけに過ぎないということです。もちろん、フォローしてくれるだけでも相当有難いことですが、それで安心してしまってはならないのです。その時点では挫折を経験している当の本人の中で何1つ成長している要素がないからです。

 私は当時から挫折して気分がどん底に落ち込んだ時こそ、自分に言い聞かせていた言葉があります。それは「優しい言葉をかけてくれる人は世の中にたくさんいる。しかし、こういう時に厳しいことを遠慮なく言ってくれる人を大切にしなくてはならない」ということでした。人は慰められることによって成長することができる生き物ではありません。傷口に「かさぶた」ができるだけで、元の自分とは何も変わっていません。

 今の自分では「勝てない」ということをはっきりと自覚し、その上で何を修正するかを自らの手で掴む必要があります。あえて厳しいことを言ってくれる方の意見は、そのきっかけを与えてくれることが多いのです。だからこそ、そういう人を大切にすることは重要である。そう私は考えます。

 どれだけの人に何を言われても、最後に立ち上がるためには自分の意思が不可欠。最後は自分の力で立ち上がらなくてはならない。そう思うようになってからは、時間は多少要しても、挫折からもう一度立ち上がって勝負に臨めるようになりました。

4Fのホテルロビーでの1コマ。マジシャンで知らぬ人はいないであろうフランス・スペインが誇る巨匠を前に、直接マジックを披露できる機会がありました

自分が最前線を走るのだという意識

 かつて、周りのできる人が100%の努力をしているなら、同じように100%努力したところでそのギャップは埋まらないということを小さい頃によく言われました。そのせいか、人が100の努力をするなら120の努力をしないと競争には勝てないのだと本気で思ってしまう性格をしていました。

 正直なところ、マジックを1人でずっとやっていた頃(中学生~高校生)までは周りにマジシャンがいなかったこともあって、自分こそ若手で一番うまいマジシャンだと自負していました。独学でマジックを始め、高校では同好会を0から立ち上げ、文化祭では延べ700人の観客の前でマジックを披露してきた経験もありました。

 ところが大学生になって初めて比較的大規模なマジシャンの集まりに顔を出してみるとどうでしょうか。自分よりも年下の少年がコンテスト受賞者だったり、難易度の高い超絶技巧を軽々とこなしたりしているわけです。そんな光景をまざまざと見せられて、それまでの自分が恥ずかしくなると共に、このままのペースでは周りに追いつけないどころか、置いていかれるかも知れないと感じ、猛烈に練習をしたのを今でも覚えています。

 さらには、自分よりも若い子がコンテストに挑戦して賞をとっているのだから、俺だって負けていられない。初出場で絶対に初優勝を飾ってやる! そう思って挑戦したのが初めてのコンテストでした。上がいるなら超えてやろうじゃないかというアグレッシブな性格が結果的には私の挑戦を後押ししてくれていたのだと感じます。マジックの世界の中で若手の筆頭として、この世界の最前線を突っ走りたい。ただその想いだけで駆け抜けてきたのだと思います。

 また、こうした意識を持っていると良いことがもう1つありました。それは自分の行動1つひとつが正されていくということです。これは最前線を走るということはそれだけ注目を浴びることになるわけですから、振る舞い方や行動1つとっても悪い意味で目立つような行動を取るわけにはいかなくなるということです。後輩の世代にとってお手本となれるような、そんなマジシャンでいようと考えると背筋が伸び、挑戦の後押しになってくれるのでした。常に広い世界へ目を向け続けながら、現状に満足しすぎることなく、挑戦をし続けることで、それまでの自分には見えていなかった景色が見えるようになると考えます。