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お悩み解決!就活探偵団2018ソフトバンクも参入
就活「逆求人」最前線

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 ソフトバンクも参入就活「逆求人」最前線

 企業の採用に向けた広報活動の開始と同時に、「マイナビ」「リクナビ」といった就活支援のナビサイトもオープンした。就活といえば、こうしたサイトで志望する企業を探し、イベントや説明会にエントリーするのが基本だったが、そんな常識が変わりつつある。企業と就活生の立場が逆転する「逆求人」だ。ベンチャー企業だけでなく、大手でも取り入れる動きがある。

学生1人に企業8社

 2月上旬の土曜日。窓から東京スカイツリーを望む東京・墨田区内の会議室には40人の就活生が机を並べて座っている。そこにまるで面接を受けるように対面の座席に張りついているのは、イベントに参加した23社の採用担当者たちだ。普通の企業説明会は、会場に企業がブースを出し、就活生が思い思いのブースにおもむいて説明を聞くが、このイベントでは全く逆。企業の担当者は、名簿を片手にめぼしい就活生の席に訪れて、就活生の自己PRなどを聞く。「優秀な学生を求ム」ではなく、「私を必要とする企業を求ム」――。日本語としてはおかしいが、こうしたイベントは「逆求人」と呼ばれる。

イラスト=篠原真紀

 「あなたの研究にほれ込みました。その技術と熱意を我が社のサービスに生かしてくれませんか」。不動産情報のネクストの採用担当者は、慶応大学大学院の男子学生Aさんの大学院での研究テーマを聞くと、こうラブコールを送った。Aさんは、「正直、不動産サービスの企業への就職は考えたことがありませんでしたが視野が広がりました。ぜひ会社訪問したいですね」と余裕の表情で答えた。

 この日は「IT(情報技術)エンジニア」志望の就活生が集まる日。九州大学、東北大学、広島大学など、地方の大学からも就活生が集まった。就活生は企業の担当者と1対1で話す25分間の面談を複数回繰り返す。「人気」のある学生の場合、1日で最大8社との面談をこなす。九州大学修士1年の男子学生Bさんは「1日で複数の企業の話が一度に聞けるのがありがたかった」と満足した様子で、飛行機でとんぼ返りしていった。

2月上旬に開催された「逆求人フェスティバル」の様子。「ITエンジニア」志望の学生が集まった

 ソフトウエア開発を手がけるワークスアプリケーションズ(東京・港)の担当者は、「研究室にこもっていても簡単に大手企業の教授推薦をもらってしまうような優秀な人材が見つかる。そんな学生と直接話ができる点は大きなメリットだ」と話す。企業や就活生の要望は毎年増えており、主催するジースタイラス(東京・文京)は2~3月を中心に年間で60回以上のイベントを開催する予定だ。

スマホに企業のオファーが月10本

 就活の逆転現象が起きているのは、イベントだけではない。ネット上の就活サービスも「逆求人」が広がる。JOBRASS(ジョブラス)、OfferBox(オファーボックス)、キミスカなどのサイトが代表例だ。学生時代に取り組んだことや持っている技能、自己PRなどのプロフィルをサイトに書き込み、写真を送信する。採用担当者は、学部や志望業界などで絞り込み、目当ての学生に「説明会に来ませんか」「面接を受けませんか」と打診する。マイナビやリクナビとは逆に、企業側が就活生に声をかけるのだ。

 就活生にとって実に都合のよいサービスに見えるが、あながちサイトのセールストークは誇張でもないようだ。3月に立命館大学を卒業し、都内の中堅システム会社に就職する女子学生Cさんは「月に10本はスカウトが届いていましたね。ほかのナビサイトは捨てて、これ1本で就活しました」と涼しい顔で話す。

 Cさんが逆求人サイトのキミスカを使い始めたのは3年生の終わり頃。登録した瞬間に自己紹介文を見た企業からメールが届いた。当初は玩具業界を目指していたが、いろいろな企業からの提案を受け、面接などを重ねていくうちにIT企業に志望を変更した。最終的には内定を2社獲得。面接で「運命を感じた」というほど良い印象を受けた中堅システム会社への入社を決めた。

 専修大学3年の男子学生Dさんはサッカー部の先輩から「とりあえずコレはやっておけ」とオファーボックスを薦められた。「早い時期に人事の人と話す機会を持てるので、就活が本格化するまでに良い準備になるぞと聞きました」。既に10社ほどから面談を打診するオファーが届いており、先輩の言葉は正しかったと実感したという。

ソフトバンク「今後は技術者採用でも」

3月に立命館大学を卒業するCさんはキミスカを利用して2社の内定を獲得した。プロフィルを充実させたことで月に10本ものオファーを受け取った

 オファーボックスを運営するアイプラグ(大阪市)の中野智哉社長は「学生同士の口コミで、企業と密接なコミュニケーションが取れるという評判が広がっている」とみる。2017年卒の登録学生数は4万1000人。18年卒の学生は2月中旬の時点で3万6000人に達しており、就活シーズンが本格化するにつれて7万~8万人まで増える見通しという。キミスカも前年の2倍、ジョブラスは1.2倍のペースで推移している。

 逆求人は採用にコストをかけられないベンチャー企業がその利用の中心だった。例えばオファーボックスの場合はITベンチャー企業の比率が高く、非上場企業が全体の85%を占めている。だがここにきて大手にも動きが出てきた。

 ソフトバンクは今シーズンから試験的にオファーボックスを使い始めた。同社では、一般採用のほかに「No.1採用」という枠を設けている。スポーツ、勉強、趣味など学生時代の取り組みで「No.1」を取った経験をアピールすることで内定を勝ち取れるというものだ。従来は就職説明会やウェブサイトの告知でNo.1採用の候補者を集めていたが「もっと多彩な経験を持つ学生に挑戦してもらいたい」(採用・人材開発統括部の西村一駿氏)としてオファーボックスの活用を始めた。西村氏はオファーボックスの検索機能で「No.1」「一番」「首席」といったキーワードで候補者を探し、既に10人ほどと面談をした。既にそのうちの半数以上がNo.1採用に応募している。西村氏は「今後は技術者の採用でも利用を検討したい」と話す。

 従来のナビサイトから、「逆求人」へ。この波はどの程度広がるのか。今回の取材の過程では、ある学生が気になる証言をしてくれた。

工学院大学修士1年の男子学生Eさんは、毎日研究室に通う忙しい日々の中、オファーボックスで就活を進めている

 「マイナビやリクナビからもメールが送られてきますが、内容がテンプレート的です。選考も学部も関係なく、学生をたくさん確保するために企業が利用している印象。ほとんど読まずにスルー状態です」(工学院大学修士1年のEさん)。Eさんも逆求人サイトのヘビーユーザーだ。

 キミスカで内定を勝ち取ったCさんも、「ナビサイトで自分の狭い興味の範囲内で志望業界や会社を選ぶのはどうかと思う。世の中にはもっといろんな企業がある」と話す。

 マイナビの栗田卓也HRリサーチ部部長は、「(逆求人は)やはり、自分に自信のある子のものだと思う」と話す。ネットが普及し学生のリテラシーも高まったため注目されているが、「昔から一定の割合で能動的な学生はいて、今もそういう学生が使っているのでは」(栗田氏)との捉え方だ。マイナビの昨年3月1日時点の登録者数は約57万人。逆求人サイトの利用者より一桁多い。

就活をオープンにしたナビサイト

 ナビサイトが広く普及したのは2000年代前半。就活のあり方を大きく変えた。それまで就活は、有名大学でないかぎり「大手企業を受けたいけど、リクルーターには会えないし、資料請求をしてもなしのつぶて」という泣き寝入りが聞こえる閉鎖的なマーケットだった。それを「就活生の誰もがどの企業にでもアクセスできるオープンな市場に変えた」(人材研究所の曽和利光氏)のがナビサイトだ。

2月中旬に開催された「オファーボックスパーティー」。就活生と企業の採用担当者が直接対話できる(東京・渋谷、シアターサイバードで)

 一方で、オープン化は、企業にとってみれば選考の非効率化という副作用につながった。有名企業には何万人という応募が殺到し、選考にかかる手間が増える。そこに就活の短期化が加わり、「旧来型のリクルーターが復活したり、第3の道として逆求人サイトが利用されている」と曽和氏は分析する。

 逆求人が、就活をかつての閉鎖的市場に先祖返りさせてしまう心配はないのか。ジョブラスを運営するアイデムの佐川好司マネージャーは、「確かに人気学生に集中するという傾向はある」と前置きしながらも、「就活生が入力するプロフィルを充実させることで企業からのオファーを増やすことはできる」と指摘する。ジョブラスの場合、プロフィル欄の60%ほどを埋めている平均的な就活生がシーズンを通して受け取るオファーは4.3通。これを75%以上に高めると22通に増えるという。

 逆求人を利用したいという就活生は、まずは腰を据えてプロフィルを充実させる必要がありそうだ。曽和氏は「当たり障りのない内容にせず、人物像や特徴を物語る『尖った』内容にすることを勧める」とアドバイスをする。並み居るライバルの中で埋もれないためというだけでなく、その尖った部分に魅力を感じて接触してくる企業であればうまくマッチする可能性も高い。

 「逆求人で声がかかるのを待っているという受け身の姿勢はいかがなものか。我々は愚直に働く場所を選ぶ人材が欲しいね」。有名メーカーの採用担当者はそう突き放す。だが就活生にとって、限られた期間の中で情報戦を勝ち抜くためにきれいごとを言っている暇はない。今利用できるツールを最大限に使い乗り切るしかない。
(松元英樹、岩崎航、松本千恵)[日経電子版2017年2月23日付]

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